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3-1 焚書

三章プロローグ

 世界の英雄(イーゼ)

 この世界ホイシャルワールドは四つ地域に分けられる。

イストール地方、ベシャリブ地方、アチャメリア地方、シャトラキ地方。

それぞれ人間が住む四大陸ごとに名付けられている。そして地方ごとの巨大な四勢力が大きく力をつけ、時には戦争を行うほど衝突し、相成れない拮抗状態が続いた。

 先の動乱で各勢力をまとめ上げ、長く続いた対立を集結。

学者が口を揃えて、歴史上平和な時代が到達したと言う。


ホイシャル連盟の登場である。


 この歴史的な流れの立役者が、「世界の英雄」である。

 ※実の名前は、慣例に従いこの場で記述しない。


(「世界の英雄とは?」より抜粋)




○バイチーク港 某倉庫区画


「許せないな。“世界の英雄”をこんな駄文で侮辱するなんて」


 手に持った本を火に燃やした。


 バイチークは古来より木工が盛んだ。

 男の燃やしている燃料用の切れ端は、容易に手に入れることが出来る。

 そこから製紙産業も発展した。


 港の倉庫街の一角にその人物はいた。

 深夜。

 大陸有数の大規模な港とは言え、他に誰も気配が無い。

 船乗りの客で賑やかな酒場からは離れている。

 誰からも、その男の存在を認識する者はいなかった。


 男が燃やしていたのは、何冊もの“世界の英雄”について書かれた本。

 世界トップクラスの出版数を誇るこの街で売られている“世界の英雄”に纏わる本の数々だった。

 山のように積んでいる書籍の山を次々と火へ、くべていく。


 辺りには、紙の、黒く焦げた灰が舞う。


 男は、身体を浮かせた。

 浮遊魔法。

 身体全身の魔力をコントロールし、空を自由に駆け巡る。


 魔力の才能だけで無く、身体能力も要求する高度な技だ。

 習得にも、困難極める。




 男の眼下には、バイチークの街が広がっている。

 

 無血の四都の1つ。

 各大陸に存在する。それぞれ1番の国力を持つ首都を指す。

 大陸ごとの勢力が睨み会いは起きるにせよ、“無血の四都”に対してまで攻め込むことは無かった。

 先の動乱までのことだが。


 男は、その街に手を広げて伸ばした。



「あんな劣悪な紙如きに“英雄”を述べる資格無し。

 あのお方へ、世界は膝をついた。

 “世界の英雄”を称えよ。讃えよ。湛えよ。

 我が身、我が心に満たされる“恩恵”が

 汝の導きに答えるまで!」


 そして掴んだ。









○翌日


「もぬけの殻か」

「探せ!」


 そうした様子を見て、守護隊の1人がため息をついた。


 深夜、大きな反応が、港の倉庫の一角で反応した。


 世界中で悪事を働いているお尋ね者の情報を守護隊は把握していた。

 バイチークのどこかで潜伏しているのだ。


 今回は、その疑惑の人物がいると考えていた。


 ここには、何かを焼いた跡しか見当たらなかった。

 生活は充分していたようだが、その他の痕跡は無かった。


「ここで、“英雄”の本が燃やされたようです」

「バカな。あいつは過激な“英雄狂信者”だぞ。

 そんな焚書を許すはずが無い」


「多いよなー。最近」


 1つのまったりした声が注目を集めた。

 悪い悪いと言いつつ、その人物はゆっくりその場から離れた。


「他大陸の冒険者ギルド基準では、Sクラスの大物か」


 男は、懐からタバコを取り出そうと手を入れた。

 丁度その時、後ろから鈍い衝撃があった。

 触ると冷たくて、固いものが胸から生えていた。


「単身で無双するべき心得その一。

 司令官を最初に叩く」


 男は、刀を抜いた。

 彼の手にしているのは、異世界出身者が大変好む日本刀。

 これは、“世界の英雄”も例外では無かった。


「マッさん!」


 男はどこから現れたのか、誰も分からない。


 だが、そこに脅威として存在する。


 身体を貫かれた隊長は、よろよろとバランスを崩した。

 もう助からない。

 隊員が反射的に剣を抜いたのは、訓練の成果だ。


 全く叶わないことを知らないで。

 男は、無謀な雑魚どもの滑稽な姿に苦笑をこぼした。




 バン!


