2-27 サクサクラの暗殺者
ケコーンは、完全にミサスを見失っていた。
辺りは、同じような種類の広葉樹やコケしか見当たらない。
他の動物は、自らの殺気で隠れられている。
遠くへ逃げられたのは濃厚だ。
唯一の手がかりであるニルキの陣地跡へ、歩みを進めていった。
「ケコーン隊長!」
聞き覚えのある声が、ケコーンを呼んだ。
勢いよく振り返ると、声は男そのものであるホッチの姿があった。
「ホッチ。どうして、ここへ来た」
「ミサス隊長の反応が途絶えました。
そちらへはサンモが行っています。
通信が届かないので、私が直接来ました」
確かにホットスポット下で、通信をはじめとした魔動器具の調子は悪い。
急いで来たのか、息が上がっているようだった。
「よし。ホッチ。これから何か策はあるか?」
「いえ。分散したら私が危ないので、一緒に行動していこうぐらいです」
ケコーンは、持っていた斧を地面に立てた。
手を離すと、バタンと大きな音を立てて、倒れた。
「クレヨはこっちだ」
斧が倒れる方へ、ケコーンは向いた。
そして、近接戦闘用にもっていた剣を抜き、ホッチに刺した。
「いい反応だ。聞こう。なぜ分かったヴァーボンの跡取り」
「普通はどんな動物や植物でも反応は出る。
隠すことは出来ても、ホッチのような全くゼロで、そこだけポッカリ穴の開いた風にはならない」
ケコーンは、姿を変えていく暗殺者に答えた。
少し問題を隠しながら。
というより、利き手に握っているはずの剣が抜けない。
よく見ると、地面から大きな植物が生えてきて、突きだした刃を受け止めていた。
本体には届いていない。ダメージはゼロだ。
右手に血まみれの“恩恵”が握られていた。
既にカリを手にかけた事実が伝わってくる。
「“男声”というのが、この突貫変装にも耐えてくれると思ったが、ここでボロが出たか。
ホットスポットの地脈からもたらされる“恩恵”は底知れないことに助けられた」
「なるほど。暗殺者は底知れぬ器用さが売りと聞くが」
「長話が終わりだ」
バン! と無詠唱でケコーンはからだを吹っ飛ばされた。
そして倒れたところを、そのまま手裏剣で刺された。
傷口から、押さえつけられるように枷を着けられた。自由が効かない。
声だけは出せた。
「一族に伝わっているサクサクラの暗殺には、一撃必殺と聞いていたが。
所詮、外道は外道だったか」
「工作も必要だ。そう考えれば、今回のターゲットは
果敢にも反逆者であるミサス・シンギザと戦い、倒れたという筋書きだ」
「そうか。本命は私の命だったか」
植物に刺さったままの剣を抜き、暗殺者は頭を掴んだ。
精神魔法を追い打ちでかける。心の恐怖を大きく揺らす。
そして、ケコーンの剣を持ち、急所を狙った。
ガン!
クレヨの持っていた剣を弾いた。
弓で弾かれたことを理解し、飛んできた方向へすぐに大きな魔弾(魔力のエネルギー弾)を飛ばし、牽制した。
「メリロイ、ザシンリー、イブタン!」
三単唱。
帝国騎士団の隊長は、靴を魔道具に替えて、目の前に飛び出してきた。
「ミサス・シンギザ」
お互いの目線が合った。
クレヨは、ミサスの剣筋を避け、距離を取った。
「遅かったな。怖じ気づいて逃げたのかと思ったぞ」
「おいおい。お探し者はあっちだぞ」
ワザとミサスは反対の方へ、視線を誘導させた。
そして、その隙を逃さず、短剣使いが狙ってくる。
クレパだ。
死の森の館での、術を使おうとしても、何も反応が無かった。
「く。術を破ったか」
「クレヨ。お前が操っているのは、血に何かしらの魔術刻印をしているから、だろ。
ならば、少しずらすだけで成立しない」
「サンモさんと! 体液の交換した!
つまりこれが性交渉!」
「ただ少しだけ噛んだところを大げさに言わないで!」
クレパは首の付け根の所にある歯形を見せつけてきた。
後ろでは、サンモが顔を真っ赤にして隠そうとしているのが分かる。
「だがぁぁぁ! 頭がクラクラする! もうやりたくない!」
サンモの肩に、手裏剣が刺さった。
「サンモ!」
「大丈夫です!」
クレパは、再びクレヨの前に立った。
その隙に、ミサスはケコーンの側に立ち寄る。
「おい。ケコーン無事か?」
「ミサス隊長?」
「俺の反応とか考えるな。ケコーンには生きて戻る必要性があるはずだ。
自らを肯定するための礎を頭に築け!
俺はそれを全力で肯定する!」
ケコーンは、ゆっくりゆっくり立ち上がった。
闘志が再起動したようだった。
「メンタルコントロールが上手だな」
クレヨは、その様子を見て評価した。
そして3人と対等に立ち会っていく。
「転生者好みの言い方で言うと、“戦隊リンチ”という」
「雑魚が集まっても、圧倒的なものには勝てないぞ」
ミサスの刀を折り、クレパの身体を吹っ飛ばした。
ケコーンには、大きな風魔法を使って、肉をズタズタに切り裂いた。
折れた日本刀を振りかざし、ミサスは突進した。
大きな魔力の塊が、身体を包んだ。
「見事だ」
純度の高い魔力エネルギーのみの攻撃は受け付けない。
これは、ジョーのような魔力欠乏者が持つ切り札だった。
ミサスの刀が、クレヨの心臓を貫いていた。
「だが、我の呪いを刻んでもらう!」
ミサスの右手を掴んだ。
ビリッと刺激が
クレヨは口から血液が垂れた。
目に光が失って行き、そのまま倒れた。




