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2-15 筋肉を触りたい

 目覚めたのは、カリが一番早かった。

 身体は濡れていた。

 真っ白なバスローブが、水を吸って重たくなっている。

 周りを見渡すと、川のほとりいた。

 丸くなった石の上に座り込んでいて、川を挟んで森が広がっており、遠くの方で鳥の鳴き声が聞こえる。

 この場所は、館の側に流れていた川より下流へ流されたようだ。

 かなり魔力が大きいという感覚がない。

 あの死の森から、とても久しぶりに出てくることができた。


「ヘックシュ」


 くしゃみをした。

 こういった生理的な反応も久しぶりだった。

 人魂の状態が十年近くも続いて、肉体があるからこその反応は久しぶりだった。

 カリは立ち上がる。

 身体全体に重さを感じるのが、とても嬉しかった。


 風が通り過ぎた。

 ブルブルと身体が震えた。


 風邪をひいてしまったらいけない。

 近くに誰もいない事や気配を感じなかった。

 びしょびしょになったバスローブを脱いで裸になる。

 館の中では、あまりマジマジと見ることがなかったが、成長した私の身体をしっかり見繕ってくれた。

 ミサスとサンモさんはよい仕事をしてくれた。


 我ながら、実のお母さんとそっくりな、ダイナマイトな自慢できる身体だ。

 ここまで成長する時間を、ほぼ一人で過ごし続けた。



 嫌なことを思い出したと、カリはブルブル頭を振って忘れる。

 バスローブをギュッと絞って、水分を出す。

 魔力を使って熱を加え、乾いたところでまた袖を通した。

 そして、ゆっくりと他に人がいないか、声を出しながら探した。



 ミサスを少し離れた川よりも森に近いところで発見した。

 魔力はゼロの状態だ。

 暴れたクレパと水中でもみ合いになったと、カリと思い出した。

 川の方向には、所々吐瀉物が散らかっていた。

 流れ着いた後、何とか気力を保って這いながら、ここまで移動してきたことが分かる。


 様子を見ていると、眠っているが、冷たくなり、小刻みに震えていた。

 声をかけても意識が無い。


 日頃から鍛錬を積み、物凄く鍛えているはずのミサスがなぜ私よりも重傷かと不思議だった。

 胸の“恩恵”から桁外れの魔力供給で何とかなっているのだろうと納得する。

 それに加え、魔力が無くなった分極端に体力低下しているのも原因だろう。


 カリはミサスの服を脱がせ、治癒魔法や熱魔法を加えて、手当をしていく。




 日が昇り、気温があがった。

 今日は良い天気で、日差しが強く少し汗ばむようだ。


 カリは、ミサスにギュッと抱きつき、人肌で温めていた。

 少し状態を起こして、呼吸は安定したことを確認した。

 少し離れ、川の水で顔を洗った。

 とても冷たくて気持ちが良い。

 そして、器のように展開した魔力の結界(盾魔法の形を変形させる原理。普通は器を使った方が早い)で水を汲み、ミサスの元へ近寄った。


 ミサスのポケットにあったハンカチで、カリは身体を拭いていった。

 こうやって明るいところでミサスの身体を観察したのは久しぶりだ。

 といっても、十年前ぐらいに女の子の前で裸になった昔の話ではあるが。

 昨晩は、ホッチと共にミサスを誘惑合戦でボディタッチは多めにしていたけど、暗かったからよく見えていなかった。

 ホッチの声は、イケメンボイスで誘惑を行っていた。

 サンモが“疑似BL”と言っていたのが分かる。

 とても良い。悔しかったけど、とてもキュンキュンした。

 女の子はBLが大好きだ! 

