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2-10 隊長は頑張った

「終わった……ぞ……」


 その言葉を呟き、ミサスは倒れた。


「隊長よく頑張りました! ここまで来れば、私でも大丈夫です!」


 目の前には、カリさんの体が構築されていた。

 胸には、狩猟王の“恩恵”が貼り付けられている。

 直に魔力供給を体へ行うために、直づけが必要になる。

 カリさんの人魂は定着している筈だが、何も反応がない。


「不味いな。肉体の覚醒まで必要な魔力が足りないのか。早くしないと肉体が腐ってしまう」


 これが、“恩恵”の癖の悪さということか。

 といっても、私からの魔力供給を行うと、どこか拒絶反応をしてしまいそうだ。


 魔力切れで重度の貧血症状が出ているミサスに、ポーションを血管へ直接注射する。

 危険ではあるが、しょうが無い。

 そして抱えつつ、ミサスを抱えて、ミサスとカリの唇を会わせる。

 王子様が眠るお姫様をこうして眠りから目覚めさせる。

 というのが、創作の中で定番だが、今は人形のように口づけさせていて何か哀しくなった。


「う、ううん。サンモさん?」


 カリの体が目覚めた。


「良かった。至急です。体の調子はどうですか?」

「うん。久しぶりに体を動かせた。この感覚……」

「魔力の調子はどうですか?」

「はい。特に問題は無いはずです」


 傍らに、倒れ込んだミサスを発見した。

 這いつくばり、よろめきながらもミサスにキスをした。


 この儀式は、成功だった。


 周りを見渡し、サンモはこの屋敷は凄さを確認した。

 カリさんの人魂を、この世に定着させるための魔法陣が一帯に巡らされている。

 そしてストレスにならないように巧妙に隠されていた。

 この玄関ホールの魔法陣もそうだ。

 まるで、私達がこの儀式を予見していたかのように用意されていた。


 周りを見ると、館の中で侵入者を知らせる反応が出た。


「敵襲? どこだ」


 この屋敷内にちりばめていた式神を起動させる。

 バイチークの名産の魔術紙で作られたもので、何かと便利なので大学の授業で専攻していたものだ。

 

 万が一のために、数体だけ監視用に配置していたものだ。

 視覚が繋がった。

 館を全力で疾走する存在を確認した。


「クレパ?」


 いつもとは違う目をしたクレパの姿があった。

 そして視界が消えた。

 おそらく、察知して斬られたのだろう。



「大丈夫ですか? ケコーン!」

「ホッチ殿……何とか。鍛えていた体が盾となってくれた」


 ケコーンの肉体は鋼のように鍛え上げられている。

 その分厚い筋肉層が、クレパからの一突きを凌いだ。

 ホッチは、部屋の片隅にあった救急箱を取り出し、止血作業を行う。


「クレパが裏切った。隊長の元に向かったのだろう」

「はい。えっ」

「やはり“恩恵”だろうか?」

「分からないです。廊下で私には目をくれず、すれ違いました。外の敵に気づかれたからだと思いました」

「外の敵?」

「はい。この音か、もしかしたら魔力を感じませんか? 結界に攻撃をされています」


 止血の処置が終わったホッチとケコーンの目が合った。


「こうしては居られない!」

「ま、待ってください。今は……」


 制止するホッチを顧みず、ケコーンは護身用の剣を片手にクレパを追った。





「マズイマズイマズイ」

 サンモは一人慌てていた。


 クレパが真っ直ぐこちらへ向かってきている。

 あの子は、この帝国騎士団のメンバーの中では、一番の暗殺者だ。

 人を殺すことに長けている。理由は分からなくても、

 それに、この小国の国家予算が足りなくなりそうな結界を壊しにかかっている敵の存在も分かる。


「どうしたのサンモ?」

「敵襲です。もうじきここを襲撃されます」

「えっモンスター?」

「いえ。恐らく人為的です。誰かにここを襲われています」

「……危ないの?」

「はい。それに、クレパが敵の手に落ちたようです」


 カリさんが一番頼りにしているミサス隊長が、完全に沈黙している。

 正直、クレパに関してはこのように説明するしかない。


 気持ちを落ち着かせる。


「カリさん。動けますか?」

「ええ。とても力が漲ってくるような……」

「良かった。これからこの屋敷を放棄し、脱出します。宜しいですか?」

「でも、ここは私達家族の思い出の場所。ずっと一人ぼっちでしたけど」


 名残惜しそうに、カリは周りを見た。

 確かに豪華な装飾が目に入るが、元々は家族の拠点だったのだろう。

 もうこの世にはいない存在との思い出だ。


 サンモはカリの体にバスローブをかけた。

「申し訳ない。敵の侵入を許してしまったこちらの落ち度です。ただ、相手は結界を壊しにかかって来ています。ここで全滅してしまうと、誰も浮かばれません」


 少し間が開いて、答えた。


「分かった。ミサスの面倒は私が見て大丈夫?」

「大変助かります。それと“恩恵”の魔力が解放出来れば……」


 バタン!


 扉が破壊され、クレパがこの部屋に乗り込んできた。

 辺りを見渡し、サンモの姿を捉えた。


「……私は、クレパの相手をしなければいけません。インドア派なのですけど」

「サンモ。とても優秀な魔術師。原稿に追われていつも落とす」

「今回は! 任務中に沢山描けたから大丈夫」


 クレパは赤い瞳でこちらを見た。

 確かに、いつもとは違うようだ。


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