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2-13 暗殺ギルドリーダー襲来


「ギルド……他大陸の勢力か」


 ミサスは呟いた。



 ギルドは、社会制度の一つだ。


 イストール地方を除く三つの地方で導入されている。また、この世界の風俗を描く上で欠かせない。


一般に、個人へ対して“冒険者”もしくは“職業”登録を行えば、クエストと呼ばれる仕事の依頼を受け取ることができる。

 クエストにはランク制を取り入れており、初心者から上級者向けと棲み分けを行っている。

 単独、またパーティーを組んで複数名と組んで受ける事もでき、クエストの範囲は幅広い。

 冒険者(職業)登録を行えば、地方内ならば身分の保障ができ、ランクが上がれば行動範囲の制限が少なくなるといった利点がある。

 これらは冒険者ギルド(酒場が併設されている場合が多く、同業者とのコミュニケーションが取れる)で、一括に管理されている。

 地方全域に支部が置かれており、冒険者への登録者は多い。

 ギルドの建物に行き、冒険者の身分証を見せれば誰でもクエストを受けることは可能だ。

 




 暗殺ギルドは、そっくりそのまま裏世界で暗躍するモノだ。

 表の冒険者ギルドと兼務している存在もいるらしいが、身分の隠れ蓑として相性が良い。

 その名の通り、暗殺を生業とし、国の高官や要人を手にかける。



 イストール地方では、ギルド制を取り入れていない。

 理由は沢山あるが、冒険者は個人単位で動いており、国や共同体といった存在が干渉しづらく、調整の効きづらいといった“権力者”からして不安定要素が大きい。

 そして、暗殺ギルドに所属するものがいる等、素性の怪しいものが混じる可能性が大きい。



 そもそも、異世界出身者へ対抗する組織作りを考える国があるところだ。


 イストール地方では冒険者という存在は稀少だ。




 ミサス達が、一番反応したところは別だ。

 サクサクラは、イストール地方で裏の世界で暗躍し続けた暗殺一家の名前。

 クレパが一族の中で唯一の生き残り。という認識がメンバーの共通認識だった。




 そして、過去にニルキ・コロコロと衝突し、壊滅したというのが世間に出回っている。


「我は! 地べたの水をすする思いだったか! 他大陸でどれだけ屈辱を味わってきたか!」


 確かニルキとサクサクラ一族が衝突したころは、現在のように大陸間での移動がギリギリ制限されていた筈だ。

 他大陸まで逃げる必要性があるのは、相当なことだった。

 どれだけ、茨の道を歩んできたか想像に難しくない。


「ニルキの正体を見破るのに時間がかかったぞ。異世界転生者という者か。そんなふざけた者に負けたとは、我のプライドはが許さない」


 異世界転生者という存在は、どの勢力であっても秘匿されている情報だ。

 これだけで、情報収集力は危険レベルと判断してよい。


「ニルキを処刑する噂が届いて、どこかの組織が先にヤツの首を盗られる前にっと思ったけど、実際手にかけたのは、力に酔った若者だ。それは仕方ない。我の落ち度だ。寧ろ単独であの連中を倒したと賞賛に値する」

「暗殺者が名前を名乗るときは、」

「そうだな」


 クレヨは、手に持っていた手裏剣をカイチュンに投げつけた。

 震えていた身体は、コトッと活動を止めた。



 サンモは、クレヨに向かって攻撃魔法を放った。

 “恩恵”から放たれる魔力量は膨大だ。

 この熱量を正面から受けると、盾魔法でも防ぎきれないものの筈だった。


「ほう。無詠唱か。ニルキには散々やられた」


 全くのノーダメージ。

 しかも浮遊魔法で、カイチュンの遺体を盾にした。

 変わり果てた姿に、カリは目が離せない。

 

「火葬ご苦労様。カイチュンも最後はご主人に介錯してもらって喜んでいるだろうよ。散骨だ」



 クレヨは、カイチュンの身体を破砕した。

 辺りが焼けた血の臭いで漂う。


 カリの頬には飛び散った血が付いた。

 彼女の心を折るには十分すぎた。


「何で? という顔をしているな。年長者から助言だ。無詠唱の普及には、魔法発動の短縮と魔法発動による言葉の仕組みの二つを解明した。仕組みが分かれば、単純な無詠唱ごとき凌ぐのは朝飯前だ」


