1話 黒ずくめの少女
見切り発車だけど投稿してみます
晴れ渡った空には筋状の雲が糸を引いて流れている。
初夏の太陽が温かく地面を照らし、適度に乾燥した風が柔らかく頬を撫でていく。
小高い丘の上で仰向けになって目を細めていた少女は、「これであの騒音さえなけりゃゆっくり昼寝ができたんだけど」つぶやいて、けだるそうに体の向きを変えた。
小柄な少女だった。体には黒く染められた鎧を身に着け、腰にはなかなか高価そうな長剣を下げている。髪は黒く、瞳もまた黒である。顔立ちは整ってはいるが、見る者は美しいと感じるよりも、その病的な白さに戸惑うだろう。太陽の下にあるのが何かの間違いのように青白い肌は陽の光を受け付けない。
「あー、そろそろ外壁を越えられるなぁ。面倒くさいけど、行かなきゃダメかなぁ」
ゴロンと体を回転させて腹這いになると、眼下の街を眺めながらぶつぶつと愚痴めいたことを言ってため息をついた。
今、少女の視界の中では、一つの街が攻め滅ぼされようとしていた。海岸沿いに数百の家が立ち並び、小さいとはいえそれなりに整備された港をもつこの街は、しかし攻撃に対する備えという点では頼りなく見えた。
「なにせ、外壁と言っても、ちょっと土を盛った上に木の柵を立ててるだけだし」
簡単に兵士たちは外壁に駆け上り、木の柵を押し倒し、あるいは切り払っている。
「あれは、十分な数の守備隊がいることが前提の備えだよねぇ。柵の間から槍でも突き刺す分には役に立つと思うんだけど」
少女は決してそういった集団戦闘に詳しいわけではなかったが、その彼女の目から見ても街を守るには明らかに兵士の人数が足りていない。少女が眠たげな眼で見ているうちにとうとう街の門が開け放たれ、そこから騎兵が突入していく。
「こりゃいよいよダメだね。仕方ない、行きますか」
それまでぐずぐずと起き上がるのを渋っていた少女だったが、いざ動き始めるとその動きは機敏だった。いよっという掛け声とともに身軽に体を跳ね起こす。腰に付けた袋からねじ曲がった円錐上の黒い角のような物体を取り出すと、「おいで、黒曜」ささやくように言う。すると、次の瞬間にはそこに漆黒の毛皮を持った一角獣が現れた。どうやら先ほどの円錐はこの獣の角だったらしい。どういう理屈か、その角から一角獣が姿を現したのだ。
彼女は地面を軽く蹴ると、ヒラリとその背中にまたがる。
「いくよっ」
少女の声に答えるように、一角獣は丘を駆け下りていく。それと同時に、一角獣の背に乗った少女がその姿を変えていく。
先ほどまでの小柄な少女の姿がかすむように消える。次に現れたのは堂々とした甲冑で全身を覆う偉丈夫である。兜の面覆いを下しているため、その表情はわからない。
いつの間にか、一角獣からは角が失われていた。今はただの黒馬となった一角獣と、黒い騎士となった少女が、街に攻め寄る兵士たちの後ろから襲い掛かかった。
黒騎士は、腰から長剣を抜き放つと、街に攻め込もうとしていた騎兵を追い抜きざまに切り捨てる。正確に首を狙った斬撃は、騎士の頭部を永遠に胴体から切り離した。無言のまま同様に三つ首を切り落としたところで、兵士たちが黒騎士に気づいて向き直る。
「月闇の別動隊か? しかし、一騎だと?」小隊長らしき敵の騎兵は、たった一騎の黒騎士を不審げに見ると、「押し包め!」周囲の兵に命じる。それに応えて長槍を持った歩兵がじりじりと黒騎士を囲もうとする。
だが、黒騎士は駆け寄った速度を緩めることもせずに、そのまま歩兵の中に突っ込んでいく。
「馬鹿め」
何本もの槍によって串刺しになる光景を予想して、小隊長は笑う。
だが、その笑いは一瞬の後には凍りついたように固まってしまう。黒騎士が乗馬の腹を軽く蹴ると、羽が生えたように黒馬が跳ぶ。一息に歩兵の包囲を飛び越えると、勢いのままに小隊長に切りかかった。
