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2-24 現場は静かだった

場所は「1-3 現場は燃えていた」と同じです。

「母や父をご存じなのですか!?」


 カリは大声で、ジョーに詰め寄った。

 両腕を掴み、目で訴えかけた。


「そうですね。

 あなたの父親であるニルキとは、そこまで仲は良くなかった。これは正直なところです。」

「あー。女性経験が少ないのですか?」


 少し離れたところで、ジョーは体育座りをして落ち込んだ。

 フームがよしよしと背中をさすっていた。

 そしてバンッと叩いて、立ち上がった。


 その様子を見ながら、ミサスとカリはお互い顔を見合わせた。


 復活した疑惑の中年は、咳き込んで話を続けた。


「コロコロの皆さんとは、危険なクエストを共に受けた関係程度になります。

 知人の関係になります。」

「…………」

「この度は、お悔やみ申し上げます」


 丁寧に頭を下げた。

 慌てて、カリも頭を下げた。

 お互い顔を同時に顔を上げて、目線があった。

 ジョーは、再度軽い会釈をして離れようとした。


「あの! もっと父や母が仕事をしているときは、どういう話をお聞かせ頂きませんか!

 少しだけでも構わないので!」


 カリはとても大きな声で叫んで止めた。


「私で良ければ。ミサス。話をして大丈夫か?」

「はい。お願いします」

「よし。護衛の確認出来たところで参りましょう。

 私達も、最初はそちらへお邪魔しようと思っていたところです」






 総勢6人となった。


 クレパは殿で1人。後ろを警戒しつつ歩く。

 敵襲や、コルピタラといった危険なモンスター等の脅威をすぐに発見できるように。だ。


 真ん中は、ジョーとカリが話をしながら行く。

 時折笑い声が聞こえてくるので、心配はなさそうだ。


 先頭は、土地勘のある人物を含めた残りの3人だ。


「おい。テプ何でここにいるんだ?」


 ミサスは(強めに)小突いた。

 ジョーとフームが一緒にいることは分かる。2人は長い付き合いだからだ。

 ただ、テプがバイチーク離れたここにいるのは、不思議だった。


「いてて。コルピタラ狩りです! バイチークで食べると高く付きますし!

 あれですよ。休暇の内に、フームと師匠さんと仲良くなりたかった訳ですよ!

 それに、先日のカズルの件でストレスを解消してもらおうと!

 ジョーさんは、一応フームさんが心配で付き添いだったり、あの場所へ献花したい」

「本音は?」


 ミサスは頬をつねりながら。

 イダダダとテプは凶指から逃れた。


「いやぁ。ジョーさんとお近づきになって、影王と仲介して貰おうかと。

 良いように遊ばれたので、再戦したいなぁと」

「へ?」


 ミサスは頓狂な声を張り上げた。


「私もです。あの3回殺した影王へお礼参りしなければなりません」


 クレパも通信機越しに乱入してきた。


「誰も、影王大好きだな!

 クレパと言いテプと言い、あいつの何が良いんだ? あいつ呼ばわりしてはいけないけど!」


 全員が注目するような大声でミサスは叫んだ。


「もっとも得意としている分野で正面からやられた訳です。

 それに未来が到達しうるような自らの“影”に」

「それ、分かります」

「そもそも、影王って確かそんな設定だったはず。

 敵とそっくりな形をして、それ以上の力で圧倒する」

「それは分かりません」


 2人がお互い同意する。

 というか、いつの間にかクレパは前に来ていた。静かに列の後ろへ回った。



「こちらからも聞きたいです。護衛任務を受けたと聞いてましたが、後ろの彼女ですか?」

「ああ。ただ物凄くややこしい状態になっている。

 この後、何もなかったとコルピタラ狩りをしておいてくれ。

 2人の護衛は頼んだ」


 分かりました。とバシバシと背中を叩いて、テプは返事をした。

 ミサスは、かなり強い一撃をお返しにした。

 手の方がダメージを蓄積した。




「ミサスの言っている“影王”とは何ですか?」


 ミサスの奇行を元に、そんなことをカリは尋ねた。

 冷えた目で見ていた、ジョーは反応に遅れた。


「“影王”とは、最近人気が出ているキャラクターの名前。設定という方が正しいか。

 容姿は、影のように光りを浴びない漆黒。

 敵から見て、鏡を見ているような姿。色んな人の影へ入り込む……。

 首都バイチークでは、そんなお約束、テンプレを元にした創作が流行っています。」

「へー。古典や昔話の登場人物を使って勝手に話を作る形ですか?」

「そうです。そういう二次創作です。

 彼らが言っているのは、そのモデルとなった人物。本物と言っても良いです。」


「成る程。ジョーさんは、その方とお知り合いですか?」

「うーん。」


 それ以上は顔を近づけ、誰にも聞こえないように小声で囁いた。





○ホットスポット 某所

 一行は、目的地に着いた。


 この場所は、このホットスポット内でセーフゾーンになっている。

 コルピタラといったモンスター等の外的要因に左右されにくい。

 しかも、地脈から魔力の影響が大きい。

 拠点を構えやすい場所だ。継続的な作業に向く立地だ。

 

 入るまでの危険度から、あまり手をつけられていない“ここ”を選んだ理由は分かる。

 誰にも知られないように、秘密にしておきたかった作業があったと推測できる。


 ジョーは、そう考えた。

 聞きはしなかったが、ミサス達も報告書等で認識はしているはず。

 実際にそうだった。



カズル(あいつ)は、視界の取りにくい夜間の危険なホットスポットを抜ける。

 そして、大陸有数の規模を持つコロコロファミリーを単独で葬った……」

「そう。」

「…………」


 カリは、ミサスから様子を聞いた。

 その後の戦闘のことも。


 その痕跡は、今も残されていた。 


 中心は、携帯陣地の黒焦げになった残骸が転がっている。

 周りには、大きく倒れたままの樹木が転がっている。

 どれだけのエネルギーがぶつかっていたのか。

 想像がしやすかった。



 ミサス・クレパ・テプの3人は久しぶりに来た。


 カリにとって、初めて来た家族が命を落とした地。

 先ほどから、静かに周りの炭や地面に出来た痕跡を観察していた。



 ジョーが、アイテムボックスを作動させる。

 魔動器具へ負担をかけるホットスポットでも、安定して稼働できる優れもの。

 収納魔法と同じ要領で、異空間の中から取りだした。


「カリさんこれを」

「ありがとうございます」


 ジョーは、カリに花束を渡した。

 死者へ手向けるもの。


 一輪だけ、異なる花が混ざっていた。

 この世界の主流と少し異なるが、ジョーは異世界出身者に対して菊の花を送ることにしていた。

 世界の枠を跳躍し、やっと黄泉の国へ旅立った魂を慰めるように。



 カリは、1人、この空間に真ん中に近づいた。

 後ろからは、ジョーが酒瓶を取り出し、続いた。


 近くで見ると割れた陶器や、黒焦げになった衣類が回収されずに残っていた。


 中心に、カリは花束を置いた。

 横に、ジョーは瓶を置いた。


 ニルキや奥方が共通して好んでいたワインの銘柄。

 先ほど話題になった中で出てきたものなので、カリは息を飲んだ。


 沸き上がった感情を受け入れた途端、カリの涙は止まらなかった。




 一行は、各々亡き死者へ祈りを捧げた。


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