 この言葉に執念を感じる。


「ヤツに血が流れている点は癪に障るが、ここまでの魔力量は魅力的だな。気が変わった。我が一族の復活のために我の子を孕め。女として、最低限の扱いはしてやる。どうだ……」


 突然、クレヨは黙った。

 前に出していた手に手裏剣が刺さり、赤い鮮血がポタポタと床に落ちた。

 ミサスは、先ほど投げられた手裏剣を投げ返していた。


「調子に乗りすぎだ」


 ミサスはかなり怒っていた。

 クレヨは、懐から何十もの手裏剣をミサスへ投げつけた。

 全てを掴んで、床に落としていく。

 毒が回る前に聖水をかけて、解毒するのも忘れない。


「魔力の切れのまま我に刃向かうか? 器用さには自信があるようだが。無謀にも程がある。聖水もいつまでストックがあるんだ?」

「確かにそうだ。仲間に頼ることにする」


 ミサスはさっと横にずれた。


 後ろから、巨漢の斧使いの男が、クレパの目の前に突撃してきた。


「突撃走法か!」

「ケコーン吹っ飛ばせ!」

「オーラァァッァ!」


 反応できないまま、斧がクレヨの身体を捉え、後ろへと吹っ飛ばした。

 屋敷の周りを囲む森の中へ落ちていったことを確認した。


「隊長ご無事ですが」

「ああ。それより、この屋敷から撤退する。」





「クレパを連れて行くのですか?」


 ケコーンは、そう言ってきた。

 ケガの様子を見るに、一悶着あったのは確かだ。


 一行は、クレヨの飛んでいった方面の反対。裏口で馬車に乗り組んでいた。

 ホッチが、一人で馬車の手配をしてくれたおかげで、スムーズに脱出出来そうだ。


 ミサスは説明する。


「クレヨの狙いは、カリの命と、同一族であるクレパの身柄だ。クレパがどういう状態か確実に分かっていない今、ヤツに渡すのは危険だ。一旦引いて仕切り直す」

「重要書類や武器は、載せています。重すぎるものは収納魔法で、緊急にサンモさんに頼んでいます」


 サンモを別行動させて良かった。とミサスは、あの時の賭けにかったようだ。

 

 ホッチが手綱を握り、馬車を発進させた。


 すると同時に、館が炎に包まれた。


「お家が……」

 カリは虚ろな目でそう呟いた。


 恐らく、ホットスポット下でクレヨが手加減無しに放ったものだ。

 この後、筋肉痛と同じ原理で魔法が使えなくなるデメリットがあるはずだ。

 ここまでの威力を自在に使える魔術師だとは考えたくない。





「早すぎるだろ……」


 館の周りには崖になっている。

 谷の底は急流になっていて、水が早く流れていた。


 丁度、橋の真ん中に来た時、追いつかれた。



「我がサクサクラに流れる紅き瞳。それを解放し、」

 これは洗脳魔法! とサンモが気づいた時には遅かった。


 クレパが拘束を解けて、カリの身へ突進した。


馬車はパニックになる。


ケコーンの腕、サンモの魔法をするりとかわし、カリを抱えて、飛び降りた。


その着地した衝撃で、吊り橋は揺れた。



「いい加減にしろ! クレパ!」


 ミサスは食いつき、二人ごとそのまま飛びついた。

 その反動で、バランスは崩れ、3人ごと谷へ真っ逆さま。

下のところで、大きな水柱が立った。




「どうかしましたか!」


目線を外せないホッチは、叫んだ。


「隊長とカリ。クレパが落ちた!」


大きなホッチの舌打ちが出た。

橋を渡りきり、馬車を止めた。


「そのまま橋を落としてください!」


 再びホッチは叫んだ。


「でも、隊長を」


 返事を聞かず、ホッチは腰にある銃を引き抜き、吊り橋の綱を売った。

大きな音で馬は驚いたが、手綱をしっかり握り、興奮させなかった。


 全ての弾が一箇所に命中した綱は千切れ、橋は大きな音を立てて崩壊する。



「ホッチ……」

「ここは引きます。私達は、あの暗殺ギルドリーダーには勝てません」


 ホッチは手綱を握り、馬車を全速力で走らせて、この場を脱した。













「逃げたか。思うようにいかないものだ」


燃え盛る館を背景に、クレヨの笑い声が響いた。


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