2-25 ケコーン(斧使い)vsミサス(十徳刀)
「ミサス。魔力が全然出ていないな。どうした?」
少し間を置いた後、先ほどから気になっていた弟子の様子を聞いた。
「少し事故ってしまって」
「ちょっと顔を貸せ」
ジョーは、ミサスの顔を両手で掴み、目を指で広げた。
下まぶたの内側が健康的な赤い色では無く、変色している。
顔全体を見ていくと、血管の弱いところが破れたのか、内出血を起こしている。
「ミサス。血液に無理矢理魔力を注ぎ込んだな」
「う、そういうことです」
ミサスは、視線を右に逸らした。
ジョーはそれ以上何か言いたそうだったが、視線の先の女の子に気づいて、止めた。
手首に巻いていたブレスレットをミサスに差し出した。
魔力矯正器具。
ジョーが魔力を使うために必要な器具。
一時的な魔力欠乏症にかかっている人に、矯正器具としても使用されるものだ。
腰に巻いているものとは造りが違うが、予備として両腕に身につけていた。
ミサスは自ら巻き、魔力を使う要領で力を込めた。
「魔力を使えるようになったか?」
「いいえ。全くです」
「そうか。魔力を司る器官が痙攣しているか、麻痺状態だな。
一時的なものだと思うが……あんまり好ましくないな。
バイチークに戻れば、即病院行きだ」
取りあえず持っておけ。と、ブレスレットはそのままミサスが持つことになった。
加えて、ミサスの腰にある空のホルダーに、聖水やポーションの小瓶を入れた。
数個、役立ちそうな道具も渡された。
「俺たちは、予定通りコルピタラ狩りに向かうが、大丈夫か?」
「はい。頼れる護衛がいるので大丈夫です」
ミサスは、クレパの方を見て、確認した。
ジョー、フーム、テプの3人は、当初の予定通りコルピタラ狩りに入った。
ミサス達とは遠く離れ、狩りの準備をしていく。
今回行うのは、罠による捕獲方法だ。生け捕りにしてから、肉を解体していく方法を取る。
確実であり、比較的安全で肉の鮮度が保ちやすい方法。
これが獣害対策になると、大量の人員が必要になってくる。
そんなコストが諸々込みでコルピタラの肉は高い。
「ねえ。ミサスかなりズタボロだったけど、あのまま離れて良いの?」
フームは、こそこそとテプに話を聞いた。
ジョーが用をたしに場を離れた時のことだった。
「あんまり大きな声では言えませんが、あのまま関わると危険がともなうことになります」
「どんな?」
「ミサス隊長が連れていたお嬢さん。コロコロ一族の生き残りにあたります。
恐らく護衛中に、暗殺者の襲撃があったと考えます」
「えっ。それなら、助けに行かないと!」
フームの手を握った。
「フームさんの強さは分かります。ただ腕っ節で
あくまでこれは一例です。私達はコルピタラ狩りを楽しめば良い」
お気楽なテプの言葉ではなかった。
フームは少し怖さを感じた。
○コロコロ一族 陣地跡
「少し場所を外す」
「えっ」
「いや。便所だ」
ミサスは、カリにそう言った。
「心配するな。離れた時、何かあったならクレパが何とかしてくれる」
クレパとアイコンタクトを行い、単独で警戒を行うため、その場を離れた。
○ホットスポット 別所
「来たか」
少し離れたところの森の中。
先日の訓練にて、コロコロ一族へ襲撃作戦のために陣地を構えたところ。
実際は、影王たった1人へ
ミサスは、ここで来た人物を出迎えた。
メイン武装は、使い回しの良い片手斧だ。
カバーを外し、顔の二回りを大きな刃が光ってる。
腰には、短剣が1つ。他に森へ任務
鎧は足や胸といった急所を最低限を覆うもので、機動性に特化している動きやすいものだった。
その間から、鍛え上げられた筋肉が覗く。
風が吹いたと感じた瞬間、目の前に巨漢の肉体が目と鼻の先に現れた。
基本的な突撃走法。あっという間に距離を近づかれた。
空に斧が片手で振り下ろされていた。
ミサスは両手を使って、日本刀で受けた。
魔力切れの状態で、(片手とは言え)魔力の恩恵が膨大なホットスポット下で本気の一撃は大変にキツイ。
目の前の男のように太く隆々まで行かないとは言え、鍛えているはずの全身の筋肉が一瞬にして悲鳴を上げた。
「ケコーンいきなりかよ」
「ミサス・シンギザ。あなたの行ったことは反逆罪に当たります。
遠慮なく。いかせてもらいます」
ケコーンは、さらに力を込めた。
それに会わせて、ミサスは刀を使って対面左へ攻撃を受け流した。
一歩踏み込み、ケコーンの足の甲を踏んづけた。
緩んだところで距離を取り、腰にあるアイテムを取り出して使った。
ミサスは下へ叩き落とした。
中身が割れ、辺りが煙に包まれる。
「煙幕」
たちまち辺りは、煙に包まれた。
ケコーンは、見失ってしまった。
魔力反応は感じられず、しかもホットスポットという高濃度のものが、隠れ蓑になっている。
煙は視覚だけでなく、火薬の臭いもきつく、感覚を封じられている状態だ。
完全に撤退するため使用される目くらましだ。
だが、ケコーンにとって不思議に、ミサスは逃げていないことを確信していた。
斧を両手で構え、周りを警戒する。
「よし。言い構えだ」
下を見ると、ミサスが懐に入ってきていた。
そのまま、鳩尾に強い衝撃が一発入った。
横隔膜が揺らされ、呼吸が出来ない。
煙から巨体が吹っ飛ばされ、森の地面に身体を滑らせた。
「ガハッ!」
ケコーンは呼吸を安定させつつ、前を見た。
「な、なるほど。そういう。カラクリですか」
「そ。さて、第二ラウンド行こうか」
ミサスはブレスレッドより先の、魔力の纏った右手の拳を、左手でさすりながら言った。
ケコーンの後ろでは、残った2人がいた。
サンモは索敵魔法を展開していた。
中心には、ミサスとサンモが組み合っているところ。
後ろのニルキ・コロコロ陣地跡には、2つの人間が動かずに固まっている。
索敵魔法の展開する音によって、後ろにサンモがいるメッセージともなり得たが、今のミサスには確認する術が無かった。
その割には、一瞬にして魔力を限定的だが膨張させた。
森に入ってすぐのこと――
ケコーンの強い希望で、ミサスとの一騎打ちを2人に申し込んできた。
クレパの妨害は? なぜそれを隊長を取る? と聞いたが、「絶対に1人で来る」と譲らなかった。
勘のようだった。
最終的に上官命令で送ったが、ケコーンの読みは当たった。
「ホッちゃんあの2人を止めることはできないの?」
「はい。私のできる手は打ちました。
そして、私達の対立の山場になるでしょう」
どんな結果になったとしても。とホッチは断言した。




