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2-17 現地弟子はスマホを使う

「ミサス隊長! ここにいた!」


 目の前には、クレパの姿があった。

 両腕をまくし上げ、短剣は腰に巻いてある。

 とても軽装で、動きやすい格好だった。


 膨れた太ももにあるポケットに手を突っ込んだ。

食用になる野生の果実がぎっしり入っていた。

 モグモグと一つを頬膨らませて、食べる。


「クレパ。無事だったのか」

「はい。喉が渇いて、川の水を飲みに来ました」

「今まで、どこにいた?」

「ええ。気づいたら、川のほとりに流れ着いていました。

 取りあえずお腹空いたので、匂いで果物を探して集めました。一つ食べます?」

「ああ。貰おうか?」


 クレパから、眠っているカリの分。合わせて二つ手に取った。

 ロリの実だ。

 中は種が多く、食べるのにはコツが必要だが、美味だ。

 栽培されているものより、こういった人の立ち入らない野生種の方が美味しい。

バイチークのような都会では、高値で取引されている。


「うーん。ミサス?」

「カリ。起きたか。クレパから木の実くれた」

「え?」


 カリは、起きて早々ミサスの腕を握った。


 クレパは、クレヨによって操られていた。

 サンモとの戦闘。

 吊り橋上では、自ら連れ去られた。


 あの恐ろしい暗殺者の姿を思い出して、カリは身体が震えはじめた。


「カリさん。大丈夫ですか?」

「クレパ。何か変わったことや、おかしいことは無いか?」

「はい。頭が痛いです。川に流された時にどこかぶつけたかもしれません。

 頭が痛い時は、甘いものや水分補給と習っていますので」


「他には?」

「いえ。特には。一人になれたので、ストレス解消にはなりました」


 クレパは、何かを察したように言った。


「隊長……。こういうところでも、カリさんと性交渉をするのですか?

 なら私はもう少し、辺りを散策してきます」

「へ!」

「違うのですか?

サンモさんはそういうことを言っていました。

 ホッチさんは、嫉妬でモップの柄を割っていました」

「経験無いことを」

「そうなの? ホッチちゃんと、何回も裸の付き合いしているのでしょ?」

「あれはホッチが勝手に!」


 復活したカリもそんなこと言われた。

 震えは収まっている。

 ミサスは、違うよ。違わなくないけど違うよと慌てて弁解する。

 小悪魔的な笑顔が、とても混乱させた。


「全く分からない感覚なので……。

 私は、三回殺された影王に再戦を行いたいぐらいしか考えていません」


 はぁーとため息をついた。

 ミサスは、館の行動を説明した。



 クレパは、特に動揺することなく、謝罪の言葉を口にした。

 突然、呼び動作無しで短剣を首元に突きつけた。

二人がかりで取り押さえた。


 何とか、クレパを自害させまいと、説得し続けた。


「つまり、そのクレヨを殺せば良いのですね」

「それも時と場合だが、奴の情報が欲しい。何か知らないか?」

「いいえ。一番古く覚えていることは、この腰の短剣を手に取った。

 何人も何人も悪人を屠ってきたことだけです。

 この短剣は良いですよ。バイチークの鍛冶屋に褒められました」

「……本当に何も覚えていないな?」

「はい。起きたら服がビショビショ。全身が筋肉痛気味ということぐらい」


「最後に、聞かせてくれ。実の家族に興味はないのか?

