1-15 脱出
オールド異世界転移者は、牢屋から脱出を試みます。
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「クソ。面倒なトラップを何重にも、つくってやがる。」
おじさんは手際よく、魔方陣で描かれた攻撃魔法を解除していく。
おじさんは魔力が無いが、それをカバーするほどの器用さを持っている。
異世界出身者が、この過酷な社会を生きていく上での戦法の一つだ。
ミサスも似たところがあるとホッチさんから聞いたから、そこら辺が師匠・弟子の関係なのだろう。
「そういえばフーム。ブノから手紙で聞いているが、バイチークに来たのは黒魔法のことを調べようとして来たのだよな。」
「……それもあるけど、他にも色々なことを勉強してみようかなって。バイチークには、本が沢山で勉強するには丁度良いと教師様から聞くし」
「あの人か。
いや。ボットという人に頼んで、騎士団の青年隊で勉学と共に、大陸各地で人道支援といった任務で、広く世界を見れるフィールドワークも良い経験になるなと頼んでいたけど。頼む代わりに一週間ほどベルト貸していたのが仇となって痛ッ」
「お前のせいだったか!」
フームは、ポカポカジョーを殴る。
バイチークに入ってからのややこしい状況を作り出したのか!
特にミサス! 特にミサス!
あーもうよく分からない!
フームの頭は混乱した。
「ブノもアオもかつて所属していたところだ!」
「いらないお世話なの!
両親がバイチークでどんな評価をされたか、私は忘れていない」
「? 誤解をしてないか。それよりも、後ろにかなり強い炎を出してくれないか?」
振り返ると、あのデブの気色悪い顔があった。
手加減無しにフルパワーで炎を出した。
「アチチチチ」
「フーム! 一人でも良いから走って逃げろ! 助けを呼んできてぐ」
「させるか!」
ジョーに、アギリの攻撃が貫いた。血がドクドク溢れ出してくる。
「おじさん!」
「構うな! 行け!」
ジョーの言葉に、一目散にかけだした。
○バイチーク城 城壁
「何で、誰もいない」
「俺のチート能力。危機回避の応用だ。人が無意識に避ける行動はそう大差ない。仕掛けで充分お前を追い詰めれる」
後ろから、そんなカズルに声が聞こえてくる。
今さっきまで多くの人が居たはずなのに、走っても走っても誰にも会わなかった。
いつのまにか城壁の上までフームは追い詰められていた。
「助けて!」
「城の給仕と何でこんなと」
城兵が言い終わる前に、カズルが投擲魔法で城の胸に風穴を開けていく。殺傷能力のあるこれは、城門の番人として必須の能力だ。
いつの間にか城兵は次々と鎮圧されて、フームとカズラだけだった。
「そういえばお前。黒魔女らしいな。イストール地方東方に位置する禁忌の国バルジャック王国。その末裔を葬れば、俺はヒーローになれる」
「く……」
フームは、殺傷能力のある最大の盾魔法を使って凌ぐ。
だが、あまりにも動揺しすぎている。段々押されている。
「キャハハ」
デブの気持ち悪い。顔が憎たらしい。フームの限界が間近だった。
「おい。何をやっている!」
カズルは、後ろから怒鳴られた者に頭を掴まれ、そのまま城壁の床に顔を叩きつけられた。
「?」
フームは突然魔弾の雨が止み、現状を把握できない。
「フームさん。大丈夫ですか! 助けに来ました」
「ホッチさん。ありがとうございます。いったい」
「ミィサァスゥゥゥウゥ」
二人の前で、カズルはミサスに殴りかかった。腕でガードする。かなりパワーがあるようで、足が少し後ろにずれた。
「また俺の記憶を見たなぁ!」
「大福ゴロゴロと転がされていた前世の記憶か? それとも影王の名を語って、ニルキ・コロコロを襲撃したことか?」
「チッ」
カズルは、右の強いストレートを繰り出した。ミサスは大きく後ろに退けられた。
「ミサス様! 当たりですね」
「ああ。思ったより、大きなおまけ付きだけどな」
「どういうこと?」
フームだけ蚊帳の外で、状況を把握できない。
「説明します」
ホッチさんが現状を説明してくれた。
まず第一に、ジョーさんの行方ついてです。
こちらの不手際を晒すようで恐縮ですが、バイチークの街に入った時点からの情報は全く追えませんでした。
そこで残っていたバイチーク城内の捜索に入りました。
第二に、城内でジョーさん襲撃されたと仮定して、誰が行ったかということです。
これは簡単で、カズラに目星がすぐに出ました。
第三が問題ですが、先日の訓練開けの任務で騎士団に襲撃した影王の件です。
作戦対象が我々より先に襲撃した存在。
「それが、ミサスの右手の読心魔法でバレた?
