1-18 “狩猟王”討伐
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「シジキ三姉妹! 各個周りを移動しながら、関節部を集中して射貫け!」
「クレパ! 行動不能になった雑魚の始末は任せる」
「ケコーンとゲンノそっちのやつは任せた!」
「「「「了解!」」」」
ミサスはさらに、的確に部下の指示を出していく。
「隊長。対象が変異します」
「分かった。封印の準備しておけ」
イーサーからの連絡を聞き、ミサスは少し距離を取った。
直接戦闘していた部下達も同様だった。
キメラの肉片が一つに集合していく。
狩猟王の恩恵が、敵の多さに対応していた分裂を止め、一つの集合体へと戻る。
それこそミサスの狙っていた事だった。
「テプ5番をくれ」
ミサスは大型のハサミを受け取った。
交差してる金具を外し、両腕を片刃の剣を持つ形となった。
魔力を込め、刀身が赤くする。
“ボルケニックソード” 高温の熱で切れ味が倍になる。
大型の怪物を相手にする時のミサスが得意とする魔術剣技だ。
「一気に化け物からカズルを引きはがすぞ!
ケコーンとゲンノは左右から。シジキは繰り返し関節部を狙え。
クレパは俺を守れ。
イーサー! 引きはがした後の恩恵の凍結を任せた!」
ミサスは正面から突っ込んだ。
既に化け物が再生するパターンを見破り、ひたすら肉体を解体していくだけだった。
両腕の刀を器用に使い、斬撃の回転数が増やし、スピードを上げる。
そして目当てのものを見つけ、右腕を肉の上に突っ込み、強引に引き抜いた。
それをつかんだまま、飛び降りていき、化け物から離脱をした。
「撤退する! イーサー今だ!」
「了解」
唱えていた呪文の後、イーサーは強大な凍結魔法を発動させた。
瞬く間に化け物の肉体は凍り付き、活動が停止した。
「隊長。最後は二刀流で決めたのかよ」
「短距離を全力疾走するような使い方するから、得意では無い」
ミサスはその場に剣を置き、ジンジンと響く両腕の筋力を確認した。疲労が大きいだけで特に問題はないと判断を行い、引き抜いてきた目当ての人物に注目を注ぐ。
大部分の皮膚の表面は剥がれ、顔で判別できないものの、肉体の大きさからカズルと判断できる。
ミサスは回復魔法を呼吸器官から行っていく。
後ろからヒーラーを待っても良かったものの、直ぐに会話がしたかったためだ。
するといきなり目を開き、周りを確認した。
見下ろしてくるミサスの姿を認識するのに時間はかからなかった。
「ミィィィサァァスゥゥゥ」
カズルは錯乱状態のままミサスへ襲いかかってきた。
恩恵影響を受けた残滓が残っといた。右腕が肥大化し、一撃でミサスを殴り飛ばした。
すぐに臨戦態勢を取るも、腕のしびれがあって身体につけていた短剣になかなか手が届かない。
すぐに鋭い爪が形成され、腕を振り上げた。
そしてカズルの首が飛んだ。飛び散った血がミサスの頬にかかった。
「隊長ご無事ですか」
警戒を怠らなかったクレパはそう声をかけてきた。
「大丈夫だ。全員救援が来るまで周りを警戒しろ」
ここで“恩恵”の騒動は山を越えた。
○マツカイサ城 地下
ジョーは目覚めた。
疲労感が残っているものの、カズルの攻撃で損傷したはずのジョーの体は元通りになっていた。
「助かったことで良いんだな?」
横にいたボットに声をかけた。
全体が黒く衣装で、齢は三十代ほどの外見。
ジョーにとって、この異世界「ホイシャルワールド」で初めて出来た親友である。
マツカイサ帝国騎士団に青年隊(第二隊)を設立させた立役者でもあり、この大陸各地で噂される「影王」の正体だった。
それ以上の顔は、ミサスを含め一部しか知られていない。
「ボット“恩恵”は全て集めきったのか?」
「終わった。最後の一つはミサスが対処しているだろう。マツカイサも、弟がしっかりと統治している」
ボットはあぐらをかいて、横に置いていたベルト型の器具を差し出した。
「そうそう。これが無くて大変な目にあった。」
「ははは。すまない」
