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2-3 銃の試射

 物凄く憂鬱である。

 こんなに乗り気ではない任務は久しぶりだ。

 サボりたい。

そんなことをすれば首が飛ぶ。物理的に。

 バイチークの祭りの準備を

 それもこれも任務が悪いせいだ。


(ミサス・シンギザの殴り書きより)







 スライムはタフな生き物だ。

水のあるところという限定であるが、この世界で広くその地に適応した個体が生息している。

ミサスの目の前には、その中の一つが倒れていた。


「隊長固まってどうしたのですか?」


 遠くのホッチの叫び声で、ミサスは我に帰った。

 ガスマスクを取り、顔を見せて手を振った。

 ミサスの格好は、スライムの粘液に耐性を持つ防護服状態だ。ずんぐりむっくりな見た目だが、スライムはそこまで素早いものは稀でこの格好で対処できる。

 スライムには多くの種類があれど、中にある核を破壊するか、凍結か蒸発させて始末するのが一般的だ。今回対峙したものは、粘液が皮膚に付くと酷いかぶれが置き、痒さが止まらなくなる。

 死にはしないが、ミサスにとってこれから会う人物に、そんな負い目を持ちつつ、望みたくない。ミサスはいつも以上の注意を払いながら任務に向き合っていた。

 沈黙したスライムの後片付けを行い、荷物を置いていた村へ戻った。



 ミサスが戻ると、村人総出でミサスを迎えた。


「あらかたスライムは片付けた。おそらく一年は村の作物への被害は抑えることはできるだろう。十分か」

「もちろん魔獣を倒して頂きありがとうございます。まさかマツカイサ帝国騎士団の方が我が村を救ってくれるとは時代が変わったのか……。感謝いたします」


 この村の村長がミサスに向かって深々と腰を曲げた。


「それにしても、男しか見かけないな」

「ええ。女・子供は家に避難させています。騎士様には取るに足らないものですが、我々には恐ろしいもので。野郎しかお迎えできず申し訳ありません」

「いや満足だ」


 ミサスは蔓延の笑みを浮かべた。

 その反応に、村人全員が


「あのおやぶ……違った村長。世界にはそう言った趣味があるそうです」

「バカ。分かっている」


 人相の悪い村民に、村長は怒鳴りつける。

 そんな反応をよそに、斜め後ろにいたホッチはミサスに小声で何かを伝える。


「村長。我々はすぐに村を出る」

「ほう。とてもお早いことで。よろしければ、どちらまで行かれるのでしょうか」

「とても濃いホットスポット。貴様らには死の森と呼んでいるところだな」

「やや。いくらスワリン連合最強の騎士様方でも、あの森へ入ることは好ましくありませんぞ!」

「だからどうした」


 ミサスは冷めた言葉と目で村長を威嚇した。


「確かに忠告はありがたいが、我らの行動を制限される筋合いはない」


 若い騎士だからと。心の奥で年長者である村長は高をくくっていたところがあった。

 それが消し飛ぶ程にミサスの存在に、その場の全員が威圧するほうだ。


「それに恋人にはこだわる方だ」


 村を背にし、ホッチの尻を触りながら、村を後した。



「なあ。ホッチの作戦通り、ことあるごとに威厳と男色趣味であることを演技しているが」

「ばれません。マウさんか、それに匹敵する以上の勘の良い人には効果がありません」

「そういったところを含めて信頼はしているが……。」

「私が喜びます。作戦にミサス様が私を愛でてくれる一石二鳥です」

「ちょっと待て」




 ミサス・シンギザは部下を連れて、バイチークから北東の方角へ北上していた。

 馬二頭が引き、ミサスが馬車の手綱を握っている。

 同行するメンバーミサスの副官的な存在であるホッチ。

 斧使いのミサス以上に屈強な身体を持つケコーン。

 移動中ひたすら漫画の原稿を描いていた鼻血の出やすい記録係サンモ。

 そして後方をずっと警戒している短剣使いのクレパ。

 計五人だ。


「隊長。そろそろ交代いたしましょうか?」


 ホッチは先ほどとキャラクターは変わり、クールな様子を見せる。


「最高です」


