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2-5 任務概要

「見事です隊長。銃の盾魔法への弱さを、斬撃と併用することでカバーするとは」

「老人相手に長期戦は危険だ。我々と経験と場数は遥かに上だ。短期決戦でなければ、こっちがやられる」

「…………」


 空気を変えようと、ケコーンは話題を振った。


「良い眼鏡ですね」

「この眼鏡は遠くの物だけで無く、ある程度の魔力量の違いも判別できる。サンモを初めとした魔術師や、シジキ姉妹のように凄い目を持っている訳ではないからな」


 まっ安物だから、死の森に入ったら使い物にならないのだけどね。とミサスは続けた。

 隊長に余裕があるとケコーンは確認した。


「ミサス隊長。お願いがあります」

「何だ」

「あの子供二人の弔いに行かせてください」

「生きているぞ」

「えっ」


 ケコーンが間抜けな顔をした。


「いや。元々身体に仕掛けられていた魔方陣が気になった。この短時間で撤去するのは難しいから、煙の出て、死なない程度のものに上書きした。今頃クレパが二人をサンモのところへ運んでいるはずだ」

「いつの間に」

「ケコーンはこういう筋の通っていないことには起こるタイプだろ。そもそも人間爆弾に改造されていることは、本人達にも知らなかったようだ。それに」


 ミサスはケコーンを諭すように言った。


「頭に血が上っていて、話を聞いていなかっただろ」

「反省いたします」

「この先そういった感情が大きくでるホットスポット下だ。俺も、周りが見えなくなる可能性があるとは言い切れない」

「その場合どういたしますか」

「必要ならば、迷わず斬れ」



 村に入った時、前に来た時と雰囲気のおかしいことが、ミサスには気がかりだった。

村人に見慣れない人相の悪い男が無視出来ぬほど多かった。

 スライム討伐の話も半分は、村に長く滞在することの理由付けだった。

帝国騎士団の動向を知るものならば、辺境の村に帝国騎士団は日中ほぼ素通りする(実際に盗賊の首領は帝国騎士団に恨みを持つもので、効果はあったと考える)。

 ミサスとホッチはスライム退治。サンモとケコーンは馬車の警備。クレパは村の偵察を行っていた。

そして村を出た所で、素直に尾行してきたところを撃退した。


 ミサスとケコーン二人は、馬車のところまで戻ってきた。


「荷物は無事のようだな」

「はい。盗賊の一味の死体の処理は済ませておきました。数が多いだけに火葬ですが」

「十分だ」


 出迎えてくれたクレパの報告を聞いた。


「そしてミサス隊長。お聞きしたいことがございます」

「なんだ」

「もしかして隊長。人を斬れないのですか」

「…………どうしてそう思う」

「ミサス隊長が人にたいして剣を振るうとき、利き腕である右手だと硬直が現れます」


 クレパの言葉に、ミサスは何も言わない。


「それに銃とわざわざ併用する必要性が分かりません」

「俺の右手は繊細だ。だから、対人戦には飛び道具に頼っている。後、銃の試し打ちもしたかったし」

「……分かりました。ありがとうございます」


 クレパはそういって、引き下がった。

 馬車の周りに全員が集まっており、サンモによる二人の処置は終わったようだ。


「騎士さん。カイチュンおじいさんを知っているの」

「ああ。協力を仰ぎたかったが残念だ。よろしくと伝えておいてくれ」


 おびえている幼い女の子の問いに答えた。


「何で死の森へ行く」


 ホッチが何か言いたげだったが、ミサスは構わず答えた。


「知り合いの怖いお姉さんに会いに行くんだ」




 ミサスを筆頭に第二隊から、メンバーは上層部とミサスの意見から選抜隊が組織された。

 今回ミサス率いる小隊任務は、古代魔法器具“恩恵”の輸送だ。


 “恩恵”はこのイストール地方で、古くから確認されている強力な魔法器具だ。

かつて世界に君臨した権力者が、各分野で功績を挙げた人物へ贈られたものという説が歴史学者で広く語られている。

歴史上、数多くの戦いや各分野の発展に“恩恵”をもたらしたものという認識が強い。

 世界中で勃発した先の動乱でも使用され、世界の英雄をはじめ、“恩恵”持ちは戦いや時代の潮目になった。

 デメリットは、中途半端な使い手では暴走の危険が高く、たった一つの暴走で国一つが無くなった噂も流れる。

逆に一度安定させて稼働させることができれば、そういったリスクは、確認されていない(これは最初の担い手専用にオーダーメイドされているからとも推測されている)。

 時代が流れて、癖があるものの、使いこなせれば最前線の一等級のものと引けを劣らない。時には圧倒することもある。

 現在、他大陸に流出しているものがあるものの、“恩恵”はかなり厳重に管理されている。

 強力な魔法器具であるが、稼働状態であるものは少ない(正確には使える人が実力的にも経済的にも合致した存在が少ない)。

 一つ一つが歴史的な価値のある品でもあり、家宝や骨董品として保管されることが多い。

 所持について、国への登録が義務づけられている。

 ジョー師匠から聞いた影王の動機として、現在の“恩恵”の所在を再調査していたと聞いた。


 本題に戻る。

 “恩恵”狩猟王の持ち主であったニルキ・コロコロとその一族は、先日影王に扮したバイチーク城の門番カズルに襲撃され、使用人もろともほぼ全滅させられた。

 その財産は、死の森へ長く訳あって幽閉されていた、コロコロ一族たった一人の生き残りであり、ニルキの実の娘である女性へ相続される。

 書面上の手続きならば、もっと少ない人数の使者で大丈夫だ。

 ただ、つい先日暴走した“恩恵”の輸送が行える者は限られてくる。


 悪名は大きかったが、世界中で名のはせていたハンター一家の壊滅は大きなニュースにもなった。

帝国上層部は腰を入れて対応する必要性があった(名前を伏せられていたが、世界の英雄一族からお悔やみの手紙が届いた噂も聞く)。

 表向きは、マツカイサ帝国の使者だが、実態はコロコロ一族虐殺の関係者であるマツカイサ帝国騎士団 第二隊が選ばれた。

“恩恵”輸送にも対応でき、狙ってくる野盗といった存在へ対抗できる。


 特に隊長ミサス・シンギザは、首謀者であるカズルと、その女性それぞれに接点のある人材だった。

 女性のいる超濃度ホットスポット(別命 死の森)への道も知っている。

 極めて異例であったが、かなり妥当である判断と言える。

 何よりミサス本人の強い希望があった。と、同行しているメンバーはホッチから説明を受けている。


「着いたぞ」


 死の森の中に位置するニルキ・コロコロの屋敷が見えてきた。

 全員、強力な地脈の影響を軽減するため、魔力矯正器具を身につけていた。

 屋敷の周りには、かなり強力な結界が貼られているのを全員認識した。


「ようこそいらっしゃいました」


 白いワンピースを着た女性が、玄関の前に立っていた。


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