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「塔」に入口はない。したがって当然出口もない。なんというか、この「塔」は、本当に真上から真下まで、ただ一直線に伸びている棒のようなものなのだ。
この塔がいつごろからこの地にあるのか……、それも定かではない。我が王家は比較的史実を大切にする家柄だが、どの書物をかき集めても、少なくとも数百年前からずっとこの地にそびえ立っていたらしい、ということしか分からない。
書物には、この塔との格闘の歴史が克明に記述されていた。例えばこんな風にどこかのページを開いてみよう。僕は手に持った歴史書をパラパラとめくる。そして、適当なところでそれを止め、中を見た。ほら、やはりあった。え~と、この塔はとても硬いらしい。それも想像を絶するほど硬いらしいのだ。ある王が、石を飛ばす攻城兵器をもって1年間ずっと塔に石をぶつけ続けた。だが、塔には傷一つつかなかった。できたのは1mmに満たない程のやんわりとしたへこみだけだった。
これだけ硬いのだから、当然この塔にハシゴをかけることなどできるはずがない。
おっと、説明をはしょってしまった。
ハシゴを塔に固定するには塔に釘を打たなければならない。しかし、当然ながらこの塔に釘なんて刺さるわけがない。
つまり、釘が塔に刺さらない以上、ハシゴは使い物になるはずがないのだ。
だが、王家はこの「ハシゴ作戦」をなかなか諦めなかったらしい。記録によると、何と不可能と分かってからも57回もハシゴを使った試みがなされたようなのだ。だが、そのどれもが予想通りの結果に終わった。
僕はまた歴史書をめくる。本当にありとあらゆる方法が試されたのだな、と思った。
ほら、例えばこれ。
僕のひいお爺さんであるラテウス王は数万頭の馬と牛を使い、この塔を倒そうとしたらしい。馬と牛を縄にくくりつけ、塔を引っ張ったのだ。だが、塔はビクともしなかった。
僕は溜息をつき、歴史書を閉じた。
王である僕はこの塔に挑まなければならない。だが、残された方法などあるのだろうか、と僕は思った。