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1-10 バイチーク大学

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「えっ。マツカイサ帝国騎士団に入団が条件だったのですか!」

「はい。優秀な人材を幅広く取り入れるための、前皇帝から始まった制度です」


 バイチーク大学の応接間で、ノシン村の教師様と知り合いである偉い先生とお話していた。

 で、ここで騎士団の話が大きく食い込んでくるとは思わなかった。


「教師様から、勉学と生活費のために仕事の両立をしなければならないとは聞いておりましたが……」

「私にとっても懐かしい名前だったので、フームさんの名前はとても記憶に残っております。なんでも、独特な力についてお調べになっているのだとか」

「あ、はい。それを知るために私は人の多いここバイチークまでやってきました」

「なるほど。分かりました。ここの卒業は最低評価の高い論文を四点提出すれば宜しいです。他は素晴らしい講師陣の講義を聴くのもよし、自らの手や足で研究に没頭するのもよしです。ただ条件について不満がおありのようで」


「いや。不満というか、気まずいと言うか」

「確かに大学内でも、若人達を後方支援がメインとは言え、死亡リスクのある騎士団入団という条件制度について、異論をあげているものは多いです。しかし、私は今の時代ではとてもメリットの方が大きいと思います。なぜなら」


「世界の英雄が、『平和な世界』をもたらしたから」

「ご名答。しかも、国内の幅広い将来有望な若人の育成に重点を置いた、第二隊なる青年隊が新設されました。その隊長は、若いながら、この制度を利用して本校の卒業資格を持っています。といっても、こちら側としては文字書きができないところから、しっかりとした論文を書けるようにしただけですが」

「…………」

「どうかしましたか?」

「いえ。何でもありません」

「そうですか。隊長。ミサス君は、かなり元気でやっていると聞いています。あなたが懸念していることについてですが、彼はそのことについて悪くは捉えないと保証します」


 フームが思っていることは、ひたすら今はミサスに顔を見せることができない。



「ムフーどうしよう」


 フームは大学の庭にあったベンチに腰をかけた。

 一緒について来たムフーは、姿を露わにしてフームの膝に座っている。


 大学の場所は港から城を挟んだ裏に位置している。ここから、バイチーク城の大きな城壁が確認できた。


 昨日はあの中でミサスといた。今さっきのことだし、それは、別に私は悪くはない。悪くは無い。

 ただ気まずい。


「やっぱりマツカイサ帝国騎士団に興味が出た! やっぱり入らせろ!」

 とはあまりにも図々しすぎて、無理。


 かなり拒否の構えを数時間前にとったことは、悔やむ。

 ミサスに顔向けはできないな。

 この後の試験は辞退して、それから……。


「!」


 何か変な違和感が頭にあった。すぐ座っていたところから離れる。

 髪を触られた。

 その認識は遅れてきた。


 とても寒いものが体中に伝え渡る。


「何だ?」


 濃いマルーン色の制服を着た男が背後に立っていた。

 手にはフームから抜けた髪の毛を持ち、顔に近づけて嗅ぐのを見せつける。


「キモ」

 本当は怖い。


 しかも、こんなに人が周りにいる中で、大胆すぎる。


「おやおや」


 フームはその男にかなり強めの魔法で火の玉をぶつけ、同時に煙幕を出して逃げる。


 冗談じゃない。お母さんは、変質者だから用心しなさいと言われている。

 で、容赦なくたたき込んで、逃げろと言われている


「ほう。一撃で一般人を行動不能にする火炎魔法と、ここまで粉塵が舞うほどの地面をえぐる火力」


 男は耳元でこちらの全ての行動を語られた後、フームの体を思い切り蹴っ飛ばした。

 フームの体は煙幕から勢いよく離れていき、遠くにあった掃除入れまで飛ばされた。


「痛い」


 上ってはいけないと釘を刺された机の山に、上って落ちて大けがした痛みだ。

 違いは男に手加減無く、蹴っ飛ばされた。


 フームは埋もれた体を起こす。散らばった箒を手に取って立ち上がる。

 普通の変質者ならケガをするか、気絶するか、見失うかのどれかだ。

 あの茶色は、とてもまずい雰囲気なヤツ。


 襲う理由は考えたくないし、正体は分からないが、大学の警備員が駆けつける間に処理をつける勢いだし、来たとしても問題はなさそう。

 何せ、滅多に感じることのない魔力を感じる。


「さすがマツカイサ首都のバイチークというべきなのかな」

「ほう。上手に防御したか」

 フームは黙って箒を構える。

「……まだ反抗できるのか。なら吾が得意な技を披露しよう」


 茶色の男は、辺りに宝石をばらまいた。

 すると、たちまち宝石を中心に土は隆起し、瞬く間に土の像ができて立ち上がる。


「土を利用する。というあなたを習って、ゴーレムで答えよう。後、こういった人形使いは吾が得意分野とするところ」

「てー!」


 箒を軸にして、強いビームを放つ。

 ゴーレムは腹に大きな穴空けて倒れる。

 こういった対モンスター魔法は無闇に使ってはいけませんと、多くの大人に言われてきたけど、遠慮無くこのパターンは使うやつ。

 フームに大きな影を覆う。


「は、盾!」


 頭上に盾魔法を展開し、後ろからの一撃を防御する。


「危ない……」

「フッ。こんな簡単な不意打ちは防がれるのも当たり前か。少し本気を出すか」


 茶色の男は、直接魔法をかけてきた。


「なるほど。状態異常の魔法にも耐性を持っているか」


 そして、まともにくらったら、とても不味いことになることをフームは充分分かっていた。

恐らく今の即死性の魔法に違いない。

 だって、身体の中から抑えているモノが、喉のすぐ近くまで飛び出してきたからだ。


「さて。ここで終わりだ」


 茶色の男は、一つ目の前にゴーレムを作った。

 今さっきのゴーレムの違いは、色も違うが、何より魔力のちがいで、

 ゴーレムの腕は、フームの盾魔法を粉砕し、直接身体に当たった。

 ぶつかったところを中心に、地面が揺れた。


「ほう」


 茶色の男は、フームの様子を見て笑った。

 フームは無事だった。

 だが彼女の体から、黒い翼のようなものが覆っている。だがそれは、ついさっき使用した盾魔法とは違う異質なオーラを放っている。


「アハハハ! やはり黒魔女だったか! イーサー! 最初のこれほどの幸運はない!」


 フームは舌打ちする。


「死ね」


 周りに同じゴーレムを生成し、攻撃の構え取った。

 フームは目を瞑った。

 辺りは大きな爆発音で包まれた。



「ボルケニック・レイ? ミサス隊長だと!」


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