1-12 門番再び
フームのバイチーク生活本格始動です!
※ブックマーク機能としおり機能の併用が、読むときに大変便利です。
翌日、ミサスは城を歩いていた。
遠くでフームがデッキブラシを持って、清掃をしているところを見かけた。
傍らにはムフーが掃除用品の箱を背負って、手伝っている。
メリロイドラゴンを、このような使役動物として使っているのはフームだけだろう。
チラホラ、ムフーの正体を見抜いた魔術師やら騎士やら高官の視線を集めてる。
ともかく、フームは心配いらなそうだ。
問題は、イーサーの処遇。そして、師匠の行方だ。
前者は、フームのことを黒魔女だと決めつけて襲いかねない。これはフームの活動域から遠ざけて、当面は頭を冷やさせることになった。
この件が無ければ、理性的で頭の良い人材なのだが。
後者は、今朝ホッチが用意してくれた情報から、頭を抱えている。
「師匠はこのバイチークにいると?」
途中でばったり出会ったホッチから、頼んでいた師匠の消息の報告を聞いていた。
「ええ。街の守護隊の情報を集めて、バイチークの住民からも情報を集めています」
「たく。あのおっさんはどこへ行ったんだ?」
「ミサス様」
「何だ?」
「ジョー・サカタは師匠様なのですよね?」
「ああ」
それ以上、ミサスは多くは語らず、去って行った。
ジョー・サカタ。
十数年前の前皇帝を狙う反逆者の討伐の功績を挙げたメンバーの一人である。
その時からの縁で、城内に容易に入れるほどの前皇帝と友好関係を築いた。
本人は魔力欠乏症であり、腰にベルト型の自作の魔力矯正器具をつけている。
正体について、詳細は不明であるが、多くの争乱に名前は聞く。(確認済)
先日襲撃した影王とは友人関係(その後、ミサス様と古くから関係があったことを多くの人から確認済み)。
一説には、世界の英雄と同一人物であり、正体や魔力の欠乏は先の戦いによる呪いによるもの(未確認)
ミサス様とは師弟関係であり、食料を盗みに入られた時に出会ったらしい(新規)
ミサス・シンギザという名付け親(新規ミサス様関連最重要)
(ホッチ人物メモ)
ホッチはメモ帳まとめた情報を改めて精査する。
ミサス様には、各分野における名声を聞く師匠が多くいるが、このジョー・サカタなる人物は一番パットしない人物である。
剣ならばあの影王だし、怪物をはじめとした生物学は近くのバイチーク大学で教鞭を取られている。
他にも多岐にわたって交友がある。
噂によれば、先の世界規模の動乱時には、文武両道、博識、多才な人物の存在が多くどの勢力にも確認できたようだが、それに当てはめるには足りない。
ただ平凡な人物である。
しかし、交友関係は広いので、他の人物にターゲットで巻き込まれた可能性の方が高い。
ふと横を見ると、ミサス様から借りた冒険者の本が目に入った。それはとても
「まるで平凡な主人公の成れの果てみたい」
ホッチの感想はそう。
○バイチーク大学講義室
最初の講義には、ミサスの部下の姿をも見えた。
ホットスポットで演習をしてきた報告会が催された。
一通りの自己紹介を聞いて、様々な出身や職業。
と騎士団と言わなければ分からないほど共通点は確認できなかった。
なるほど。かなり色濃いメンバーだな。とフームは納得する。
ミサスの姿は見えなかった。
横に座ってきたテプに聞けば、優等生らしく帝国騎士団の仕事を今日は行っているらしい。
ホッチさんも同様だった。
「こうしたホットスポットもあるが、反対にデススポットと呼ばれる魔力が枯渇した場所が現れることもある。
体内の魔力が抜き出し、君らの歳では成長に影響を及ぼす実例も報告されているから、近づかないように」
講師の先生が釘を刺した。憶えておこう。
