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2-11 サンモ(魔術師)vsクレパ(短剣使い)

 魔術師は、巨大な魔法の一撃を放つか、後方で援護や治療といったサポートに徹するという役割が主になる。

 サンモは、第二隊の中では、後方で情報収集が主になる。

 他に、大きな援護攻撃や、罠の設置。回復魔法を得意とする。


 短剣使いは、短剣で格闘・投擲による中距離攻撃・身軽さによる偵察や奇襲といった役割だ。

 クレパは、年齢は第二隊で比較的若いものの、一番暗殺術に優れている。誰にも気づかれること無く、次々と屠っていく。

対策を怠れば全滅は必須だ。



 サンモは圧倒的に不利だ。

 そもそも彼女に、対人戦や格闘戦の心得はない。

そして、屋内といった閉鎖的な空間で対峙するのは、自殺行為に近い。

 しかし、勝算がないわけではない。


 クレパは、サンモに飛びかかってきた。

「重力!」

 バンっとクレパは、途中で床に叩きつけられた。

 サンモは、クレパの身体にかかっている地面へ落ちる力を増幅させた。


 一対一の対人戦闘では、どれだけ魔力の発動を短縮できるかが、基本になる。

 現状、魔法の発動には三つの種類がある。

 呪文(通常詠唱)・三単唱・無詠唱だ。


 呪文。通常詠唱は、発動への安定性が抜群だ。

しかし、他二つに比べて発動までの時間が大きく、魔力のムラが大きい。

発動条件が高度であったり、集中が必要だったり、儀式的な行事な場合に用いられる。

また、呪文の言葉を芸術の観点から見る文化活動も盛んだ。

歴史は魔力を人間が最初に使った時から……と全て語るには尺が足りなくなる。


 三単唱は、三つの単語の組み合わせで詠唱をより短縮を目指したものだ。

現在も初級魔法として最初に学ぶことが多く、世界的に普及している。

術者によって実力差が大きく出るものであるが、誰でも使いやすい容易性が主な特徴だ。

日常生活において、この基本的なものを覚えておけば不自由ない。

また、俳句や川柳といった短い歌との相性が良く、これも一定の文化人が好んで創作を行う1つジャンルだ。


 そして無詠唱。

 元々『慣れ』の範囲で魔力を行使する状態で、小さな魔法にしか利用できない。と庶民レベルで出来るのはそれぐらいとされていた。

それ以上の魔法に対しては、魔力を行使する根源を全て把握しておかなければならず、上級魔術師の専売特許に近い存在だった。

先の世界中を巻き込んだ動乱の中で、多くの魔法に利用できる方法が爆発的に広まったことにより、現代の対人戦で魔法を使う時の第一条件とまでいってもよい。

メリットは魔力発動までの短さ。相手が何を出してくるか手の読め無さ。

魔法を行使する人間がたどり着いた最上級の方法と言える。


 因みに、巨大なモンスター討伐といった魔法発動する時には、パーティーに警告も込めて、発動する種類や場所を、原則大声で伝えなければならない。

 危険だからだ。

 これは、既にモンスターを狩るときのルールに定められている。

破ると、温厚なミサス隊長でも本気で殴るほどのことだ。


 時間や場所。その時の都合により、使い分けられているのが現状だ。



 サンモは、必要となる魔法を、全て無詠唱で発動できる。

 そして、この場所は、今いる中でこの部屋の構造を一番知っている自信がある。

 今は、クレパの行動をどれだけ制限できるか? が勝機だ。

 対応される前に一気に決める。


「雷!」

「激流!」

「烈火!」

 電撃に、水攻め。炎。

 手加減はしていない。

 クレパ。操られているならゴメン。とサンモは念じる。



 そうして、クレパの身体に確実にダメージは溜まりつつあっていた。

 攻撃を受けつつも、ゆっくりゆっくりと立ち上がっていく。


「マズイ! サンモさん!」

 後ろからの言葉に咄嗟に反応した。


「盾魔法!」

 正面に、魔力の盾を構築した。半透明な、魔法陣が浮かび上がる。

 そして、クレパは耳が耐えられないほどの轟音を放った。


 捨て身の音響魔法。

 この人全体を揺らし、魔力の流れさえも揺らす。

 これは、クレパの使用する最大の打開策だった。

 範囲は狭いが、敵を一時的に行動不能へ追いやる。


 そして、音を盾魔法で防御することは、かなり難しく、高度な技術だ。

 そして、ここは屋敷の中という閉鎖空間だった。

 サンモは、自らも影響の出る恐れのあるこの魔法は使わなかった。

 

 そして、この技への防御は展開するのが遅れた。

 壁で反響した衝撃波は、サンモの身体を全方向から襲う。


「くっ!」

 サンモは倒れ込んだ。

 目の焦点。手や足の震えが止まらない。

 音響魔法は、相手の動きをこのように麻痺させる。

 魔法で正面から破られたのは魔術師として悔しいが、とにかく周りを確認することだ。自分の身体しっかりしろとサンモは言い聞かせる。


「サンモ!」

 前に、クレパは立ち上がり、短剣を持ったままこちらを見ていた。

 化け物かよ。

 サンモは、前に盾魔法を展開するが、クレパの猛進を止めることが出来ない。

 すぐに破られて、懐まで入られた。


「!」

「これでも」

 柔らかい盾魔法をクレパと身体の間に挟み、硬いと思っていたクレパの短剣を減速させた。

 最初の一撃は、服だけを切り裂いた。

 続けて、風魔法を使って、サンモは距離を取る。

 防御性能のある魔装の筈だが、魔力がしっかり伝わっていないようだった。

上から下着まで一直線に切り裂かれた。下を見たら、素肌が見えていた。

くそ。これは使えない。

乳首は引っかかって表に出ていないから、自慢のバストを露呈しつつ、えっちな状態だ。


 ちょっと女の子が襲われそうな時のシチュエーションに使えるなと思った。

それだけだ。

 サンモは、そう考えることしかなかった。


「原稿は、まだ印刷会社に入稿していないのだけどな」


 馬乗りになり、クレパはもう一回、サンモに短剣を振り下ろした。



「そうだ。サンモの新作は、俺も楽しみにしているんだ」

 後ろから、クレパを羽交い締めにし、サンモの身体から引きはがした。

 武器を取り上げ、もがくクレパに右手から頭へ何かを送り、ぐったりと沈黙させた。


「そう言えば、隊長は、仮面をつけて祭りの時に、過去作から最新刊まで買い占めていましたね。エロいヤツ。特に夜のオカズに」

「お、おい! バラしてはいけない!」

 シーっと、立ち上がったミサス隊長は沈黙のジェスチャーを送ってきた。


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