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アレックスはずっと不機嫌だった。
眉間に皺を寄せて男前が台無しだぜと言ってやれば熊よりもおそろしい目で睨まれてしまった。アレックスは野生動物より怖いなぁ。
「俺が思うに、黄金の泉は光輝いてると思うから空からなら簡単に発見出来ると思うんだ! それはもうキラッキラしてるに違いない! アレックスの髪の毛のように!」
「……」
いやっほーい! とテンションを上げればアレックスが舌打ちをした。
操縦桿を握るアレックスはずっと不機嫌だ。せっかくの良い天気で、ヘリも順調に進んでいるというのに暗い奴だ。
今回は黄金の泉を探しにやって来た。ヘリを一括で買ったもんだからアレックスにこっぴどく叱られたが俺はめげない。アレックスも付いて来てくれたから頼もしいしなぁ。
「いーい天気だなぁ」
「お前の頭と同じだな」
「俺の頭? この空のように雄大で素晴らしいと!」
「ソーデスネ」
いやっほう! 今日は良いぞ! 調子も良いし、天気も良い! これは未知との出会いも期待出来る!
歌でも歌って、アレックスのテンションも上げてやろうかなぁと思った時、ゴロゴロと雷の音がした。
天気が素晴らしく良いのに雷? おかしいな、雲一つ無い良い天気だぞ?
「何処かに雨雲でもあるのか?」
「……ここを離れるぞ」
「んー、風も強くないのになぁ」
アレックスがヘリを迂回させる。まあ目的地があるわけじゃないから迂回しても問題は無い。俺は真下を見て黄金に光り輝く泉を探すことにしよう。
真下を見ても木々ばかりでなかなか輝くものは発見出来ない。
「無いなぁ」
――ゴロゴロゴロ……
「!」
雷の音が近づいている気がする!
離れたはずなのにこちらへ流れて来たのか? でも、それっぽい雲は見当たらない。
「フィル、少し飛ばすぞ」
「お、雷と競争か?」
「掴まってろ」
「オーケー」
ガクンと体に重力が掛かる。ヘリがスピードを上げて飛び始めると雷の音もだんだんと大きくなっている。
「な、なんだ? 雷神でも居るのか?」
「神様だったら良いけどなっ」
雷神といえばなんだろう。と俺が考えた瞬間、目の前に雷が落ちた。
雷の落ちる音は凄まじい音だと思っていたが、真ん前に落ちた瞬間は俺の中で音なんてものは聞き取れなかった。音の無い世界でゆっくりと眩い光が視界一杯に広がった。
わーお。
――バリバリバリィッ!
耳が痛くなるほどの音が聞こえた瞬間、視界は真っ黒になった。
「雷すげぇええええ!」
「―――ッ!」
俺が叫ぶ。隣でアレックスも何か叫んでいるが何を言っているかは全く聞き取れなかった。おそらくアレックスの方もそうだろう。
ヘリに物凄い衝撃が起きた。何かがヘリにぶつかった。そう思った俺の感覚は間違いではなかった。ちかちかする視界、目を細めて前方を見ればヘリの窓に大きな黒い怪物が張り付いている。
その顔はコウモリに近いような、牙を剥き出しにした大きな口を開けて真っ赤な目で俺を見ていた。そうだ、例えるならガーゴイル。あれが生きて動いている。
「未知の生物キター!」
悪魔は、モンスターは実在した! ガーゴイルの彫刻を最初に作った人物は実在したコイツを見たから作ったのかもしれない!
バサ、と怪物の背に生えた羽が動いた。コウモリっぽい羽。翼を持った人の形に近い生物。
もしや、未確認飛行物体として目撃されたことがある。フライング・ヒューマノイドと言われているのもコイツかもしれない!
「世界的大発見だぁあああ!」
「フィル! 何してる! パラシュートと荷物を背負え!」
「捕まえよう!」
「背負え!」
アレックスに無理やり荷物を背負わされた。俺は目を離さない! この未知の生物から目を離さないぞ!
「アレックス! あれが何に見える!」
「化物だ!」
「未確認生物だぁあああ!!」
「黙ってろぉおおおお!!」
アレックスに掴まれヘリから飛び降りる。ああ、目の前に未確認生物が居るのに……。
ごうごうと風の音がする中で俺は最後まで目を離してなるものかと後ろ向きで地上へと落下する。ヘリと怪物。
「体勢を整えろ!」
「うるせぇ! せっかく未確認生物を見つけたのに!」
アレックスのバカ! と怒鳴った時、上空でヘリが爆発した。
「ああああああああああ、アレックスゥウウ! 俺がバカだったよぉおお! ごめぇえええん!」
「なるべく近くに落ちろ! 良いな!」
「頑張るぅうう!」
頑張ると返事を返したものの体は爆風で流される。これは確実にアレックスとはぐれる距離だろう。
あーあ、また遭難かぁ。