 そんなミサスとホッチ二人のやりとりを見て、サンモは鼻血が止まらない。

 好物を目にすると状況確認する頭が腐ると本人は自負している。

 その反応に慣れたのか、


「そういえば隊長。スケッチしている時に気づいたのですけど、面白い武器を使っていますね」


 ミサスの腰にある武器に注目した。


「ああ。これは銃だ」


 ホッチに手綱を変わり、ミサスはサンモの正面に座った。腰の専用ホルスターから銃を取り出す。

 全て金属製の機巧品だ。大きさはミサスの拳より大きいぐらいか。


「死の森へ入る前に、再度装備の確認と休憩を挟みたい。銃の試射もすることにしよう」



 丁度、野営に最適なところを見つけ、各々装備品を確認する。

クレパは付近を警戒し、偵察に出ていて近くにはいない。

 少し離れた所でミサスは試射の準備をしていく。その様子をサンモが見学する。彼女は後方支援が担当になるので、要所要所の場面のために全員の装備品を把握している必要がある。

 銃はミサスが持ち込んだもので、バイチークではあまり出回っていない武器だ。

サンモに銃について簡単に伝える必要性があるとミサスは判断した。

「銃とは弾に込められた火薬によって、この銃口から金属の弾を高速で撃ち出す飛び道具だ。弾倉が回転式で、連続して弾を発射可能だ」

 構造を一通り説明した後、ミサスは、銃口を誰もいない方向へ向けつつ、構える。

ミサスの利き手である右手で握り、引き金をかけず、人差し指をピンと伸ばしている。左手は上からかぶせているような格好だ。


「かなり癖のある構えですね。武器の小ささの割に大げさというか」

「他の飛び道具でも共通しているが、しっかり構えないと当たらない。シジキ達は簡単に弓を引いているように見えて、しっかり当ててくるのが怖いな」


 ミサスは引き金を引いた。パンと乾いた音が響き、弾が高速で発射される。


「一番の利点は魔力を使用しないところだ。魔法が制限される海上や、ホットスポット・デススポット下の稼働に、どんな魔力器具より高い信頼性を持っている」


 構えを解き、サンモの方向に向いた。

 今回の目的地は、地脈から高濃度の魔力影響があるホットスポット下だ。やわな仕組みの魔術器具はかなり影響を受ける。アイテムボックスも例外でなく、武器は携帯できるモノに限られる。


 ミサスは選んだ理由を淡々と説明していく。


「デメリットも沢山ある。大きな音のする割にそこまで攻撃力がない。数発撃てば、装填するための間が出来てしまう」


 ミサスは試しに左腕に向けて打ち込んだ。パンと大きな音をたてるも、腕を貫通せず、跳弾が起きて空へ飛んでいった。


「こんなに近くても、軽い盾魔法を貫通しない。俺が主要な武器にするには中途半端な性能だ。ただ女性や非力な人の護身用には丁度良いだろう」


 パチパチと小さく拍手をした。


「隊長。銃の扱いに慣れてきましたね」


 準備を追えたホッチが、サンモの後ろから賞賛を贈った。


「因みに銃の扱いについてはホッチが師匠だ」


 えっ。新たなネタにできると喜ぶ顔をした。


「ホッチの国がデススポット……とまでは言わないが、海洋国家出身で銃の身近な」

「ミアラレアルです」

「ミアラレアルって確か、大噴火で」


 はっとした顔で、サンモは慌てて口をふさぐ。


「はい。こちらの学校に留学していた時に、大噴火でミアラレアルは滅亡しました。ただ、バイチークで父と知り合いだったミアラレアルの駐留員の方の援助で生活していました」

「それは良かったです」

 流石にサンモは、ここで喜ぶ顔はしなかった。


「ミサス隊長。敵襲です」


 通信機越しに、クレパから連絡が入った。

 ミサスが弾を撃った先から、矢が一本放たれた。

 それは、ミサスが顔の前で展開していた盾魔法によって防がれた。


「かなり早かったな。サンモ魔方陣を貼れ。ホッチはその護衛と補助だ。クレパは引き続き監視だ。ケコーンは乱戦に備えた装備で俺と来い。それと近くにある俺の鞄から、一番の剣と八番の弓矢を持ってきてくれ」

「「「「了解」」」」


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