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893の妹は覚悟を決めます  作者: 白李
幼少期
4/13

姉弟

「紅哉兄さん誘拐でもしてきたの?しかも男の子2人も…」

「してねぇよ!!誰が男なんか誘拐するか!」

紅哉に呼び出された深白と翠は紅哉の自室に居た小学生にも満たない年齢の男の子2人をみて唖然とした

遂に誘拐してしまったのかと、

私はいつかやると感じていたけど

碧生兄さんはその2人をみて微笑ましそうに笑っている

笑うな説明しろよ、この子供の正体を!

碧生兄さんはその目線に気づいたらしく口を開いた

「この2人は新しい兄弟だ」

「「・・・」」


翠の耳元によった

「(翠兄、紅哉兄さん遂にやったね…

いつかやると思ってたよ誘拐ってやつ)」

「(誘拐したあげく兄弟とか、たちが悪くない?)」

「((さすがクズだわー))」

「コソコソ話するなら本人がいねぇところでやれ!!

誘拐なんかしてねぇって言ってんだろ!

腹違いの兄弟だ!親父が今日急に連れてきたんだよ!」

紅哉にすべて筒抜けだった陰口に憤怒しながら叫んだ


深白と翠は顔を見合わせた

「(嘘って可能性は?)」

「(大いにありえる)」

「ありえねぇって!!」

紅哉兄さんの言葉は信じられない

私たち2人に俺は喰種だからお前らを喰っちまうぞ!と言われて号泣したのは記憶に新しい

あれは墓まで持っていく恐怖だ


「深白、翠、兄貴が言ってることは真実だ

俺たちも急に呼ばれて行ってみたらこの2人がいて兄弟になるから面倒よろしくって言われて帰ってきたところなんだ」

「「碧生兄さんが言うなら信じる!!」」

「どうしてだよ!」

「日頃の行いだよ」

「素行の悪さだね」

「ぐうの音も出ません!」


しょぼんとしていじけている紅哉を適当にあしらった

これで日頃の行いを改めてくれればどれほど嬉しいことか、どうせ改めないだろうけど

「名前は?」

「壱弥…」

「充哉です!!」

「壱弥、充哉私は…「深白お姉ちゃんでしょ!教えてもらったよ!」」

充哉はニコニコとこちらに笑いかけているが、壱弥はそっぽを向いて目を合わせようともしない

これはまた性格の違う兄弟が出来たもんだ…


次の日壱弥が脱走した

壱弥は紅哉兄さんの管理下にある

紅哉兄さんは付き従い命令に背かないものにはそれなりに気に入り手を下すことはない

けれどそれは部下に限ることだ

兄弟となった以上紅哉の目の届かない場所に行こうものならいかなる理由であれ手が下る

それが兄弟の暗黙のルールであり承知していることだ

早く見つけなれば壱弥が犠牲になってしまう

私は1人、子供が隠れられそうな場所へと向かった


壱弥は思ったより近くにいた

家から15分ほど歩いた先にある公園の土管のなかにいた

「壱弥いた…帰るよ」

「嫌だ」

壱弥の手を握り土管から引っ張った

全体重をかけて手に力をかけられ土管から出すことはできなかった

仕方なく土管の中に入り話を聞くことにした

「…どうして?」

「僕は…いらない子だから」

ピクリと肩が動いた

答えるつもりはあるようだ

ゆっくりと口を開いた


「ママが最後に言ってた

お前はいらない子だから捨てるんだ

だから浦組の紅哉にやるんだって

僕は…ママにとって重荷だからって

…だから僕は…どこにいても重荷になっちゃうから

だから…」

「だから家に戻らない?」

「…うん」


この土管の中の鉄臭いにおいで少し昔の記憶を思い出した

母が死んだ理由を聞いた時と同じにおいだ

母親か…いいな


…私は少しだけ聞いてみたくなった

「ママのこと好きだった?」

私は母のことは覚えていない

それどころか写真もないわけで、顔も知らない

父に言わせれば母の生き写しと言ってもいいほど似ているらしいけど…

だから私が母が好きか嫌いかと聞かれても分からないが素直な答えだ

だからこそ聞きたくなった

普通の子供はどう答えるか


「好きだよ…いまでも大好きだよ…」

壱弥の目から涙がこぼれる

語尾は小さく、か細くなっていたが聞こえた


この子はまだ戻れる

まだ汚れていない

紅哉兄さんの道具でもない

まだ純粋に母を信じることができ、想うことができる

裏の世界に似合わないほどの真っ白な心を持っている


「壱弥は浦組から逃げたい?」


