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2-18 異世界転生者の娘はスライムとなる

「ミサス。武器が無いならこれを使って」


 収納魔法から、一差しの刀を取り出した。


「日本刀。太刀か」


 カリから刀を、ミサスは受け取った。

 鞘から抜き、メンテナンスが行き届いていることを確認する。


 日本刀は、刀身が弧を描く片刃の刀剣。

 折れづらく、曲がりづらく、大変切れ味が優れている。

異世界出身者の剣士が好んで使っていたと聞く。

 よく異世界からの文化からリスペクトを行う影王・ボットも、愛剣として使用している。

(これに関してクレパが話題に食いついた)


 日本刀を製作できる鍛冶職人の数が限られていて、大変高価である。

 ミサスの剣は、使い捨てを前提にそこそこ質の良い剣を使用している。

鞄にある十の武器の内、9番が剣だが、予備として同型の物を用意し、計二つ入っている。


「これは、俺が使っていたものだ。そういえばあげたっけ?」

「まあね。私の我が儘で貰った」

「うーん。前に会った時、ごたごたしていたから」


 少し離れた所で、ミサスは素振りを行い、鞘に収めた。

 クレパを呼び、全員集合した。


「ミサス。これからどこへ向かうの?」

「ボリガリアだ。一応、そこが何かあった時の集合場所として設定している」

「ミサス隊長。敵は来ますちゃね?」

「来る。話を聞く限り、こっちに狙いが集中している。

 後、食いながら話をするな」


 クレヨの狙いは二つ

・カリの命(または身柄)

・同じサクサクラ一族の生き残りであるクレパ。


 敵は、禄でもないことを目的にしている。


 ひとまず三人は川沿いを下ることにする。

 ミサスの記憶が正しければ、このまま進むと大きな道と交差する。

 そして、西の方向へ進めば、ボリガリアに到着する。


「と、こうやってボルガリアに移動していく」


 ミサスは、スマホのメモ機能を使って簡単な地図を製作して説明した。


「でも、スマホ表示の言語は分からないです」

「日本語?」

「カリさんは分かるのですか。

また、勇敢記を書き写したり、音読の練習は嫌です」

「クレパ。日本語は、俺と影王が一時話していた言葉だ」

「バイチークへ帰ったら、教えて下さい

いえ、道中から!」


 クレパは、殺すことから行動動機を掴んでいく。

 味方にいれば頼もしいし、敵だと物凄く厄介だ。


 そこは、一般的な人物より壊れているかもしれない。


 


「でも、ミサスを含めて四人の騎士団の人。

生まれも環境もバラバラで、色んなところから来ているよね。

 もっと言葉使いから、個性的な人が集まってくるのかと」


 少し経った後、カリがそうやって話しかけてきた。


「言葉使いだけなら、勇敢記の影響がある」

「勇敢記? ミサス読書するようになったの?」

「何年前の話だ……。

 勇敢記は、イストール地方で聖書に匹敵するほど読まれている。

 マツカイサ帝国を中心とした、イストール地方全域で識字率を上げるための政策の一部だな。

 第二隊は能力が一分野で濃いメンバーが集まるが、意思疎通は大学で優秀な指導者がいるから、共通している。

他にも言葉使いやマナーは、イストール地方だけでなく、他大陸のものまで習得している」

「ふーん。その勇敢記は読んだことない」

「マジか! よし。貸してやる!」


 私が知らないことは沢山ありそう。と、カリは小さく呟いた。

 ミサスは全く気づかなかった。



「よし。ここで野営をしよう」


 夕方、川のほとりで三人は一夜を明かすことにした。

 というか、クレパが腹を壊した。午後の移動はミサスがおぶって移動していた。

これ以上の移動は危険と判断したからだ。

 カリが治癒魔法をかけ、木の陰で絶対安静をさせている。


 夕飯は、そこら辺で見かけたウサギに決めた所で、ミサスは提案した。


「カリ。ここで、恩恵の試運転をしてみたい」

「分かった」


 カリの身体は、恩恵“狩猟王”を核にして作り出されている。

 これから先、“恩恵”を狙ってくる輩が沢山出てくる。

 現に、今はクレヨの追っ手が脅威としてあった。

 将来的に、何かの力になると違いないことだった。


「現地点で、収納魔法といった上級者向けの魔法を軽々使えているから、暴走することは無いと思う」

「分かった。で、どうやって魔力を恩恵に集中すれば良いの?」

「“狩猟王”は、多くの動植物を司るとされている。

動物植物に身体が変わる。またはそういう動物の使い魔を形成するか」

「ようするに、何か思いつくモンスターを想像すれば良い?」

「そうそう。そんな感じで」


 カリは魔力を集中させた。

 恩恵が稼働していく。

 ミサスは魔力の流れを感じ取れていなかったが、周りの様子を見て推測した。


 やがてカリの身体は光に包まれ、形が変化していく。

 そして大きな爆発があった。


 ミサスは、ゆっくり目を空けた。

 目の前には大きな机ぐらいの――――

 キヨイスライムが


「なるほど。記憶した動植物に“変化する”能力か。

 暗殺一家が代々保持してきたのに納得できた」


 ミサスは近づき、ぷよぷよと弾力のあるキヨイスライムをツンツンした。


「えー。スライム? 雑魚じゃん」


 カリは、テレパシーでミサスに伝えた。

 異世界出身者の中には、こういった人外の形で稀にやってくる存在がいると聞く。

 変異・変態・変身等で人間の姿にもなれるらしいが、ミサスはよく知らない。


 今回、しっかりと頭の中に入ってくるような声が聞こえ、意思疎通には問題なさそうだ。


「スライムは確かに強いモンスターじゃないが、多くの環境に対応できて、かなりタフだ。

中には毒持ちもいるから油断はできない」


 師匠達も、やたら雑魚説を持っているが、ミサスには理解しがたかった。


「ミサス。何で抱きついてくるの?」

「え?」


 ミサスは、キヨイスライム(中身カリ)に抱きついていた。

 そして、ひたすら大きな身体をモミモミしていた。


「いや! こんなでかいキヨイスライムは見たこと無い!」

「あーもう辞めて!」

「ちょっと待って! もう少し」


 だが、全く聞く耳を持たなかった。


 顔が、とても至福の笑顔。

 ミサスは、オタクなところがある。

 こんな大きなスライムを目の前に、自制することができなかった。


「ああ! ちょっと待って!」


 少し触っていたところに違和感を感じた。

 とても小さくて、スライムの身体では無く、骨と肉体の感触を感じた。


 ミサスは恐る恐る下を見た。

 カリはスライム化を解除し、ミサスは全裸となった女の子をしっかり抱きしめていた。


「えーと。多分、捕まえたことのあるモンスターに変化できるのかな?」

「…………」

「あの、カリさん」

「うん。ミサス」


 全く目が笑っていない笑顔が、とても印象的だった。






「何かありましたか?」


 翌日、ミサスに大きな痣ができたことを、クレパは確認した。


「性交渉したのですか?」

「いいえ。クレパちゃん。ミサスは、とんでもないことをしたの」

「はい。滅相もございません」


 この二人おかしいな。と、クレパは朝食を食べつつ思った。


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