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2-8 かわいいお尻

 かつて女の子が瀕死だった。

 側にいた片思いの男の子の手を取って、最後の言葉を託した。

 それが呪いだった。


 カリの身体は幻のような、魔力だけで「カリ」という女性の姿が構成されている。

つまり幽霊だ。

 概念として生き続けたため、成長はした。普通の人のように意思があり、感情もある。

 ただ、幻のようなもの。魔力を制御する肉体が無く、地脈から過剰な供給のあるホットスポット以外では、存在を保てなかった。

 それから、ニルキ・コロコロの悪名の噂が広がっていった。

 男の子は、人を斬れなくなった。





「私はそんなこと信じれなかったし、生半可に魔術に心得があったから、ミサスの右手に私の身体が触れる呪いをかけたの。

 だがそれだけじゃなかった。触れた物の感情や想い。

 頭の中を感じ取ってしまう呪い」

「それなら尋問の手間が省けますね。そう言えば、ミサス隊長死人に対して右手を触っていたのはそういう理由があったのか」


 素直なクレパに対して、サンモはしーと強いジェスチャーを送る。


「でも、それは禁忌の黒魔法に抵触してしまいます。

 人と死体というモノに変わるグレーな所で、走馬燈を読み取ることに徹していると聞いています。

 これはある土地の慣習にあるもので、カリさんが心配なさるほど。ではないです」

「ありがとうサンモさん」


 ばさーっと立ち上がって遠くの方を見た。

 そして、にっこり笑って振り返って言った。


「もし明日、私の身体の錬成が失敗しても自分を責めないで」

「隊長と共に努力します」

「その時は、それ以上にミサスが落ち込みそうだけどね。あの人」


 同時にバシャーンと、大きな水しぶきを立てて立ち上がった。


「あら。可愛いお尻さん。生きていたの?」

「うるさい!」


 可愛いお尻のホッチは、ぬれた顔を手で拭う。


「ショタミサス様を知っているから何?

 私はここに覚悟を持って来たミサスの凄さを知ってる!

 さっきから聞いていたら、私が悪いとか! お姫様か!」

「もしかして妬いているの?」

「ええい! よい子ぶるのは止めた! こうだ!」

「わっわっもう!」


 二人は、バシャバシャとお湯をかけあっていく。

 ポヨヨンポヨヨンと二人の果実が揺れる激しい女の戦いを横目に、サンモはバナナのような頭悪い顔をした。

 そんな彼女にツンツンと、静かだったクレパが突いた。


「ホッチさんこんなに挑発してくる人でしたっけ? もぐもぐ」

「隠しているっぽいけど、ミサス隊長の想いがかなり強いよ。多分二人は似たもの同士。同族嫌悪。反発しあっていると思うよ」

「それに何で、かなりポンコツになっているのですか? もぐもぐ」

「多分、酷い魔法酔いだと思う。あの子、魔法の才や耐性が人より弱いから」


 手刀で器用に割り、温泉卵をつまみ食いしているクレパの頭をコツンと叩いた。











○翌日

「サンモ。昨日女性陣が入浴後のぼせ気味だったのは、何があったのか?」

「はっちゃけ過ぎました。それ以上に何もありません。何も無かったです」

「そ、そうか。それ以上は聞かない方がよさそうだな」

「サンモ。相談があるのだけど」

「何ですか?」

「昨日、ホッチとカリの二人が風呂から上がった後、やたらこちらに料理を食べさせたり、朝起きたら裸で二人がベッドの中に入り込んでいたり、急にどうしたのだろうか?」

「死んでください」


 クソ真面目にそんなことを聞いてくるミサスに対し、(略)付き合いきれないので死ね。



「ホッチさんの大変さがよく分かります。今はポンコツ具合が酷いですけど」


 ホッチはミサスへぼやきながら、床に巨大で複雑な魔法陣を描いた。

 コロコロ家の屋敷に到着した翌日。二人は、正面入ってすぐの巨大な玄関ホールに移動していた。吹き抜けの広い空間が確保でき、今回の儀式に丁度良いものだった。


「頭の中が完全に魔術構築や、今からの行程で頭いっぱいだから、見落としていたことがあるかもしれない。それに」

「うだうだ言っていたら、ヘイト貯めますよ。話聞く限り、平凡と言い張る主人公の気持ち悪いところを凝縮したような、贅沢な言葉です」


 ミサスの言葉を、ばっさりと両断する。

 本当は、昨日からのホッチとカリの件について、かなりお腹いっぱいで聞かれたくないのが本音だった。


「創作のネタは集まったか?」

「ええ。たんもりと。祭り三回分の原稿が描けます」

「そうか。楽しみだ」

「最後に一つ良いですか?」

「何だ?」

「ミサス隊長。かなり愛されていますね。ここに来てから一番名前を聞いています」


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