1-14 現地弟子“ミサス”動く
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「ホッちゃんごめんね。まさか幼馴染みが、女の子を襲う鬼畜だと思わなかった」
「……」
ホッチとマウは隣り合って、通路側にあるソファに座っている。その前の小さな机には、コップが置かれている。ミサスは机を挟んで、二人の前で床に正座をしていた。
「マウさん。私にもお茶を頂けませんか?」
「ええ。大丈夫ですよ。マツカイサ帝国騎士団第二隊長ミサス・シンギザ様」
ニコニコしながらマウは丁寧にお茶を入れてくれる。
目は全く笑っていない。
物凄く苦いお茶を出された。ミサスは耐えて飲み干す。
「そうそう。本題を忘れかけていた」
ホッチが落ち着いた所を見計らって、マウはパチンと手を合わせた。
「ミサス! フームちゃんに何をしたの(怒り)」
まだまだ、ミサスの追求は終わらないようだ。
「そうか。フームはマウの後輩になるのか」
「そうよ! 色々事情がありそうだったし、聞けば、どこぞの青年隊長様のセクハラらしいし(怒怒)」
「誤解だ! 後、また勝ち込みに来たのか!」
「あのクズ貴族の一件は反省してる! ミサスの名前聞いたからでしょうが!」
「はい」
「いくら身分がしっかりしていても、初対面の都会に初めて来た女の子へ、急にあれこれ来てやスカウトだなんだと、話しても怖くて警戒するわ!」
ミサスへグサグサと攻撃が刺さった。
「まあまあ。マウ。私は、ミサスさんのそういった言葉でここに居る訳で。フームさんのことは、マウさんにお願いできませんか」
「大丈夫よ。バイチークの街を嫌いにならないで欲しいし」
マウは左手でグーサインを送る。若い女の子の内で流行っているスラングだ。
ご機嫌は直ったようだ。
「そうだマウ。ジョー師匠に最近会ったか?」
「え。あいつと私、苦手な関係と知っているだろ? 数週間前に街で見たっきりだよ」
「分かった。ありがとう」
「そういえばカズルに最近会っているか?」
「俺とあいつ苦手な関係だと分かっているだろ。数日前に丁度フームがバイチークに来た時に、城門のところで会ったな。近い所で働いているくせに、数年ぶりに会った気がするな」
「…………」
ホッチが押し黙る。
「あいつ最近やたら拳がケガをしているからさ。鍛えているなら良いのだけど、筋肉が締まらないし、腹も引っ込んでいない」
「城塞警備は一日中のシフト制で、夜勤があるし、ストレスは多いだろ。体の事は自己責任だ」
「そうそうフームちゃん。見かけなかった?」
「え? 今日は見てないが。というか、ここに来た用件かなり忘れているな」
「いや。扉開けたら疑似ビーエルの濡れ場で、結構意識が飛んだからね。迷っているのかなって思っていて。この城、結構広くて迷いそうな所多いからさ」
マウは後半口元のよだれを隠しながら、部屋を出て行った。
「ホッチ。マツカイサ城の見取り図を見せてくれないか」
「ええ。機密指定のですので、先ほど取って参りました。机の上の資料の中にあります」
「ありがとう」
ミサスは立ち上がる。すぐにコけた。
「どうされました?」
「足が痺れた」
○バイチーク城 地下廃牢屋
「フーム久しぶりだな」
「おじさん久しぶり」
二人はカズラに手錠を付けられたが、ジョーは直ぐに解いた。
現在、フームは回復魔法を、ジョーの足を中心にかけている。
ここから脱出するためだ。
「おじさん。錠を簡単に開けられるなら、何で直ぐに出ていけられなかったの?」
「ベルトと腕輪どちらも無くて、パワーが赤子同然だからな。
タイミングを計っていた。
幸い最低限の水と食料は供給されているし、あのデブ変にきれい好きなのか、便所も使えていた」
ジメジメと湿気やコケでヌルヌルして気持ち悪い割に、汚物の異臭はそこまで気にならない。
そして痛々しい姿が、とてもフームの心を締め付ける。
ジョーは異世界出身者であり、アイテムボックスも兼ねた腰に巻くベルト式のものか、門番のデブが奪った腕輪式の魔力矯正器具が無い状態だ。
著しく地脈の加護が無くなり、フームの素手だけで軽く殴り飛ばせるほど脆弱になる。
これは、魔力欠乏で起きること同じからくりで、眼鏡と同じように器具さえあれば日常生活には支障が無い。
フームの心情を察したジョーは、気楽に言葉を送り続ける。
「フーム。ここがどこか分かるか?」
「マツカイサ城の地下の使われていない牢獄。
前にバイチークに来た時、ブノとミフおじさんが捕まっていたところ。
確か未改修の立ち入り禁止で、人が全然来ない」
「わかった。もう回復魔法はいい」
「大丈夫なの?」
「というか、ここからが本番なんだ。あいつに出くわしたら、フームの魔法で撃退か、目くらましお願い。頼むよ女神さん」
ジョーは笑顔でフームに語りかけた。
○バイチーク城内 廊下
「この女の子なんだが」
ミサスは城内で会う人片っ端に、スマホで自撮りしたフームの画像を見せ、探している。
「うわぁ。何だ。その板は! 中に人が入っているのか!」
「その反応はいらない! 高度な魔法道具だ! で見かけたか?」
フームに期待していた反応をされるのが癪だ。
聞き込みの内容については、新入りを認識しているのは少なく、マウに再度聞いた話以上は情報が集めれなかった。
騎士団室に戻ったが、手分けして探していたホッチが先に戻っていた訳で、入れ替わりでフームが訪問した形跡はない。
「ミサス様! フームさんはいらっしゃいましたか?」
「全然手がかりが無い。ホッチも空振りのようだな」
「はい。頼まれていた古いバイチーク城と街の地図以外はありません」
大きな机の上には、現在のバイチーク城と昔のバイチーク城の地図が対比して並べられている。
「やっぱり改修前の地図では、今では無いか、入れない部屋があるな」
「ええ。何数世紀前に城の大枠ができあがりました。先々代皇帝から始まったバイチークの再開発や、世界中を巻き込んだ先の動乱に伴い、細かいところで変わっています」
改修した点で上げられるのは、長距離通信魔方陣の構築した部屋や、研究室。城内部へ敵が侵入した時の防御といった時代に合わせているものが多い。城壁も数年前に耐久工事を行ったばかりと聞く。
「地下室が怪しいな」
小説とか創作作品ではベタだが、人目につかない。かつ、人を隠すには、それなりに大きな空間が必要になる。
「そうですね。城に自由に出入り出来るジョーさんならば、城内部で襲われて監禁されてもおかしくありません。“灯台もと暗し”の可能性はあります」
「それならば、城門で通行の記録は残っているはずだが」
「門番ならば、隙を見て改ざんは可能でしょう。疑う価値はあると思います」
「…………」
探すだけなら人員も欲しいが、第二隊の大半が大学で講義を受けている。不確定な現段階で大幅な増員はできない。
「やっぱり直接聞くのが手っ取り早いか?」
ミサスは右手をさすった。
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