あいつを捕らえれば手がかりを手に入れる可能性がある」


「いいえ。私には分からない感情です。

 敵ならば、斬るだけです」


「分かった。なら、なぜ洗脳されたのか? 対策しないと」


 ミサスは、これ以上詮索しなかった。

 他に助けの無い孤立した環境で、険悪な雰囲気を作るのはいけない。

 そして、考えるたり、決めることが沢山あった。


「あのー。提案しても良い?」


 ミサスから離れ、立ち上がったホッチは手を上げた。


「何かあるのか?」

「いや。クレパさんの浄化を任せて貰っても良い?」




「さっぱりした」

「ねー」


 クレパとカリの声が後ろで確認する。

とても気持ちよさそうだった。


 恐らく魔力による洗脳魔法だろう。

 それは三人が共通して至った結論だった。


 だが、どこに仕掛けられているのか判断できるのは、カリしかいなかった。

 ミサスは、一時的な欠乏状態であり、魔力を感じ取りづらい状況だった。

 クレパがこの時点で気づいていないとなると、第三者の判断が必要だ。



 二人は川原に行って、身体中に何か無いか調べることにした。

 何かの仕掛けをされているようなところを、聖水を使って浄化させる。

他にも、顔や頭という攻撃されやすいところを洗った。



「カリさん。早急に着替えを用意しなければなりませんね。

 バスローブ1着だけなら、風邪を引きます」

「そう言えば、私の着替えはある。忘れてた」


 カリは、思い出したように収納魔法から、衣装ケースを取り出した。


 身体を復元してもらった際、可能ならばミサス達と一緒に街へ出かけたいと考えていた。

 館から脱出するときに、準備をしていた物を収納魔法使って入れていた。

 中には、未使用の下着や着替えの服が入っていた。


 いつも人魂の状態で、人に会うときには外観の想像を行えば、問題なかった。

 このバスローブも、人魂でも大丈夫な特性のものだった。


 カリは久しぶりに“服”を着る。


「ねえ。ミサス! どの下着が良い!」


 勘弁してくれ! と遠くから大きな声で返事をしてきた。

 なかなか弄りがいがあると。


「そう? セラームというブランドだけど」

「カリさん。私それは知っています。

良いパンツですよね。

ホッチさんやサンモさんといった女性から勧められたのですけど、良いものです。

洗いやすく、汚れた時も落ちやすい。

今も履いています」





 ミサスは、離れたところにいた。

 生々しい女性同士の会話は、聞こえないふりに限る。

 鈍感と言われようが、ある程度は、鈍いと思われた方が上手に行く時がある。


 ラブコメ作品の引き延ばし展開に使われるのは、クソだけど。


 そうやって、変に想像してしまうことに耐える。


 所持品を確認することに集中した。


・マツカイサ帝国が発行している身分証。

・ペンとメモ帳(水を吸ったので乾かしている)

・長距離を見るための眼鏡(レンズの膨らみを調節できる高性能)

・拳銃(弾が十数発。心もとない威力。あくまで護身用)

・小刀(果物とか小さな物を加工するためのもの)

・光る黒板(スマートフォン。記録用。魔力で充電できるバッテリー付き)


 そう。

剣か弓といったメイン武器が無いのだ。

 ミサスの二つ名は“十徳刀”。どんな武器でも、器用に使用することが可能。

 でも武器がないことには、どうしようもない。


 「弘法筆を選ばず」という異世界からのことわざを言う人がいた。

 優れた名人は、道具の善し悪しを選ばない。

 これは、ミサスの強さを的を射て表現しているだろう。


 だが、プロは全ての武器をこだわるべきという考えをミサスは支持している。

 一人で生き抜くサバイバル任務ならば、問題はない。(寧ろ充分)

 カリを護衛しながら、街まで無事移動することを考えなければならない。



「ねえねえ。これ何?」


 振り返ると、カリがブヨブヨした半透明のものを、両手ですくって持って来た。

 服は着替えていた。

 長距離の移動に最適な格好。

 袖をたくし上げて、見せてきた。


「おっ。キヨイスライムか。水の綺麗なところでしか生息しないんだ。

 大きい個体だと、漬け物石ぐらいになる。

 触っても害は無いから、田舎の子供達の遊び相手になっている」

「へー。詳しいね。クレパから、大学で生物学を勉強していて凄いと聞いた」


 カリは、地面に置いた。

 ゼリーのような身体を引きずりながら、川の方へ動いていく。


 その様子を、ミサスはスマホで撮影した。


「隊長。それは何ですか?」


 クレパも、髪をタオルで拭いて近づいてきた。


「スマートフォン?」

「おーカリ知っているのか。こうやって写真を撮ったり、メモ帳代わりに使うことができる」

「うん。昔にお父さんの借りて遊んだことがある

 兄弟と喧嘩して取り合った。結果壊して怒られた」


 ミサスから渡されたスマホを受け取った。

 スライムを一枚撮る。


「そうそう。そうやって任務先の合間にモンスターの写真をとってレポートを書いている。

 ジョー師匠から、帝国騎士団の入団祝いに譲って貰った」

「あー。昔にあったことある人か」


 そうやって、過去の写真フォルダをスクロールしていった。

 ほぼ全てが何かのモンスターの写真。

 スライム、獣、植物、鳥、虫、獣……。

 カリにとって、父や母達。そしてカイチュンを初めとした大人達から聞いたことのある風景が映し出されていた。

 ミサスが、かなり広い世界に行っていることが分かる。

 そして、それぞれのモンスターに対して解説していく。


「ミサスってオタクなんだね」

「グフ!」

「かなり言われているね。これ。もしかしてメリロイドラゴン?」


 カリは、最近撮った膝下ぐらいの小さなトカゲを見せてきた。


「そうそう。最近バイチークからやってきた友人が連れてきたんだ。

 友達らしくて、ずっと側にいたらしい。

 幼竜サイズへ、ストレス無く拘束魔法を使用できる凄い魔術師」


 また一つ横にずらすと、ミサスと女の子が二人きりの自撮り写真が出てきた。


「もしかして、この女の子?」

「そうそう。フームって言う。

凄い奴と聞いたから、隊へ入って貰おうとスカウトしたけど、失敗した。

異世界出身の師匠たちから、女の子を口説く方法全て試したけどだめ」

「もしかして、“このスマホ凄いだろー”とか言ったりした?」

「ガフッ!」


 ミサスは、右に視線をずらした。


「駄目だよ。女の子一人で都会に来たら、警戒しているから」

「……結局は、こっちに落ち度のあるトラブルが合って、ご破算なったけど」

「駄目じゃん!」


 カリは、ミサスをからかった。


 クレパは途中で飽きて、川の魚を捕りにいった。


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