2-12 MP(マジックポイント)0ミサス
「隊長。大丈夫なのですか」
「無理するなサンモ。お前より大丈夫だ」
ミサスは無事をアピールする。
しかし、サンモの言っていることはもっともだ。
表面上は大丈夫でも、ミサスは魔力切れを起こしている。
師匠ウケの良いように言うと、MPがゼロの状態だ。
魔力切れの体というものは、とても危険な状態だ。
魔法を行使しようと思っても、ピリピリと痺れたり、貧血と同様の症状が出るのが特徴だ。
魔法の加護が切れており、体が大変貧弱な状態になっている。
それがどういうものか?
一番特徴的なものは、治癒魔法が効かなくなることだ。
意識はしていないが、体の表面に薄い盾魔法が、どの動植物張られている。
それを身体の回復へ作用させることが、治癒魔法の目的になる。
それができない。
そこまで欠乏状態になると、誰でも魔力の回復が極端に難しくなる。
ゼロからイチより、イチからニへ増やすのが簡単な理屈だ。
本来の予定だと、ホットスポットに沸く温泉の効果を期待して、ミサスの身体を回復させる手筈だった。
この儀式に際してこういった状態に陥ること。絶対にカリには言うなとミサスは言っていたが、カリがそこに気づかないわけは無いことは、観察していてサンモは分かっていた。
もうそろそろ、ホッチみたいに頭を使って気を回すことに限界も感じていた。
「サンモ。クレパはどういう状態だ?」
「良い知らせとは違いますが、何かの洗脳的な術がかけられています。恐らく、先日の盗賊騒ぎで単独行動中に何か仕込まれた。その時が一番怪しいです」
「他には?」
「ここを襲撃した首謀者がここにすぐ来ます」
バタン
正面の玄関が大きく破られた。
そして、そこから悠々と歩みを進めた。
最初にフードと共に身体を纏っているマントが特徴的だった。
汚れていて、所々切り裂かれたり、魔法攻撃の痕跡のあるボロボロだった。
ミサスより背の低い男性。
魔法道具であろうブレスレットが、両腕につけている。
見た目は、落ちぶれた魔術師という表現が正しいのか。
微かに漂う臭いは、とても鉄臭かった。
「誰ですか? 私の家に断りも入ってきたのは」
初めて声を出したのは、カリだった。
ミサス、サンモは警戒を怠らない。
「私は…… 高貴な“狩猟王”を、人形如きに使いやがって」
その言葉と共に、懐から何かカリに向かって飛び出した。
ミサスは、右手で飛んできたそれをカリの前で掴んだ。
だが、手に持ったところから煙が出た。
「手裏剣……。チッ毒か」
ミサスは、腰に巻き付けていた小瓶から聖水を右手と掴んだ手裏剣にかける。
聖水とは、簡単に言えばどんな劇物も洗い流せる代物だ。
こういった暗器使い相手には、必須のアイテムである。
「おかしいよね。ここの結界お父さんとお母さん達が、私を閉じ込めるために作った特別なものだし、ミサスとその信用している仲間の方は恋敵でも例外だけど、あなたはお呼び出ない」
カリは物凄く起こっている。
「ああ。胸に“恩恵”で飾っている成金しか、ニルキのガキはいないのか」
そして、侵入者は呟いた。
「お帰りください。あなたをこの館へ向かい入れることはない」
「おいおい。俺はニルキの知り合いだぞ? まっあの男が侍らせていた娼婦に孕ませたガキ一人に対して交友関係をわざわざ伝えないか」
「帰れ!」
おうおう。そんなにカッカッするなよと男は笑う。
「外でカイチュンおじさんがいつも見守ってくれていたことは知っている。こんな男をここへ近寄せなかったはずなのに!」
カリは今にも飛び出しそうな雰囲気だが、間にミサスが入って止めている。
「カイチュンか?」
その名前を聞いて、初めて男は不機嫌な反応を見せた。
傍らに収納魔法の入り口が出現した。
ずるずるっと大きな物体が、滑り落ちてきた。
「な、」
サンモが思わず目を背けた。
ミサスは微かに残っている記憶から、誰かを確認する。
そしてカリは、目の前に反応ができない。
「お嬢さ……ま……」
中からは瀕死の中年男性が出てきた。
魔法による生傷が大きく、肉が抉れ、白い骨が見えるところまでいた。
「カイチュン? どうだ? 館には入ったぞ」
「に……げ……」
マントの男は、懐からミサスへ投げつけた手裏剣を取り出した。
魔法で加熱しているのか。
みるみる先端が真っ赤に変色していった。
それを、カイチュンの傷口へ当てた。
「アアアアアア」
「このマントも新品ツヤツヤの魔装だったのによう。手こずらせやがって……この裏切り者!」
絶叫がこの部屋に響く。
パチパチパチ
ミサスは突然拍手をした。
しかも、小さな音響魔法を使っている。
この部屋にいた誰もが注目をした。
「ああ。外で大けがされたんですね! 早く言ってください。止血されているんですね」
「あ?」
「サンモ。救急セットや包帯を持って来てくれ」
「お前何を言っているんだ?」
ミサスは呆れ声に最初は無視し、サンモを移動させた。
「私はミサス・シンギザ。マツカイサ帝国の使者として、ここの館の主人。カリ・コロコロ女史を訪ねてきたものだ」
「ほう。松国の高官か。憎っくきニルキに媚びを売るか?」
「いえ。仕事なので」
「ああ。分かっている。貴様らが、この館へ訪問する情報は得たからな。盗賊共をけしかけて罠をしかけておいた。思った以上に効果はあったようだ」
ちらりと、クレパへ目線を向けた。
縛り付けたものの、必死にもがいて拘束を解こうとしている。
「我が一族の生き残り。サクサクラの生き残りを見つけると……な」
男は、ここだけ優しい顔をした。
「我の名はクレヨ。サクサクラ一族の正当なる後継者にして、暗殺ギルド“パステル”のリーダーだ」
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