師匠である影王? それってキャラクターの名前」
「はい。そのモデルとなった義賊がおり、ミサス様の数多くいる師匠の一人です。ご存じですか?」
「いいえ」
「はい。それで姿を偽り、先日我々に現れた人物の正体がカズルです」
フームは再び、目の前で殴り合っている男二人の姿を見る。
ミサスは、ガードしている両腕のダメージが蓄積しているようで、プラプラ振って痛みを軽減して、ファイティングポーズを取る。
カズルは、その肉体的な特徴を武器に、肉弾戦ではバイチークでは五本の指に入る実力者だ。
ミサスではかなり不利だ。
「私も手伝った方が良い?」
「いいえ。ここからは我々帝国騎士団の仕事です」
ホッチは、冷たい声で言い放った。
フームは、目の前で広げられている舞台に上がることを放棄した。それを再認識させられた。
「フームさんの選択は間違っていません。
しかし、今あの場所に行けません。
それだけは憶えておいてください」
ホッチは一歩前に出て、言い放った。
「ミサス様! そろそろケリを付けてくれませんかね?」
ホッチは、発破をかけた。
「どうぞミサス殿ぉ? 武器を使ってはいかがですぅ?」
「(怒)」
どちらかというと、カズルの挑発にミサスはキレた。
それに対し、カズルは勝利を確信した。
ミサスの動きは単調だ。
最後で決めてやる。
カズルはミサスの一撃をカウンターで決める。それを待つ。
「ハワイの大王ォォォォ」
影王の波動技をミサスは放った。
本家より初速は遅い方だったが、それでもかなり威力が大きい。
ミサスが密かに練習を行っていた。
「グアァッァァァァ」
咄嗟に腕でガードした上から、カズルは吹っ飛ばされて、後ろの城壁に叩きつけられた。
「よーし。お二人さん決めたぜ!」
ミサスは後ろに向かってガッツポーズ。ガッツポーズ! ガッツポーーズ!
「ホッチさん。まさか、あれに関わらないように」
「ええ。殿方の、頭が沸騰した決闘のテンションに火傷してしまいます」
クールな面影が全くなく、ただ女の、、、顔というか、発情してる?
この人もしかして楽しんでいただけ。
「ホッチ。よくフームを助けてくれた。おかげで集中できた」
ミサスは深呼吸をしながら、フォローしてきた。
だけど、目線は集中力を切っていなかった。
「で、カズル。貴様の目的は何だ」
「勧善懲悪、異世界モノのザマァ展開。異世界転生者の俺たる」
錯乱した様子を見せている。
「カズル!」
フームとホッケの後ろから、怒声が響いた。
ミサスの振り返った先には、メイド姿の胸をたわわに揺らしている幼馴染みだ。
「マウ」
カズルが小さく呟く。
マウはツカツカ足音を鳴らせ、ミサスの前に立った。
手には、カズルに殴りかかった時に落とした剣を握っていた。
千切れたベルトはマウが丁寧に直してくれたようで、新品に代えられていた。
「少し話をさせて」
「分かった」
その申し出に即答し、差し出された剣を受け取った。
「ミサス。転生者である俺よりも」
ピタッと、離れる歩みを止めた。
「……俺からは特に話すことは無い」
「ミサス隊長。こちらで回復魔法をかけます」
そのままミサスは離れていった。
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