ジョーはベルトを巻いた。
特に故障はしていないようで、魔力の感触が微かに戻ってきた。
このベルトは魔力矯正器具であって、増大させるものではない。
ホットスポット下で尋常ならざる魔力出力をコントロールすること。
アイテムボックスを安定稼働することに、かなり優れたものだった。
「ジョー。俺は、バイチークから離れる」
「またか? どこか思うところがあるのか。」
「また世界で大きな事が動きはじめた。長い沈黙を破ってな」
「……それが、青年隊を作って」
「そっちは前言った通り、この平和な世界で活躍する次世代の養成制度だ。
先の動乱で活躍した“異世界出身者”様のウケも良い。
奴らは見下している相手がママゴトを始めたしか、見えていないさ」
「物凄く口が悪くなったな。」
「もしかしてお前は怒るかもしれないな」
「理由は分かっている。」
「いや。これから別件でもっとな」
ジョーは聞き返そうとしたが、意識と疲労の限界だった。
薄れ行く意識の中、影の中へ歩んでいくことを見た。
○数日後
雨が降り続いている。
バイチークの郊外に位置する墓地に新しい石が立てられた。
その石の前に一人の女性が、喪服姿で祈りを続けていた。横にさしていた傘を置き、雨に身体が打たれ続けていた。
後ろには三人の姿がいた。
一人は傘をさした背の低い女の子。
横の男女二人は帝国騎士団の高貴なマルーン色の正装姿。帽子を被り、防水機能の持ったコートを着込み、傘はさしていない。
祈りを続けていた女性。マウは顔を上げて、後ろを振り返らずに声をかけた。
「フームが来るとは思わなかった」
「死んだらもう襲われることは無いし、来ないと後悔するような気がして」
「そう。優しいね」
それを見計らい、後ろにいた騎士は横にあった傘を広げ、これ以上マウの身体が濡れないようにした。 マウはエスコートされるがまま、差し出された手を使って立ち上がった。
「ミサス。遺体は火葬して埋めていると聞いたけど本当?」
「ああ。こういう魔法器具で暴走した果ての人間の死体は盗難が多くなる。しかも“恩恵”関係だ。誰がどこから狙ってくるか分からない」
あの後、カズルの肉体はその場で焼却された。
氷漬けで沈黙したキメラも、帝国騎士団本体や城専属の魔術師が到着し、無事に“恩恵”の本体を取り出し、封印は成功した。
キメラの肉体は研究所だが魔術工房へ持って行かれた。
「世間は歴史史上、平和な時代と聞くのにね」
ぽつりと呟いたマウの一言が、ミサスを大きく動揺させた。
横にいたホッチがそれを感じ取り、フォローをした。
「難しいですね。
ただマウさんのお父上のように、世界の英雄まで広くなくても、このバイチークの街でお世話になった人は多いです。
私も含めて、フームさんも」
「ほっちゃんグサグサくるねー。
でも反抗して一人暮らしを始めたのも長いよ!
いつの間にか死んだのか、消息不明になっているけど」
マウは苦笑を浮かべながら言った。
「カズルは転生者だったよね。影王様に扮して殺したニルキ・コロコロという人も」
「ああ。繰り返すようだがマウ。そのことは無闇に言葉にするな。どこから危険が降り注いでくるか分からない」
「でも。でもねミサス。
そんな不思議な存在の英雄の子供とか二世とか。
私の周りにはそんな存在がいっぱいだし、お母さんも多いし、私はどういった存在なのか分からない」
フームはどきっとした。
あんなに性格が良くて頼りがいのあるマウさんが、またこういう悲しい顔をした。
「…………」
雨がざあざあ降り続ける。
沈黙の時間が続いた。
「ミサスはこれからどうするの?」
「今はこういう仕事しているからな」
傘を動かさないように、片腕を広げて格好を見せつけた。
「俺は騎士として、色々な剣をふるうさ」
ミサスはどや顔で言った。
「いや。付き合わせたし、身体も冷えたし、お風呂かシャワーでも入ってから食事でもどうかなと思ったけど。何か質問悪くてゴメン」
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