-1-
その巨大な物体は「塔」と呼ばれていた。
円柱の形をしており、円の直径はおよそ300m。そんな円柱がちょうど地面にぶっ刺さったように、広大な大地にそびえ立っていた。
高さは分からない。ものすごく高い。それしか分からない。雲と雲の合間にこの塔の終わりがうっすら見えるけど、本当にそれだけだ。
そして、これが一番重要なのだが……、まだ誰もこの塔の頂上を見た事がなかった。
頂上からは時折誰かの叫び声のようなものが聞えた。ゴォオオオオ、とも、ウゴォオオオ、ともそれは聞えた。毎年決まった季節に叫ぶので、僕はそれがなんであるのか気になった。いや、気になっているのは僕だけじゃない。この国に住む国民皆が気になっていた。
「あれは神の声でございます陛下」
そう学者が僕にいった。そういえば違う学者はこういっていたな。
「あれは天空に住まう悪魔の腹を鳴らす音でございます」
本当だろうか? と僕は思った。
とにかく、連日連夜、国民はあの塔の上に何があるのか噂し、様々な学説が飛び交い、時にはそれを巡って殺人がおこった。そして、塔にまつわる宗教が生まれては消え、生まれては消えた。皆、二言目には塔の話題を持ち出し、塔にまつわる話で笑い、塔にまつわる話で泣いた。
この国はあの「塔」を中心に動いていた。
男に生まれたならば、あの塔の頂上を覗く事がすべてだ、と考える者もいた。
僕の場合は、父上が急死し、14才にして突然王になってしまったわけであるが、気持ちは皆と同じであった。
――あの塔の頂上を覗いてみたい。
僕の頭の中には、ほとんどそれしかなかった。
僕は王になった時の即位式で宣言した。
「僕は、必ずあの塔の頂上に登る。歴代の王が果たせなかった夢を叶える。それこそが僕の使命だ!」
割れんばかりの拍手が僕に降ってきた。
心臓が高鳴り、細胞が沸き立つ。
僕は絶対にこの塔に登る。そう自分に誓った。