1-4 影王は異世界出身者が嫌い
影王無双
「異世界転生者? 何それ」
「この世界とは別に存在したもの?」
「そもそも影王自体が創作に近いだろ。多分親戚」
背後では団員が影王への疑問が多く繰り広げられていた。
しかめ面をしたのはミサスや、通信越しで後ろで陣を置く数人のみ。
異世界転生者が実在することは、この世界で限られた人物しかいない。
その事実を知っていることが只者ではないことを、後ろの指揮所にも知らしめた。
「もうそろそろ帰ろうかな」
この影王の言葉を、不機嫌なミサスが遮る。
「このまま帰すとお思いですか?」
「……やっぱり帰してくれなさそうだな。そうだ全員と手合わせしてやる。まとめてかかってこい」
「はい?」
「ああハンデいるか。よしこちらはホットスポットの補正を消してやる」
影王は、腕に魔力を抑制する器具をつける。
正直、誰も意味が分からない行動だった。
マツカイサ帝国騎士団は、イストール地方最強の騎士団だ。
若いメンバーの多い“青年隊”であるものの、イストール地方全域からかき集められた能力の高いメンバーしかいない。
どれだけの実力者であっても、真正面から向かうのはあまりにも戦力差がありすぎる。
「あなたは、もう少し気品があったはずです。無謀としか思えない。影王」
「そもそも根が冒険者だからな。わくわくすることは、大好きだ」
うんうんと自己解決しながら、影王は両腕を収納空間へ突っ込んだ。
「最初に挑発する。ザミとペインって言ったけな?」
中からは、二人の顔ができた。
意識を失い、眠らされている。
「点火!」
ミサスは単身前へ出た。
魔力で推進力を増した突撃走法だ。十年程前に槍の天才が発明させた方法。
影王は、二人を前へ投げつけた。
ミサスは飛び上がり、両腕で二人の服を掴んだ。
「ミサス。正解な行動だ」
眼下では、影王が大技を出す構えを取っていた。避けられない。
「少年スタイル! “ハワイの大王”!」
“スタイル”それは影王が名だたる達人や巨匠、有名人の技を自ら使うために落とし込む気合いや魔法器具のこと。
創作作品でバラバラに細かく設定されているが、方向性は似ている影王キャラクターのお約束の一つだ。
本物は、得意とする色々な技を効果的に発揮する我流の戦闘スタイルを指す。
対象となる技は広い。それに会わせてスタイルも変える。
固有の魔力“特徴”をコロコロ変えて、変幻自在魔法を最適な威力で放出することが可能だ。
これは、たった一人で異世界出身者に対抗するために練り上げた。
如何なる存在から、観察し、技術や知恵を習得し、獲得したものだ。
弟子であるミサスも、その強さは充分理解していた。
影王は、手首を合わせた手のひらから、らせん状の波動技を繰り出した。
そのエネルギーの集合体は、部下を抱えたままのミサスを後ろに広がる森の奥まで押しやった。
直後に備えていたシジキ三姉妹の弓兵から矢が放たれた。
ホットスポットの影響もあり、地面に当たれば辺りは大きなクレーターが出来るほどの威力だ。
「ほう。良い色をしている」
影王はそれを簡単に素手で掴む。
全ての矢が影王の手に無力化された。
「バカな! コルピタラに当たれば粉々になるのに!」
「昼間の手加減がまだ残っているのかしら」
「お肉食べたい」
それぞれの感想。
影王は収納空間から弓を取り出し、先ほど飛んできた矢を三本手に取り、構える。
「“落第射撃”!」
三本の矢はそれぞれ大きくなって、シジキ姉妹を襲った。
遠くで悲鳴の後、団員達の耳に彼女たちの悲鳴が響いた。
「よそ見が命取りですよ!」
「オラァ」
影王の死角から、二つの巨大な攻撃がまともに入った。
斧を持っているのがケコーン。
ハンマーを持って居るのがゲンノだ。
二人ともそのたくましい外見の通り、筋肉ムキムキのパワータイプだ。
「ほう。盾にヒビを付けるか」
影王の身体は無事だ。あまりにも透明度の高い盾魔法で防御を展開していた。
パワーコンビ二人は舌打ちしたが、追い打ちをかける。
何度も何度も打ち続ける。
そのうちに影王は、収納空間から盾を二つ取りだした。
大きさ価格手頃な鋼鉄の盾で、大量生産されているありきたりなものだ。
それを両手に二つ構える。
耳栓をして、盾魔法の崩壊に備えた。
ガラスの割れるような音がした。
「“ガキ大将賛歌”!」
影王は二つの盾を震源に音響魔法を繰り出した。
局所的ではあるが、とてつもなく大きな衝撃波が引き起こされる。
どんなに肉体強化や盾魔法を使用しても、“音”であり、防ぐのは困難だ。
近くにいた二人の大男が失神して、バタリと倒れた。
「こうした乱戦では、味方にも大きな被害が出てしまう。使いどころが難しい」
まるで教官のように指導する言葉を影王は語るが、その様子を見ていた団員達は固まったままだった。
「これやっぱり衝撃辛いな」
影王は盾を外し、足下に置いた。
「やはり俺の出番だな!」
影王の後方。地中から出てきたのはコンス。武道家だ。
岩や魔法防御を素手で砕く実力者だ。
死角から奇襲を仕掛けるが、すらりと影王に避けられた。
最初から、気配を把握されていたようだった。
「やっぱり決闘なら剣でしょ。コンス先輩」
テプは剣を抜いた。見た目通りの剣士だ。
モンスター相手だとミサスに分売が上がるが、剣による対人戦闘だとテプが一番青年隊の中では強い。
イーサーに才能を見出される前までは、教育をまともに受けておらず、力の使い方を知らない状態であった。
影王は、収納空間から剣を抜いて、受け止めた。
「ミサス隊長の師匠ですか。強さは分かりますが、技名が微妙なのが残念です」
「戦いの中で、その“何で”を考えた隙が欲しいときがある」
影王は、テプの腹に蹴りをいれた。
「ははは。世界の技オンパレードだ」
イーサーは遠視魔法で確認した。その目はとてもキラキラ輝いている。
魔術オタクらしい反応だ。というより、絶望に近い。
「スキル効果、武術、魔法、武器の見本市とですね」
「ホッチ目が良いな」
裸眼で見ていたことに気づいた隣のミサスは感心する。
影王とは離れたホットスポットの森深く。
「ハワイの大王」でミサスが飛ばされた先になる。ホッチやイーサー。他に作戦所にいたメンバーが集まっていた。
というよりも、影王はそこへ狙って吹っ飛ばされたとミサスは考えていた。
ミサスは状況を確認する。意識を失っていたザミとペインは保護されて治療中だ。
未だに師匠である影王と戦闘が続いているようだ。
次から次へと出てくる影王の情報に、かなり動揺していると自覚する。
「…………」
「隊長どうしますか? 影王が知り合いならば説得。敵対ならば、捕縛、射殺、刺殺、撲殺」
「制圧は難しいですね」
イーサーとホッチの懸念には同意する。
この場での落としどころが、かなり痛いものになることは影王も分かっているはずだ。
ここは苦渋を舐めるしかない。
ミサスは判断した。
「撤退だ。当初の目的だったニルキ・コロコロは殺害された。イーサー。非戦闘員の誘導と護衛とか指揮を頼む。俺は影王にケジメをつけてくる」
「「了解」」
ホッチは、ミサスに拾っていた剣を渡した。
手に取り、遠視魔法を使って前方の影王を睨む。
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