 大きな足音を立てた。


 全員が注目を集めた瞬間、隊長の回し蹴りが男の顎に炸裂した。

 そのまま宙を描き、倉庫の壁に激突した。


「あー。やられた。やられた」


 誰もが唖然とする中、蹴った本人はケロッとして健在だった。


「マッさんが蘇った!」

「うわ! 顔が崩れている!」

「化け物かよ?」

「安心しろ。本物は、孫の財布として街で遊んでいる。

 休暇を楽しませてやれ」


 その言葉は通じていないようだった。

 中年管理職では、まずあり得ない動作にパニックに陥っていた。


「ネイキッドスタイル。これで私の正体は分かっただろ」


 ギャラリーとなっている守護隊に、本来持っている魔力で威圧した。

 ここにいる全員が、変装していた上司の正体に驚愕した。


「マ!?」「嘘だろ」

「分かったなら、ここを閉鎖して場所を確保しろ。

 サシでこいつに対抗できるやつは俺しかいない」


 守護隊は走り去っていった。



 丁度、蹴られた男は立ち上がった。

 変装した者に対して怒鳴った。


「ボットォ!」

「久しぶりだ。“英雄”ストーカー。

 いつかのようにボット “さん”と言ってくれないのか」

「ふっ。たわけたことを……。

 あの方が導いてくれた“平和な世界”を誇ろうともしない馬鹿者如きに」


「そういうのを、平和ボケっていうらしいぞ」


 無詠唱。

 魔法の発動を瞬時に展開する方法。

 異世界出身者がお約束のように、習得していく高度な詠唱方法だ。

 世界の英雄のみならず、現在の対人戦では基本となっている方法だ。


 宣言無しで、その熱球を飛ばした。


「少年スタイル“受けて立つ!”」


 それは、ボット我流の身体強化の技。

 特に一対一の場面で使われる短期決戦用のもの。


 素手で弾き、ボットの後ろにある倉庫の屋根に穴が開いた。



属性変化(スタイル)か。変装と言い、小賢しい技しか使わないな。

 影王は、目的ならば、老人女関係なく拷問するとかな」

「先日、影王のフリをしてニルキを殺した犯罪者のことだ。

 一族もろとも、虐殺だ。容赦がない」

「へっ! あの悪党の子種もろとも処分できたならば、世界は少し良くなった!」


 生き残りが存在する。

 と言ったら、ややこしいことになりそうなので、ボットは黙っておいた。


「そう。お前みたいな勘違い“正義の味方”のようだな。

 そういった犯罪者を相手するのに、1番の研究材料だったな。

 例えば、どこに影響はあるか? 誰かが焚きつけた痕跡はあるか? とかね」


 男は、その言葉に全く反応をしなかった。


「折角、コンテンツとして広めていった“影王”のブランドに傷が付いた。

 近くで開催するバイチークの祭りでも、大人気だなのにな」


 クハハハと、初めて大声で笑った。


「ブランド? 名声? 

 貴様も、“世界の英雄”が休止中を狙って、平和を蝕む害虫でしかなかったか。

 血統は隠しきれないな。所詮権力闘争にしか興味の無いクズ」


 ボットは男の盾魔法を粉砕し、顎に強烈な鉄拳を食らわせた。


「所詮、手前の物差しで判断しないやつだ。

 『異世界出身者の能力に、論理的な判断を低下させる』というジョーの言葉は本当だったようだな。

 己の力に溺れた強者。全てに共通するとは思うが」



「どうだ。ナメル」


 ボットは、やたら反応の鈍い男に問いかけた。


「ふっ。終わりか? 影王殿(ボット)?」


 男……ナメルは、さらに挑発を続けた。


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