(シュッ)
拍子抜けするほど軽い音とともに、一合すら打ち合えぬまま小隊長の首が飛ぶ。首を失くした胴体が、理不尽を嘆くようにゆっくりと剣を振ると、そのまま崩れ落ちる。さらに黒騎士の行く手を阻もうとした別の騎士が二人、続けざまに切り捨てられる。
「な、なんだこいつは」「強いぞ! 迂闊に近づくな。距離をとれ!」兵士たちの驚き戸惑う声が響く。
だが、その必要はなかった。黒騎士は行く手をさえぎる敵兵を排除すると、そのまま街の中へと駆けて行った。
◆ ◆ ◆ ◆
少女は街路の中を影を縫うように駆けていた。黒馬の姿はすでにない。おそらくはまた捻じれた角の姿に戻しているのだろう。黒騎士の変装も解いて、小柄な少女の体に戻っていた。
少女はひときわ大きな建物まで辿り着くと、壁に張り付く。顔を半分出して建物の入り口をのぞき込むと、そこでは激しく剣をたたきつけあう兵士たちの姿があった。守備側の兵士は建物の入り口に陣取り、大人数が同時に行動できない狭さを生かして何とか攻め寄せる軍勢を防いでいるようだった。
「とはいえ、もうさほど長くはもちそうもないね」
少女は小さくかがむと、強靭なバネを使って高く跳びあがる。小さな窓にはまっていた鉄格子を掴む。
「影よ」
小さく呼びかけると、彼女の影が生き物のように動き出し、鉄格子に巻き付く。すると鉄格子が徐々に曲がっていく。ほんの数秒で少女が潜り抜けられるほどの隙間が生まれた。
窓をくぐって少女が降り立ったのは暗い部屋だった。ガランとした家具もない部屋にはしかし、人影が一つあった。
少女が視線を向けると、床に座っていたその人影はビクッと体を震わせる。
「だ、誰ですか?」
か細い声だった。近寄ってみると、黒ずくめの少女よりもさらに幼く見える。どうやら幼い少女は囚われの身であるようだ。後ろ手にロープで縛られている。
「私? 私は、……っと名前も思い出せないな」
「え?」
「まあ私のことはいいよ。それよりあんたは? なんで縛られているの?」
「そ、それは捕まったから……」
「捕まった?」
「はい」
「ふーん、そりゃ大変だ」言いながら幼い少女に歩み寄ると、その顎を指でとらえてじっと顔をのぞき込む。
「わ、私の顔になにか?」
囚われの少女は目を白黒させて戸惑う。怯えているのか細かく肩が震えている。
「あなた、私と会ったことない?」
「えっ、な、ないと思いますけど。私は森から出たことがなかったですし」
「森?」
「はい、エルフの森です」
「エルフ……」つぶやくと、顎を掴む指を横に動かして少女の耳を確かめる。
「長いね」
「……エルフですから」
「ふむ」黒ずくめの少女はしかつめらしい顔をして何事か考えていたが、「あなたの名前は?」エルフの少女に向き直って問いかけた。
「……ライリィと言います」
「じゃあライリィ、あなた、私の従者になりなさい」
「ええっ!?」
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名前:不明
年齢:不明(外見的には16歳ほど)
性別:女
種族:人間
職業:黒騎士
Lv:??
HP:??/??
MP:??/??
STR:??
VIT:??
DEX:??
INT:??
称号:????? ?????
スキル:???? ??(??:?/?) 片手剣Lv.3 騎乗Lv.2
装備:ロングソード ライトアーマー 黒曜の角
名前:ライリィ
年齢:??
性別:女
種族:エルフ
職業:見習い狩人
Lv:??
HP:??/??
MP:??/??
STR:??
VIT:??
DEX:??
INT:??
称号:なし
スキル:??? ? ??
装備:布の服