1-11 処分
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「ミサス隊長! 城壁から大学を狙うとか、何を考えてらっしゃるのですか!」
ミサスは弓を下ろしつつ、城兵の泣き声を聞き流す。
遠くでは、穴だらけになった大学の庭の様子が確認できた。
しかも狙っているのは、副隊長であるイーサーだ。
その後、ミサスの横にいるメリロイドラゴンに気づいて腰を抜かした。
「ミサス隊長。騎士団団長様がお呼びです」
「ホッチ。その顔だと、覚悟しておかないといけなさそうだな」
「何て言い訳をするつもりですか?」
「演習だ。で、駄目か?」
「処刑ものですね」
「的は外してないのだけどな……」
「そういう問題では無いです」
○マツカイサ城 帝国騎士団 団長室
「マツカイサ帝国騎士団団長のマンネンだ。この度はフームさん。ご迷惑をおかけしました。こちらの落ち度であります」
「…………」
ミサスの雰囲気とは明らかに違う。
騎士団長という、この国の中枢に位置する役職のトップの部屋だ。
いつもならそれなりに緊張していたが、ここ最近信じられないことが続いたので、フームは特に思うことはない。
「確か、ブノさんとアオさんの娘さんですか?」
「父と母に面識があるのでしょうか? 団長さん」
「ええ。昔一緒に仕事をしていたことがあります」
「そうですか」
「あの二人にも謝らなくてはいけません。こちらの失態で、騎士団の入団を」
「あくまで、入団試験の一環の事故だと?」
「ええ。私の見解はそうです。あなたの言う茶色の男、イーサーは吾が団の二番隊の副隊長です。青年隊の入団試験を監督する役割も兼務しています。それはミサスも同様で、他色んな試験官が立ち会って行います」
「物凄く怖かったのですけど。それどころか殺されそうでしたけど」
「お恥ずかしい話、我々はこの大陸を代表する誇り高き騎士団ですから、多様な才の判定をするために、広い意味であの試験は有り得ると考えてください。ただ、」
マンネンは一呼吸置いて話す。
「しかし、ミサスは昨日あなたから、入団の意思はないと確認したと証言しています。あなたの言うように実際は迷っていたにしても、予告無しにあれほど力を試す必要はなく、過剰のしかも危険行為だったと主張しています」
「…………」
「片方は試験中の連絡不足。もう片方は故意の傷害事件に当たると主張しています。これの判断はとても難しい」
フームは不機嫌な顔をした。
それもそうだ。あまりにも、度が過ぎている。
マイネンも、それは織り込み済みのようだった。
「だが、私はもう一つ情報を知っている。あなたの両親が、マツカイサ帝国騎士団に娘を入れるはずがない」
「…………ようするに気遣い? それか取引?」
「ふっ。そうですね。あの二人だけでなく、しかもあなたは、ジョーさんも関わっていると聞きます。あの人たちを怒らす真似はしたくない」
「やっぱり、ここでも自分の力で生活することの障害だらけ。ですね」
「思い上がるのではない」
今さっきのマイネンの様子とは違う感情的な言葉だった。
フームの背筋がピリッと伸びた。
「シンプルに脅迫に変えてきましたか?」
「忠告です。あなたは自覚している以上に危うい立場にいる。ジョーさんが行方不明の今、あなたはミサスの近くにいるべきだ」
団長さんと話が終わった後、おじさんの家に戻ったらミサスがいた。
作業着姿で、全身がかなり泥だらけになっていた。
今まで、懲罰として大学の校庭掃除を行っていたらしい。
普通は一週間かけて業者が復旧を行うものだけど、半日で復旧させたらしい。
これは魔術にも長けている大陸随一の騎士団の実力なのだろう。
で、終わったら直にここへ寄ったらしい。
汚い。着替えさせた。
おじさんの服を適当にタンスから出す。
脱衣場の前で、上半身裸になっているミサスに渡した。
「かなり鍛えているね。筋肉バキバキ。後、傷もある」
「……鍛えないと仕事にならない。傷は不注意の証だ。気にしないでくれ」
すぐに出た。
リビングの机のある椅子に座っていると、着替え終わったミサスが向かいに座った。
ここはすぐに話を出さないと気まずい空気で終わってしまう。早く話そう。
「団長さんが、マツカイサ帝国騎士団が迷惑かけた分お互いに仕事することができないけど、大学の奨学制度の兼ね合いもあるから、城内の清掃活動の奉仕によって、学業に影響しない程度で大丈夫と色々話をつけてくれた」
「あの人、とても賢いし、かなり苦手なんだよな」
「ミサスも帝国騎士団の分隊長を一応しているから、賢い口?」
「いや。俺は同年代のやつより頭一つ分だけ、経験があるだけ」
「えっサイテー」
「そういう意味じゃ無いよ!」
ミサスが真っ赤になって否定してきた。なんだろうからかいたくなってきた。
「えっチェリー?」
「うるさい!」
○ジョー師匠自宅付近
「ミサス隊長。フームさんに全てを話さなかったのですか?」
ミサスはフームと離れ、師匠の家から死角になった路地で後ろをホッチが現れた。
「全てとは何だ?」
「夜な夜な隊長の部屋から、男性の喘ぎ声が聞こえて、そっち方向の趣味だという疑惑がある噂ですが」
「それお前が、夜な夜な夜這いをかけて、変な寝言を立てるからだろ!」
オフの時のホッチはとても大胆だ。いつも理性との戦いとなる。
裸で眠るのは文化らしい。それは文化だから仕方が無い。
声は本当に野郎のものだが、見えるものはスタイルの良く、普段の制服には隠れた果実のようなふくらみから、曲線を描くくびれや腰。
……いや本人を前にして何を考えているんだ。と、かなりの頻度で自己嫌悪に走る。
「はい。私は、男性の股間を萎縮してしまう声色というのは自覚しています。なので、直接私の肌と密着させてミサス様に発情してもらっています」
「(チッ。大きくなっていたのはバレてたか)」
「冗談はさておいて、イーサー副隊長が黒魔法に激しい恨みを持っていること。そして、フームさんがそれらを扱う黒魔女だっていうことを」
「テッラ。止めろ」
「しかし、城壁から見たあの黒い翼は!」
「何も全てフームが黒とは言わない。それに俺が罰を受けている間、団長がフームと話をつけて仕事の方は話をつけてくれたらしい。さっきも話をしたが、本人も自分の力がどういうものか分かっていないようだ。それを知りたいからバイチークに来たという」
ミサスは、気を落ち着かせて言う。
「俺は、フームの言葉を信じたい。危険度は少ないと思う」
「……分かりました」
ホッチは、それ以上何も言わなかった。
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