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僕は塔の頂上付近でハシゴ付き死体を貼る連中にキツク言い聞かせていることがあった。
それは、何人たりとも頂上を見てはいけない、ということだ。
もしも、僕に無断で頂上を覗いたら、ただちに処刑する、と事前に通告しておいた。
だからだろう。兵士の1人がこちらにいそいそやって来て跪き、僕に報告した。
「陛下! ついに頂上までハシゴがとりつけられました」
僕は飛びあがり、派手にガッツポーズした。そして大臣達が止めるのも聞かず、僕はハシゴに手を駆け、更に登り始めた。僕は体力に自信があった。
蟻がよじのぼるように僕はハシゴをスイスイと登ってゆく。我が国の兵士達は几帳面である、と僕は思った。だって、ハシゴがとても綺麗に垂直に伸びていた。死体の一つ一つにハシゴをとりつけたので、ひょっとしてバラバラになっているんじゃないかと心配したが、それは杞憂に終わった。ハシゴはまるで一本に繋がっているかのように一直線に伸びていた。僕ははにかみ、どんどんハシゴを登ってゆく。途中誰かの声がした。上かな、と思い上を向くも、違うと即座に分かった。
声は下からしていた。
それは何ともいえない声であった。
それは、うぎゃああああ、とも、ひぎゃああああ、とも聞えてきた。
だが、僕は下の世界に興味がない。大事なのは塔の頂上に何があるかであって、塔の下の世界は嫌というほど知りつくしている。
声が聞えたからといって、下を向いて何になるのだろう。
そう思った僕は一瞬も下を向く事なく、ただ上へ上へとよじ登っていった。強風が吹き、僕の体が僅かに揺れた。僕はハシゴにしがみついた。
ハシゴはビクともしなかった。
――よし! いけるぞ。
そう思った僕は、更に早くハシゴをよじ登る。神に導かれている様な、そんな感覚が僕の体を覆っていた。そう思うと、ハシゴの一つが一つが光っている気さえした。
何と素晴らしいのだろう。
本当に何と素晴らしいのだろう。
僕は嬉しさと感動で瞳から涙がこぼれ落ちそうだった。あと頂上まで数mのところに迫ってきていた。3m、2m、1m、60cm、30cm、10cm、そして――。
僕は頂上に手を伸ばし、そこに体重をかけた。重い自分の体を持ち上げ、ついに、頂上に足をついた。顔をあげると、僕の視界に「塔」の頂上の光景がひろがった。