「どうですか。バイチークの生活は慣れてきましたか?」
横にテプがなれなれしく話しかけてくる。
気にかけてくれるのはありがたいが、少し距離が近すぎるように感じる。
「魔力」
基本的な魔法の講義だ。
魔力は大きく分けて二つある。
一つは学習能力で伸びるごく普通な能力。
当たり前だ。使えたり、自在にコントロールしたり、成長が出来ないとここまで世界中で発展しない。
それともう一つ。誰もが生まれながらにして持ちうる能力。
「チート能力」とも呼ばれる潜在的な能力だ。
覚醒すれば、多くの圧倒的な力を持つらしいが、そこまで到達することはとても難しい。
しかも理不尽に決められていて選べないため、鍛錬や成長ができない厄介さだ。
横でニヤニヤしているテプも含めた帝国騎士団第二隊へは、覚醒する可能性がある「チートの種」であるかどうかが、判定条件の一つとの噂だ。
「フームさんの能力は何でしょうね?」
「気づいているんでしょ。ミサスと言い、あなたと言い。嫌い」
○バイチーク城 廊下
午後からは仕事だ。気持ちを切り替えないといけない。
「ねえねえフームちゃん。ミサスの婚約者って本当?」
「えっ違いますよ! マウさん」
この前会った歳の近いマウさんと、仲が良くなるのに時間はかからなかった。
「そう良かったわ。そうだったらホッちゃんがかわいそう過ぎるし、ミサスへ殴り込みは中止だね」
マウさんから不穏な言葉を聞いた気がするが、スルーしておこう。
城の清掃は多岐に渡る。
モップ崖や窓ふき以外にも、外来の食器や彫刻や美術作品を扱ったりするので、なかなか神経を使う。
大陸を象徴する城は綺麗にする仕事は、なかなか骨が折れる。
「そんなんじゃないよ。
ミサスは、昔から可愛がって貰った人の弟子なだけ。お互いの記憶に認識が無いから多分初めて会った」
「えっ。やっぱり影王様!」
「誰?」
「世界のあちこちで困っている正義の味方だよ。しかも渋くてイケメン」
「ジョーおじさんそういうキャラじゃ無いけど」
「あーそいつのほうか」
「かなりマウさんは、あのミサス隊長と親しげだけど」
「ミサスとは幼なじみだよ。
あいつバイチークで知らないヤツはいない泣き虫だったくせに、突然いなくなったと思ったら、いつの間にか帝国騎士団の隊長やっているのだから」
「やんちゃとかではなく?」
「やんちゃだったのは今門番しているあの老け顔のデブよ。カズル。あいつはかなり名のあるガキ大将で、下手に大人でも手を出せなかったんだ。今は評判悪く聞くけど、一番出世している。バイチーク城の城門は皇帝陛下を守る兵の中でもエリートしかなれないから」
「えー。あいつ嫌い。というか同年代だったんだね」
「分かる分かる。気持ち悪いんだよねー。嫌らしいというか、生理的に無理というか」
そんな軽口を言い合いながら、カゴにシーツを入れて、宿舎の方へ向かった。
バイチーク城は大きい。
フームはまず、この複雑で広大な城の構造を知る必要があった。
上から下まで部屋や人が多く、今まで住んでいたノシン村の建物とは数百倍にもなる
ドシン
「すみません」
フームが見上げると、そこにはデブの門番がいた。
カズルだ。
ギトギトした汗。情けなく出た腹。
生理的に受け付けない。
さっさと目線を外して、通り過ぎた。何か落としていった。
振り向くのは嫌だったが、こういう落とし物の管理は仕事なので拾った。
「あれ? なんであいつがジョーおじさんの腕輪をつけているんだ?」
振り返っても、もうデブの姿は見当たらなかった。
最新話下方に設置しているポイント高評価登録をぜひお願いします。
この作品をお気に召しましたら、ブックマーク機能をオススメします。




