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ある臣下がいった。
「陛下、――大変な――をいたしました。それは――、つまり――、で、あるからして」
ああ、これはまだ良い方かもな、と僕は思った。酷い時には臣下の言葉なんてこう聞える。
「ヘェイイイームズクルゥゥゥゥゥウウウャフタウン・ツァマァアアアアアコヘェェェェェェデアルゥウウウウウウ」
まるで僕の頭の中に何かが棲みついていて、僕の頭を支配しているみたいだった。だから、こんなに視界が歪み、こんなに灰色で、こんなにもおぼろげなのだろう。
僕はとろんとした目で訊いた。
「待て、それは塔に関することか?」
それに対し臣下は何やら必死に声を張り上げていた。そして、盛んに首を縦にふるので、塔に関することをいっているのだと分かった。
塔に関すること。
このキーワードが僕の脳を駆け廻る。すると、ほんの一瞬のうちに頭の中の何かが切り替わる。歪んだ灰色の世界がまたたく間に色づき、血管に血液が流れ、目の焦点が合い始める。四角い物が四角に見え、歪んだ世界が止まった。
僕はもう一度臣下をみた。
目がギョロッとした男で、妙にあごが角張っていた。
はて? こんな顔をした男だっただろうか? という疑問を抱きながらも僕は、続けよ、と言った。だから臣下は続けた。
「では……。そのなんといいますか……。驚かないでください。嘘つきが死ぬと体が硬くなる事を発見いたしたのです。しかもそれは同時にひどく粘着性のある物質になるのです」
僕は数秒なんと反応していいのか分からず、押し黙った。
まず話が嘘臭かった。しかも、仮に話が事実だったとして、それが塔に登るうえでどう役立つのか、皆目見当がつかなかった。だから僕は思った事をそのままいった。それが何の役に立つのか、と。
すると、臣下はこう返すのだ。
「ですから、この死体を塔の横で積み上げていけば、ひょっとすると塔に登れるかもしれないな、と思ったものでして……」
この言葉のあと、また数秒、僕は押し黙った。
王の間に沈黙が流れた。
とてもふざけたアイデアだが……、面白い、と僕は思った。だって、他の方法はもう十分に検討され、失敗し続けていたのだから。