三章 ルリシス、ヴァルザスに誘われる。
「もう少しすると王族が会場に入って来ます。その後私達の謁見の番になると係の者がが呼びに来るのでそれまでここで待機をお願いします。」
戻ってきたジョルダーノさんからこの後の行動予定を聞いているとルリシスちゃんが少し落ち着きが無くなり始めていた。
「うー、緊張するよ~。ジュエ...クラリスちゃん!!」
「大丈夫だよ!!ルリシスちゃん!!リーンベルの領主様に会うようなものですよ!!」
「いや、クラリスちゃん。それは絶対に違うと思うよ...」
ルリシスちゃんと顔を見合わせながら笑い合う。
「...うん、ありがとう。クラリスちゃん」
「もう大丈夫そうですね。」
笑ったことで落ち着きを取り戻した様なので良かったです。
暫く皆さんで談笑していると立派な服を着た方々が会場へと入って来られ会場が一気に静まりかえる。
エントランスの階段へと歩いていく人達の中に見覚えのある人がいます。
「あれ、あの人は....サリアさんですか!?」
「あれ!?ホントだ!!サリアさんだね!?」
「ですね...何故あそこに...」
私達三人がサリアさんの姿を見て頭を捻っていると、ヴェルディットさんが頭を少し掻きながらばつの悪そうな顔で喋り始めた。
「実はな、サリアさんはな...この国の第二王女での...本当の名はエレーゼと言うんじゃよ。」
「聞いてないのですけど....」
「「同じく...」」
私達から不信の目を向けられ誤魔化すように笑顔になるヴェルディットさんが続ける。
「ほれ、俺達がエレーゼ嬢を助けただろ!?あれのお礼がしたいと言ってきてな....王女がお礼をしたいと言ったらお嬢ちゃん達は身分が違いすぎると言ってここへは来なかっただろう?流石にそれはエレーゼ嬢から打診を受けたジョルダーノの顔を潰す事になるからのう...」
言いにくそうにそう呟くと小さな声で「お嬢ちゃん達、隠しててすまん!!」とヴェルディットさんが頭を下げている。
ジョルダーノさんも頭を下げているヴェルディットさんを見てばつの悪そうな顔をしている。
「確かにそう言うお話だと最初から知っていいたらここには来なかったでしょうが...今日は楽しかったので私は大丈夫ですよ!!」
「私もだよ、ヴェルディットさん!!」
「その通りです。頭をお上げ下さい。」
ヴェルディットさんが頭を上げるがまだばつの悪そうな顔をしている。
「師匠、すみません。私がエレーゼ様からの申し出を断れなかった事がそもそもの...」
「御二人とも、本当に大丈夫です。私は今ジョルダーノさんのお屋敷でお世話になっている身、だからジョルダーノさん達の為になることをするのが今の私の義務です。もう気にはしないで下さい。」
私がそこまで言うと二人は一言「ありがとう」と言った。
私達の謁見時間が来たのでしょう、王様の挨拶がエントランスで行われた暫く後に王様の側近らしき人がジョルダーノさんに耳打ちをしている。
「王からお呼びが掛かりました!それでは参りましょう!!」
「「「はい!!」」」
私達はアルテリア国の王様へ拝謁すると言う最大の難所を迎えた。
あ、歌を歌うのもありましたね...まあどうにかなるでしょう。
「ふぁ~!今日のミッションは無事に終了しましたね~!!」
「うん。あ~、緊張したよ~。王様に会うなんて始めてのことだからね!!もう今後は無さそうだから良い経験になったよ!!」
「後はダンスで晩餐会は終了ですね。と言う事は私達の用事は終わったようなのでダラダラしましょうか~。」
無事に私達は王族の方々との対面、挨拶を終えました。
ギターを使っての歌の最中にエレーゼ様の様子を見ましたが、私を見ながらさえない表情でした。
エレーゼ様、どうかしたのでしょうか?
そんなことを考えているとヴァルザスさんが慌てた様子で周囲を警戒するような様子を見せながらこちらへ走ってくる。
「ヴァルザス、どうかしたのか?」
「どうもこうも貴族の娘共に追いかけられてるんだよ。ダンスの相手が居ないのなら自分の相手になれってな!」
困った顔で肩を竦めるヴァルザスさん。
その上キョロキョロと周囲を警戒している様子ですね。
ああ、なるほど。ヴァルザスさんは宰相であるジョルダーノさんの息子さんですものね。その上婚約者もいない上に恋人もいない...それは貴族の令嬢方から狙われますね。
その上顔もイケメンですか....イケメン爆発しろって思いますね!!
人生イージーモードめ!!!
「そうじゃなー、ではダンスの相手を決めればもう逃げなくても良いのではないのかの?」
「ダンスの相手っていったい誰だよじいさん。」
ニヤニヤ笑顔でヴェルディットさんが私達の方を指差す。
いえ、正確には隣に居るルリシスちゃんに向けて指している。
「わ、私!??、無理だよ!!私は庶民だよ!身分がヴァルザスさんとは違い過ぎますよ!!」
「じゃがクラリスは確実にダンスは出来ないだろうしのう...。なんせダンス自体に全く興味が無さそうじゃから。」
私はコクコクと頷く。本当に興味が無い上に習った事も無いのでステップのスの字すらわかりませんから...
「じゃ、じゃあ、シルビアは!?シルビアはダンスを踊れるよね!?」
チラリと横目でシルビアを見るとゆっくりと左右に首を振る。
「....一通りは出来るとは思いますが私はクラリス様の奴隷です。とてもでは無いですがヴァルザス様と踊る等は出来ません。」
「じゃ、じゃあ...えっと..」
ルリシスちゃんが考えている最中にヴァルザスさんが方膝を床につけ左手を差し出す。
「ルリシス、俺と....いや、私と踊ってはくれないか?」
キラキラ笑顔のヴァルザスさんがルリシスちゃんを誘っている。
そこまで嫌なのでしょうね、貴族の令嬢の相手をするのが...
ルリシスちゃんが救いを求めるような視線を私に飛ばしてくる。
...ごめんなさい、ルリシスちゃん。私に振られても困ります。
視線をすっと逸らすと売られていく子犬の様な表情になるルリシスちゃん。
「ほれ、ルリシスちゃん。この中ではヴァルザスを助けることを出来るのがルリシスちゃんしかおらんのじゃよ。ダンスは学校で習っているはずじゃしのう。」
「...分かりました!!!分かりましたよ、もう!!ヴァルザスさんを助ける為ですよ!!」
右手を差し出しヴァルザスさんの左手を掴む。
「よっしゃ!!!助かるぜ、ルリシス!!!」
キラキラのイケメンビームを出し続けるヴァルザスさんにルリシスちゃんが遂に折れた。
今までの周囲に近付くなオーラを出していたヴァルザスさんが笑顔になりニコニコとしている。
ご令嬢方から逃げ切れましたからね....
しかし、今度はヴァルザスさんを狙っていたと思われる方々から刺すような視線を感じ始めましたね....。
「さあ、ルリシス!!行くぞ!!」
「ふぁ!?は、はい!?」
ヴァルザスさんに引きずられるようにホールへと連れていかれるルリシスちゃん、合掌。
骨はちゃんと拾いますから頑張って下さいね。