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1-17 現地弟子“ミサス”の能力

※ブックマーク機能としおり機能の併用が、読むときに大変便利です。

「何でフームは助けてくれたんだ」


 ホッチを両手で抱えながら、屋根伝いで大学への最短距離を移動する。

 耳元から流れてくる大学からの報告によると、学生の避難は終わって化け物に対処している声が聞こえてくる。


「隊長。前回の反省や、女心だからと難しく考えていません?」

「そうなのか」

「今回は単純な話です。目の前で起きていることに対して我慢できなかった。それを充分に打開できる程の力があっただけです」

「なるほど。良いヤツだ。それ故にフームの騎士団入りは、我々の落ち度が大きいな」

「はい。そもそも職業選択は個人の自由です。全く協力を得られない人物ではありません。それは隊長自身や、私も彼女との人間関係が課題になってきます」

「分かった。ついたぞ」


 大きくジャンプして、大学の屋上で陣を構えていた部下達の近くへ着地した。

 二人の姿を見て、イーサーは目を細め、隣にいた通信兵は鼻血をだらだら出していた。

 ホッチを優しく立たせて、近寄った。


「イーサー状況は」

「ひとまず命令された通り、校庭に私の魔法によって壁を作成しました。その中で部下達が各個対処しています」


 すぐ顔を直し、イーサーは淡々と報告する。


「各個? 分裂したのか」

「はい。それぞれ合成獣……キメラを形成しています」


 ミサスは眼下の戦場を見た。

 吹っ飛ばした肉の塊は、分裂し、それぞれ癖のある獣へ変貌している。


「不幸中の幸いでしょうか。先日のホットスポット下で訓練した反省点から、それぞれ無駄の無い動きをしています。しかしそこは“恩恵”の力。このままだと押し切られます」

「みたいだな。付近の避難は?」

「完了です」

「よし一気に決めるぞ」

「たいちょぉぉぉぉ出番まだぁぁぁ」


 真面目な話をしている二人にテプが割り込んできた。


「出番をください。確実にBランク」

「今さっきもいっただろ。剣だと相性が悪い」


 イーサーは冷静に、この調子者をたしなめた。

 ミサスは言葉をつなげる。


「テプ。この作戦の要だ。俺が到着するまで温存しておけと命令していた」

「やった。待ちくたびれましたぁぁぁぁ」


 ホッチは携帯アイテムボックスから、大きな鞄をを取り出した。

 中には多くの武器が収納されていた。それぞれの柄やポケットには数字が分かりやすく彫られている。 ミサスは腰に差していた剣を専用のポケットに入れた。


「テプ。これを持って俺のサポートをしろ」

「へ?」

「つまり隊長の武器持ちだ。早くしろ」

「ええええ。あんまりです! 俺が怪物倒して英雄になれない!」

「それは違う。騎士は民を守り、己の剣を振るうことだ」


 ミサスもいい加減苛ついた態度を隠せなかった。

 渋々テプは鞄を持った。


「今回の作戦目的を説明する。最初に連携を確認する。柄に番号が振っているはずだ。例えば六番と俺が言ったら、六番を引いて俺に手渡ししてくれ」

「はい」


 テプは6番の武器を引き抜いた。自動的に機巧が展開し、柄の長い大型のヘラ状の武器になった。

 ミサスは手に取り、両手で構えてみせる。


「ギャァァァァ!」


 その時、バッタのように足が発達したキメラが陣を屋上のミサス達に襲いかかってきた。

 鼻血通信員は叫び声をあげ、イーサーは顔をしかめた。


「……手に取ったら、襲いかかってきた怪物をこのように叩き落とす」


 ミサスは一撃で、校庭のフィールドへ叩きつける。

 一同はその手際に感心する。


「目的は“恩恵”の効果である化け物の肉体と使用者の肉体を分離させること。“恩恵”を確保・破壊は問わず沈黙させることだ」


 ミサスは身体の急所を保護するサポーターを身につけながら語った。


「はい。了解しました」


 準備完了後、二人は下へ降りた。



 ミサス・シンギザ。

 現在はマツカイサ帝国騎士団第二隊。青年隊としての構造を持つ組織の分隊長を務めている。

 この青年隊は、マツカイサ帝国があるイストール地方の各地から、優秀な人材や将来有望な若人の育成、経験、教育目的が主になる。活動指針は人道支援が主になる。

 世界の英雄に代表される「正義」や「弱者救済」といった平和な空気には、こうした活動は世間や世界の英雄にもウケが良かった。

 人材の選定はマツカイサ帝国に大きな影響を与えるボットという人材が担当した。入団試験は特に設けていない。ほぼボットが地域を歩き回り、独断に近いスカウトと近い形とされている。

 これは現在も隊長副隊長が、団長の審議が必要なものの、独断で人材を補給できる隊そのものの自治としてある程度認められている。

 そのため、試験や社会構造という大人の制度に沿った評価を主にするカズルとは相性が悪く、早々に落選したようだ(因みに給与面で比べると、頻繁に遠征といった拘束時間が長く手当の出る帝国騎士団が高くなるが、基本給は変わらない)。


 その結果、それぞれ能力の高さ・潜在性・かなり癖の強いが集まった。そのため隊員一人一人が幅広く教養があり、腕っ節も強く、現時点で実績のある人材が必要となった。

 多くの候補の中、ミサスは選ばれた。

 影王と共に長く行動を共にし、イストール地方全域の事については頭に入っている。辺境から来た団員にもコミュニケーションが取れ、武勇も全域に知る人ぞ知る存在であった。

 それは、かなりの害獣を狩っており、多くの民から評判がかなり流れている。


 今回その手法の一つに、多くの武器を駆使するアタッカーとテプのような武器を大量に持ち運ぶサポートとペアで討伐するスタイルだ。

 この利点はアイテムボックスが不調になるほど魔力嵐の吹き荒れるホットスポット下や、魔力使用が不可能なデススポット下で活動ができる。そうした過酷な環境ほど、強い生物が生息している傾向がある。

 ミサスの頭抜けた戦闘力はこの“荷物持ち”をすることで、最前線で死にかけながら体の動きを憶えていった。


 いつしかミサスは「十徳刀アーミーナイフ」と呼ばれる器用さを売りにしたハンターとなっていった。この時に、ニルキ・コロコロと一悶着あったことは、また別の話だ。

 このスタイルは一件地味と判断していたテプでも、すぐに重要性と難易度を理解した。


「4番(槍)! このキメラは終わりだ! 次は8番(弓矢)で牽制する!」

「はい」


 的確に大量の武器を使い、キメラを退治していた。

 目を潰し、首を落とし、羽を削ぎ、足を斬る。

 的確に解体していくような姿を見て、テプはさらに関心を深めていった。

 それに、背中から隊長とほぼ同じ主観の目線から観察できる。


 今度の訓練や鍛錬からこの技術を手に入れたいと考えることに時間はかからなかった。


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