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2-19 コルピタラと村人

 カリの恩恵“狩猟王”は、捕らえたり、一度は触ったりすると、その動植物の身体になることが分かった。

 ミサスのスマホにある写真だけだと、そのモンスターにはなれなかった。

 ただし、それぞれ変化できる動物を思い出したり、一気に情報を入れてパンクしたカリの頭を整理することに役立った。


 翌日以降、ミサスは移動中に捕まえた動植物をカリに覚えさせることにした。

 朝と夜・就寝前にモンスターに変化して、十分程度その状態を維持する。

 おかげで、かなりの種類のモンスターや大きさへ、自在に身体を変化させることに成功した。


 特に鳥へ変化し、空を自由に飛んでいた時は、かなり楽しそうだった。

 途中、もっと大きな鳥に食われそうになった時は大変だった。

 クレパが上手に短剣を投げて、始末した。

その後、カリは裸のまま号泣して、翌日までミサスの腕を離れなかった。


 夕方に出した鳥の丸焼きが、追いかけられたヤツとは絶対言えない。

 とミサスは思った。



 森を抜け、大きな道に出た。

 街と街。国と国を繋ぐ歴史のある街道。

 と言っても、二本の溝が平行してずっと続いている。

踏み固められた土の道だ。

 ここから太陽が落ちる方向へ進めば、ボルガリアに到着する予定だ。



「何か騒がしいな」


 夕方、遠くで見つけた村の様子が騒々しかった。

 ミサスは、様子を確認しようと片目の眼鏡を着けた。


「コルピタラか」

「久しぶりに見ました」


 クレパは裸眼で、それぞれそんな反応をした。


 コルピタラ。イストール地方で広く生息している四足獣。

 雑食である。小動物から、人間が育てている作物まで被害が絶えない。


 また凶暴な性格のため、村や集落を襲うことがある。

一匹にはかなり手強く、群れた集団には、素人一人で対抗することは自殺行為。

地方全域で守護隊の派遣が追いついていない。

村の屈強な男手が武装したり、用心棒を雇い入れるという民間レベルで対策が取られている。


 だが、これは経済的に余裕のあるところだけだ。

 毎年のように、コルピタラが増殖しているという報告がある。


 つまり、田舎の小規模なところでは、コルピタラ一匹に対して、甚大な被害が起きることがミサス達の認識だった。


 クレパが先行し、二人は後から走って追いかけることになった。




「助けてくれー!」


 村の中は阿鼻叫喚だった。

 乱入して来たのは、コルピタラ一匹。

 それだけで、村が壊滅するには充分だった。


 獣除けの柵は壊され、真っ先に向かった男手は瀕死の重傷を負い、村人達は逃げ惑っていた。

 コルピタラにとって、その様子は獲物を狩る本能を刺激するだけだった。


 獲物には、巨体の重量を武器に体当たりで突進させる。

 足の速さは、普通の人間を遥かに凌ぐ。

 狙いを、目の前で腰の抜けた男に定めた。


 男は、目を開いたまま。全く動けなかった。


「ピギャァァァ!」


 突進してきたコルピタラが、バランスを崩し、転倒した。


 大きな巨体がひっくり返った。

 その勢いを殺さぬまま、身体を土に擦りつけていく。


「さてと。あれが私の晩ご飯か」


 コルピタラと男の間に、小柄な女の子が立った。

 腰には、短剣をぶら下げていた。


 短剣を抜き、倒れてまだ起き上がってこないコルピタラの腹に向かって投げつけた。

 急所には刺さった。


「やっぱり浅い」

「ピギャァァッァ」


 コルピタラが飛び起きた。

 何という生命力。


 のたうち回りながら、あちらこちらに突進する。






「おい! 何で早く殺さない!」


 村人は、後ろからヤジを飛ばした。

クレパは反応せず、離れてその様子を見守った。


「よし。ここだ」


 刺さった短剣を見せた一瞬を見計らって飛び出した。

 魔力で、身体強化を行い、短い距離を一瞬にして詰める。


 そして、柄を足で押し込み、さらに奥へ突き刺した。


「……」


 コルピタラの生気は段々失われていく。

 そして、泡を吹いて倒れた。



 動かなくなったコルピタラの腹から、クレパは短剣を抜いた。

 辺りは血の池に染まった。


「大丈夫?」

「あ! はい! 大丈夫です」


 正気を取り戻した男は、慌てて返事をした。


 自分よりも小さな女の子が、たった一人で


「大丈夫ですか!」


 後ろから、また別の声が聞こえてきた。

 少し息を切らしてこちらへやってくるのを感じた。


 良かった。俺と同じような誰かか。

 そう男が思ったのも束の間。


 目の前の少女より真っ赤な返り血を浴びたミサスの姿に悲鳴を上げた。



「それにしても、前回の訓練よりコルピタラの制圧が上手になったな」

「はい。私の短剣の可能性が広がりました」


 クレパは一撃必殺。少ない攻撃で、肝心な急所を狙うことになる。

 だが、コルピタラは手負いであっても、反撃される可能性が充分に高い。


 確実な攻撃だが、魔力でブーストしても強力な一撃とはならない。

 クレパは、自分で捕食する分は十分で、コルピタラのような自分より大きな図体のモンスターを狩ったことがなかった。


 これは前回、マツカイサ帝国のホットスポット下で実施された訓練(1-1参照)での、クレパ個人の課題だった。

 取りあえず課題であった一匹討伐は成功したものの、非戦闘員と並ぶ量だった。


「素晴らしい。クレパ」

「ありがとうございます」


 クレパはとても良い笑顔だった。


「お前ら人間じゃ無いよ……」


 平凡な村人の男は、そう呟いた。




「マツカイサ帝国の騎士様。ありがとうございます」


 村を束ねる長が、ミサスに向かって深い礼を下げた。

 夕方、コルピタラの解体。村の後片付けが終わった後、ミサス達は村長の家にいた。

 重傷者も、カリの治療魔法により、当分の間安静が必要だが命に別状はない。


 こうして先に恩を売れたのは、とてもミサス達にとってありがたかった

身分を表し、マツカイサ帝国の使者ということ。

護衛中というありのままのことを伝えた。


 食料はコルピタラの肉がある。

 凶暴で討伐が難しい割に、引き締まった肉の持ち主だ。

 上等なものは、都市では高値で取引されているものもある。


 村の英雄の一泊の宿泊を拒む情の無い人たちでも無かった。


「これもニルキ・コロコロって言うヤツの仕業なんですよ!」

「ほう」


 お酒を飲んで、上機嫌の村長がそうぼやいた。


 ミサスは、ジョー師匠から「お酒は料理を味を良くする物」として、それなりに嗜んでいる。

 クレパはお酒を一口飲んで酔っ払ってしまい、もう寝込んでいる。

 カリは、ミサスの横で村長の話を聞いていた。


 色んな人と話をしていきたい。ということだったが――――

 雲行きが怪しくなってきた。


「あいつらが、コルピタラを食べるドラゴンを狩りつくしたから!

 ここまで増えることは無かったんだ!」






「ミサスが夢の中で言ったことはこういうことだったんだね」


 村長は酔いつぶれて、奥方に介抱されていった。


 ミサスは、村長の家の来客用の寝室にいた。

 先にクレパは補助ベットですやすや寝息を立てていた。


「今は、ボルガリアへ向かうこと。自分の実を心配しておいて大丈夫だ。

 カリが、コロコロ一族と関係者とは認識されていない」


 ミサスは、カリにそう伝えた。

 こくりと頷いた。


「ミサス。一緒に寝ていい?」

「……分かった」


 ミサスは快諾した。


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