悪い女だと思う

こんな子供に選択肢なんてない

きっと母の元に戻れば母は困った顔をして抱きしめてくれるだろう

もう愛しいわが子を離しはしないだろう

けれどその場で終わりだ

浦組の総攻撃を受け、母子諸共死ぬ

それならばまだマシだ

紅哉兄さんは裏切り者を決して許さない

この小さな手で実の母を殺させるかもしれない

紅哉兄さんならやりかねない

壱弥は母に嫌われたと思っているようだがきっと違う

壱弥の家に浦組の重圧プレッシャーがかかったのだろう

壱弥を手放せば母や家、そして壱弥自身を生かすという条件を無理矢理決められたのだろう

…もしかしたら愛しき母と共に死ぬ方が幸せなのかもしれない

こんな薄汚れた世界に汚れきる前に…


「僕は…浦組に残る」

壱弥の目に溜まってる涙が今にも零れそうだ

唇をかみしめて涙をこらえている


「僕は強くなるんだ…

ママに自慢できるくらい強く強く

それで…ママの重荷にならないようになるんだ!」

「…そっか」

壱弥の中の葛藤は終わったらしい


壱弥を重荷に思う人なんていないよ

特に紅哉兄さんは背負ってる業の重さが違うから壱弥ぐらい抱えられる


「壱弥…私たち兄弟は一人一人違う事情を持ってる

母親は全員違うし、産まれた環境も違う

けど浦組に関わって産まれた命同士支えあって生きている

だからね壱弥も充哉も私たちで支える

全部私に言いにおいで

辛いことも苦しいことももちろん楽しいことも

私はずっと壱弥たちの味方だよ」

「…うん、深白お姉ちゃん」


鉄臭い土管から出て、手を引き家に帰った

お互いに小さい手で小さな手を守ってる

少しだけ大きい深白の手がとても大きく見えた



「紅哉、お前に話がある」

「なんだよ親父改まって」

その日の夜、紅哉は組長に呼ばれ事務所に訪れていた

住んでいる家の最奥

限られた人間しか入られないその場所で若頭である紅哉のみが呼ばれた

いつも2人を守っている部下は誰1人いない

それほどに機密性の高い話なのだろうか


「…深白がいるだろう」

「あぁ、いるが深白がどうしたんだ?」

深白は昔親父が好いた女の子供らしい

容姿が整っていることは認めるが、だからといって俺が深白をどうこうしたいと思っていない


「深白はあいつにそっくりだ、その容姿は生き写しのように美しい」

あいつとはきっと深白の母のことだろう

「故に利用価値がある」

「は?」

何を言っている


「あの美貌を使えばどんな男にも取り入れられる

お前が本当に若頭になりたいというのならばあの女を使えばいい」

「どういうことだ、親父」

「お前が組長になるのを反対する声が出てきている

実力があったとしてもお前はあまりに若すぎる

だからこそ古今勢は不安に思っているんだその声は最もだ、私もそれは思う

お前に必要なのは背後にある圧倒的な力だ

その為には同盟でもなんでも結ばなければならない

それを円滑に進めるためには女が必要だ

それもあいつのように美貌の持ち主ならばより円滑に進むだろう」

「そんなこと俺は…しねぇよ」

「…お前が組長になりたくないというなら反対はせんよ

だがお前が組長にならないと言うならば若頭の席を今のままで居させるわけにはいかん

いわば若頭とは組長になるための練習期間ということだ

賢いお前ならこの意味がわかるだろ?」

俺が若頭に君臨することで俺の元にいる部下たちをまとめられている

俺がいなくなることで部下は暴走し、最悪組内部で闘争が起こる

…そうなれば俺の管理下にいる兄弟たちに身の保証がない

いつ何時ほかの組から狙われても仕方がない状況になる

そうなれば全滅は免れない

…かといって深白1人の将来を糧に兄弟を守るなんてそんなこと


「お前がどう選ぶかは自由だが1つ言おう

お前は1人を犠牲にし、皆を守るか

皆を犠牲にし、1人を守るか

どちらを選ぶ」

「…そんなの選択肢になってない」


「…だな、だが深白はこのことを承諾したお前の役に立てるならばいくら使ってもいいだと、いい妹を持ったな」

深白に俺と同じように兄弟か自分1人かを聞かれたあいつは自分1人を犠牲にすることを選ぶに決まってる

「…お前は…本当に…クズだな」

「そうだろうな」


深白は俺の出世のための道具に成り下がった

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