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2-9 ニルキ・コロコロの遺言

 ニルキ・コロコロの遺言には、大きく二つの内容だった。


 一つ目は、莫大な資産の行方。現状、カリしか相続人がいないため。

 そして借金といった負債は、自動的に相続人へ迷惑を被らないような手続きになっていた。


 二つ目は、幽霊になってしまったカリについて。

 ニルキは、“恩恵”を使って、肉体を復元させる方法を掴んでいた。

 その方法を第三者に託し、カリの身体を復元することが書かれていた。

 これにかかる資金も、充分に用意されていた。

 ミサス達へ活動費として、それが使われている。



 ニルキ・コロコロが手に入れたのは、“狩猟王”の恩恵だった。

 生業としている家業とも関係があり、ニルキが使用できたと推測される。


 ニルキ・コロコロが帝国所有のホットスポットにいた目的は、この方法の実証実験と言われている。(後述するが、ミサスの存在が必要になると考えていたらしく、帝国騎士団第二隊の演習に合わせた。という憶測が、ジョー師匠を介して影王からの手紙に書かれていた)


 後日、関係者として遺言の内容に目を通す機会があったミサスは、“恩恵”の引き継ぎ魔法の習得に奔走した。


 そして今日、思っている以上に早く訪れた。







 “恩恵”は、それぞれ別の効果のある古代魔法器具だ。

 地脈から魔力の恩恵を引き出すことが可能で、今も現役で稼働しているものもある。


 “恩恵”の性能は、それぞれ設定されている能力の他に、いくつかのオプションがついている。

 その一つが眷属器の精製だ。

 触媒となるものを用意する必要があり、“恩恵”の精神的な繋がりが最低限必要になってくるなど条件はある。

 しかし、桁外れの魔力が“恩恵”を介して流れ込む。

 シンプルにずば抜けた威力を持ち、今なお第一線で使われ続けている理由の一つだ。

 カリに対して、それを応用することになる。


 “恩恵・狩猟王”の効果は、多くの動植物の力を司るとされている。

 様々な生き物の肉体、効果を複製し、自らの手足のように使う。

 そのものを複製して、従者のように自由に従えることもできる。


 今回の作戦は次の通りだ。


一、“恩恵・狩猟王”をケリ・コロコロに登録する。

二、“恩恵”の能力により、依り代となる肉体を精製。それを眷属器として登録し、安定させる。

 この二つの行程になる。


 人の身体を精製し、眷属器にすることについて。

 倫理的な問題の発生を危惧するが、自らの身体の延長にあたると解釈を行う。

 義手や義足に似た立ち位置だと分かりやすい。


今回の問題点は、大きく分けて二つある。


 一つ目は、カリが“恩恵”をしっかりとコントロール可能かである。

 現在、彼女は魔力だけの魂の存在。“人魂”といった状態にある。

 この状態だと、魔法器具は常人に比べて使用しやすい傾向がある。

 “恩恵”の場合でも、使用できた古い記憶が残っている。


 もっとも、試して見ないと分からない。

 そもそもこういった存在は、この世界でかなり稀少だ。



 二つ目は、呪いの関係上カリへそういった魔力操作を行えるのは、ミサスしかいない。


 正確には、ミサスの右手しかカリの人魂に干渉できない。

 ミサスの魔術操作は下手くそではないが、安定さは欠ける。

 それに世間に出回っている魔術道具では無く、

 失敗は許されない。



「再度確認です。ミサス隊長は、三単唱や無詠唱の使用と言った魔術の短縮は厳禁です。

 回り道を行っても丁寧に行ってください。

 その間、私が環境をしっかりと構築します。何があってもお守り致します」

「頼む」


 ミサスとサンモは最終確認を行った。



「お待たせしました」


 声の先には、階段の踊り場でカリが立っていた。

 玄関に繋がる階段を下りてくる。


 その姿は、白いバスローブで包まれていた。

 初めて出会った時の美少女さや、温泉で見せた淫らさとは全く違う。

 恐らく、カリ・コロコロの本来の姿なのだろうなとサンモは思った。


「そこの中心に寝そべれば良いのかしら?」

「うん。そうだ」

「分かった」


 カリは脱ぎ、全てが露わになった姿になった。





 ミサスが、カリを口うるさいだけの存在が、美しい女性と認識を変えたのは昨日のことだ。

 初めて会ったとき、あまりにも可愛いと思った。

 二人きりになった時、ひたすら胸の中で泣いていた。

 朝は、ホッチと共に二人がベットの中で裸になっていたのは、驚いた。

 一番目に入るのは、解放されて視界に広がるたわわな胸だ。

 てっぺんの小粒まで、触ったら柔らかそうな膨らみがとてもまぶしい。

 そして、くびれが滑らかな曲線を描いている。

 照れ隠しにそさくさと着替えて、今日の事に準備するため離れたのがいけなかった。


「コホン。隊長見過ぎです」

「ミサス。我慢できないなら、私の体を楽しんでからする?」

「隊長(冷たい目)?」


 女性陣の目線が色々痛かった。










○コロコロ邸 別室


「ミサス隊長は凄い人だ。


 大きな怪物やモンスターを、様々な武器を使って冥土送りにする。

 私は、短剣しか使えない。けど、これが一番都合が良い」


「お、おう。珍しく饒舌だなクレパ」


 ケコーンとクレパは同じ部屋にいた。

 ミサスの集中力と、儀式の装置が高度かつ繊細な環境を保つため、立ち入り厳禁となっている。有事の際は、サンモの結界が内部の人間へ教えてくれる手筈となっている。


「いつもは慎重に行動しているのに、こうして対面して。ホッチ殿は、ミサス隊長のために精の付く料理を大量に作っているし、」

「ケコーンは、斧使いで武人の家の出身」

「おいおいクレパ。あなたも魔力酔いか?」


 ケコーンの胸に、短剣を突き刺した。

 血を噴き出して、ズルズルと倒れて行った。

 クレパは間にある机の上をつかつかと歩き、短剣を、抜いた。


 その瞳は赤かった。



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