 という彼女の説は、食事の時に力説していたことは、本当だった。


 話がずれた。

 ミサスの身体はしっかりと鍛え抜かれている。

 腕、腹筋、胸筋、太ももどこを触っても筋肉がぎっしりだ。

 いつまでも触っていたい。

 首元にある鎖骨を指でなぞり、唇に触れた。


 そして顔を近づけてキスをした。

 昔から、魔力の補給は口移しで行う方法がある。

 物語で愛し合う男女が弱っているときに、キスするのはこれだって言っていた。

 お父さんやお母さん達は、さらに大きな力を発揮した。

 そして、昔ミサスに同じ事をしようとして、ドジを踏んだ。


 今は成功していると思う。

 変に緊張している自覚がカリにはあった。


 手を置いた先には、濡れていた。

 おもむろにズボンをずらす。

 脱がした。


 そして敏感だから、絶対に触らせてくれなかったものを両手で手に取る。


 カリは、ミサスのものを咥えた。















「ありがとう。看病してくれて」


 夕方、目を覚ましたミサスがカリに対して感謝を述べた。

 森に落ちていた枯れ木を拾い集めて火をつけた。

 食料は、川で泳いでいた魚をカリが捕まえた。


「でも、やたらくっつき過ぎじゃないか?」


 ミサスは、隣に身体を密着させて座っているカリにそう呟いた。

 一番目を覚ました時、右手を口に咥えてられている状態だった。

 呪いの関係で一番敏感なところ。と説明したから、刺激を与えてみたのだろう。


「今は、これが一番落ち着く。こうさせて」


 カリは、ミサスの腕を胸へ抱き寄せた。









○ボルガリア


 ミサスが意識を取り戻し、場所も変わり、時間が過ぎた時。


 ここは、ボルガリア。

 コロコロの屋敷が位置している“死の森”から、一番近くて大きな街。

 守護隊の地方拠点であり、凶暴なモンスターが現れると、ここから派遣される。

 マツカイサ帝国へ繋がる道と、他の国同士を繋ぐ道が交差し、必然的にモノが集まってくる。


 コロコロ邸が他大陸の暗殺ギルドリーダー。

 かつて、イストール地方の裏社会で名の知れたサクサクラ一族の生き残りが襲撃してきた。

 非常事態があったとき、ここまで後退を行う手筈になっていた。

 ホッチ・サンモ・ケコーンの三人は、着いてからミサスの合流を待っていた。


 到着後、三人は、カリ・コロコロへ財産が譲渡されたという書類手続きを最初に行った。


 次に、守護隊の基地へと向かった。

 マツカイサ帝国の使者である証を見せ、用件を伝えた。

 地方の端から端までつながる遠距離通信の魔法陣を使用するためだ。

 高価な魔宝石を使用するか、魔力が膨大で腕が立つ魔術師でしか動かせない。

 サンモが動かせたから、現地の守護隊に嫌な顔をされずに済んだ。


 マツカイサ帝国の上層部は、ひとまず待機。ミサスの合流を待てという指示だった。

 大けがをしていても、一週間程度ならばここへ合流か連絡を寄越してくるという話だった。


 三人は待った。

 取りあえず、守護隊には任務の内容を口に出さない程度に事情は通した。

 後々険悪な状態にしたら、面倒である。


 実際にクレヨの襲撃があるか? と思ったが全くない。


 ヤツの目的は二つ。

 恨みのあるニルキの娘。カリの命(恩恵“狩猟王”込みで狙われているのかもしれない)。

 同じサクサクラ一族であるクレパの身柄。

 ミサスの方へ集中している感じだ。

 無事だと思いたい。共通の認識だった。



 クレヨへ対抗するために、各自準備や方針等の話をした。

 息抜きに、ボルガリアの街を堪能したり、守護隊の訓練に参加した。

 ケコーンは、ここの守護隊に早くも打ち解けていた。

 男性の多い場所では、カリスマを発揮するタイプとホッチはメモにとった。



 そして、新たに今日上層部から連絡が入った。

 通信魔法陣経由ではなく、封書だった。

 特殊な封印をされていて、慎重にホッチが解きつつ開けた。



「どうだった? ホッチちゃん」

 

 サンモは、あの館から逃げたときからこの呼び方になった。

 かなり大変だったらしい。


 文面を一度確認した。

 ホッチは一度目を閉じ、そして開いた。


「最初に、“異世界転生・転移者”の存在はご存じですよね」


 そう二人に問いかけた。


「ああ。先日襲撃してきた影王(※序章参照)から聞いた」

「我々の部隊。マツカイサ帝国騎士団第二隊は、そういった存在へ対抗する人材を主目的として結成されました」

「そうなのか。確かに影王と同等な力と見積もっても異世界出身者は厄介だな」

「へー。世間の評判通り、人道支援を主目的とした」

「はい。隊長は一人、そのことについて悩んでいました」


 実は、あの人温厚だけど、裏ではかなり政治を行っている人です。

 と、ホッチは噛みしめるように言った。


「ミサス隊長は、世間には公表されていない異世界出身者の師匠が沢山います。

  “異世界からやってきた”と大枠で判断すると、ニルキ・コロコロみたいな悪人から、

 ジョー・サカタ氏のような全うに住んでいる人もいます。

 今回、あまり携わっていないカリさんを助けるのが主目的にありました」


 ホッチは命令書をひっくり返して、文面がよく見えるようにした。

 二人はのぞき込む。


「上層部から命令です。

 ホッチ、サンモは、ケコーンを隊長とし指揮下へ移動。

 上記三名は、カリ・コロコロの身柄を拘束。

 恩恵“狩猟王”を確保し、封印せよ。

 バイチークまで護送されたし。

 ※襲撃される可能性が大きく、用心せよ。

  抵抗する存在や敵対行動を確認した場合、即刻排除せよ。

  なお第二隊長ミサス・シンギザ、クレパ・サクサクラの両名は、生死不明の扱いとする」


「な。これって」

「はい。ミサス隊長とクレパを殺してでも、という命令です」


 サンモは絶句し、ホッチはやりきれない顔が堪えきれない。






「仕方ない。上からの命令だ」


 ケコーンは冷徹に言い切った。


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