わたし達はまだ上り始めたばかりだ、このなろう坂を!
「ぬるぬる~、ぬるぬる~」
絶望の戦場に魔物の陽気とも取れる声が木霊していた。
「ブクマ子ちゃん、評価子ちゃん、PV子ちゃん~」
地面に倒れる仲間達。
今、わたしのパーティはぬるぬるローションスライム一体に全滅しようとしていた。
「ぬるぬる~、ぬるぬる~」
「なんでスライムがこんなに強いのよ~」
「ぬるぬる~、ぬるぬる~」
ぬるぬるローションスライムはそんなわたし達を嘲笑うかのようにローション溜まりの中で踊り跳ねていた。
「なろう子ちゃん私達はもうだめだ~」
「なろう子ちゃんだけでも逃げて~」
「もう私達ぬるぬるだから~」
ブクマ子ちゃんと評価子ちゃんとPV子ちゃんがローションでぬるぬる体を辛うじて起こして、生まれたばかりの小鹿のようにプルプル震えながら言った。
「ブクマ子ちゃん、評価子ちゃん、PV子ちゃん。そんな事出来ないよ。みんなを見捨てて逃げるなんて~」
一体どうしてこんな事に……。
アイテムの買い溜めが足りなかったから、それとも来る時間を間違えたから、そもそも山に登るのに海用装備で来ちゃったから。
ああ、意外と思い当たる節が多すぎてしぼれない~。
「大丈夫だよ、なろう子ちゃん。きっと全滅したらこの辺に理由が表示されるから~」
「やめて~、ブクマ子ちゃん。セリフがメタいからやめて~」
「ぬるぬる~、ぬるぬる~」
そんな事をやっている内にぬるぬるローションスライムがどんどん向かってくる。
「ぬるぬる~、ぬるぬる~、ヌル、アインス、ツヴァイ――」
「ひぃぃ、なんかドイツ語でカウント始めたよ~」
わたしが頭を抱えていると、評価子ちゃんが、
「そういえば、なろう子ちゃん今朝宿屋でポーション貰ってなかった?」
「ポーション? ああ、そう言えば貰ってたよ~」
今朝の事である、わたしは宿屋のおばさんからご当地高級ポーションを貰っていたのだ。
それを飲めば、それを飲めばワンチャンいける!
わたしは鞄からご当地高級ポーションの瓶を取り出すと詮を抜く。
そして口をつけようとした時PV子ちゃんが、
「そう言えば、そのポーション、ぬるぬるローションスライムのおしっこなんだって」
解説しよう。
ぬるぬるローションスライムに大量にポーションを与えて、その尿を採取するとそれが最高級ポーションとなるのだ。
「なろう子ちゃん、それ……飲むの?」
………。
……。
…。
「こころがおれました」
わたし達は全滅した。
◇◆◇
「はっ!」
わたしが目を覚ますとそこは教会だった。
「ほっほっほっ、目が覚めたかね」
「あ、あなたは」
「わしは俺TUEE教会のチート神父。君達は全滅したのだよ」
そっか、わたし達ローションぬるぬるスライムと戦って全滅しちゃったんだ。
そこまで考えてはっとする。
「そうだ、他のみんなは!」
「安心しなさい。すでに目を覚ましておる。ほれ向こうをみよ」
チート神父が指し示した方向をみると、わたしの仲間達が駆け寄ってきていた。
「なろう子ちゃん!」
「なろう子ちゃん。よかった目を覚ましたんだね」
「ぬるぬる過ぎてもう駄目かと思ったよ」
わたしを取り囲むとみんなが心配そうな顔で見つめてくる。
「ブクマ子ちゃん、評価子ちゃん、PV子ちゃん……」
わたしは一人一人の顔を見回すとおずおずと切り出す。
「ごめんね。わたしが装備を間違えたせいで」
「気にしない気にしない~」
「たかが全滅しただけだ~」
「もう一回やり直そう~」
「みんな……」
ああ、わたしはなんていいパーティを持ったのだろう。
わたしは涙を拭うと、
「うん、そうだね!」
元気よく返事をした。
とはいえ、装備もお金もアイテムも失ってしまったこの状況。どうすればいいのだろう。
「ほっほっほっ、困っているようじゃの」
「チート神父」
チート神父は大きく頷くと、
「お主には特別に俺TUEE教会秘伝のチートの加護を授けよう」
「チートの加護だって! やったぁ。でもなんでくれるの?」
「実は今死者蘇生キャンペーン中での、お主が丁度百人目の死者だからじゃ」
「そうなんだ~。わーいラッキー」
「ほっほっほっ、頑張るのじゃぞ」
そんなこんなで、俺TUEE教会を後にすると、わたし達はローションぬるぬるスライムにリベンジするべく因縁の地を訪れていた。
「ぬるぬる~、ぬるぬる~」
ローションぬるぬるスライムがあざ笑うような声で鳴く。
「なろう子ちゃん、ローションぬるぬるスライムが出たよ~」
「ぬるぬるにされる~」
「なろう子ちゃんどうしよう~」
慌てふためくパーティメンバー達。
まあまあ君達、落ち着きたまえ。
「今こそ、チートの加護を使う時! さあ、俺TUEE神よ。わたしに力を!」
………。
……。
…。
あれ?
拳を突き上げてみたけど、変化なし。
「何も起こらないよ? なろう子ちゃん」
「チートとは一体?」
「なろう子ちゃん、使い方それで合ってるの?」
使い方それで合ってるのと言われましても。
えっと、その……。
「てへ、使い方聞いてくるの忘れちゃった」
「ぬるぬる~、ぬるぬる~」
絶望の戦場にぬるぬるローションスライムの鳴き声が木霊する。
そうここは、なろう坂。
多くの冒険者がローションに足を取られ泥沼にはまる恐ろしい坂。
わたし達はまだ上り始めたばかりだ。このなろう坂を!