三章 シルビア、ある事に気付く。
私が試験に落ちた理由が判ってから100日位が過ぎました。
「よし!!これでエンジンとミッションは出来上がりましたね!!」
クランクカバーのネジを締め付け作業を終える。
次なる魔導機は空冷の2ストロークV型2気筒250ccエンジンを使った魔導バイクです!!!
「ジュエル、言われた通りのフレームが出来上がりましたよ!!」
「ありがとうございます、シルビアさん!!」
「しかし、部品を2つずつ作るのは何故ですか?」
シルビアが目の前にある2つずつ作られた部品の山を見て尋ねてくる。
「ああ、それはですね~、一つは今出来上がった2ストエンジンを載せるのですがもう一つは別の物を載せてみるのですよ!!」
「二台作るのですか!?」
驚きで目を白黒させているシルビアが声を上げる。
「そうなりますね。でも、もう一台の方はどちらかと言うと実験のようなものです。作れるかわかりませんから...、まあそれは置いておきまして取り敢えず部品を組んでいきましょうか!!」
「はい!!」
出来上がった部品をシルビアと共に組み上げていくが、気付くともう夜も更けてきたようでトルステンさんが作業場に顔を出して来た。
「ジュエルちゃん、シルビア。そろそろヴェルディッドさんが迎えに来る時間が近付いて来ているよ。」
お茶とクッキーの差し入れを机の上に置きながらそう伝えてくれる。
「あ、もうこんな時間ですね!シルビアさん、ヴェルディッドさんが迎えに来てくれる迄休憩しましょうか!!」
手を洗った後にソファーに座り、お茶を口にする。
「ジュエルちゃん、今度の魔導機はどの様な物になるんだい?」
魔導バイクになる予定の数多くの部品を眺めながらトルステンさんが訪ねてきた。
「判りやすく説明すると、ペダルで漕がなくても走る自転車みたいなものですかね~。」
「なるほど、では魔導車の様に恐いくらいの速度が出るのでしょうね。」
「いえ、恐らく車より速度が出る筈ですよ。...なので安全のための装備を作らないといけないです。」
「そうなんですか!?あの魔導車より速度が出るとは...」
トルステンさんはジョルダーノの運転する車に乗ったことがあるのだが、銚子に乗ったジョルダーノさんがアクセルを全開にして怖い思いをしたらしくトラウマになっているようだ。
「あれはジョルダーノさんがいけないのですよ...アクセルをあまり踏まなければそんなに怖くはないはずです。」
「そうですね、リーンベルからずっと乗っていたので馴れてしまいました。」
シルビアが頷きながらそう言う。
順調にバイクは出来ているので後はエンジンの制御系ですね。
今日も屋敷に帰ってからルリシスちゃんが借りてきてくれた本で勉強をしましょうかね。
そう言えば....
「トルステンさん、一緒にイセリア共和国に帰ったショウ君は元気にしているのですか?」
私がそう言うとにこやかな笑顔を少し陰らせながらトルステンさんが答える。
「実は...ショウは帝国の方の所で働いております。ショウ自ら願い出たので私からは止められませんでした。」
「...そうなのですか。その方は良い方なのですか?」
「...うーん、どうともいえませんね。まあ、悪い扱いは受けていない筈です。ショウと同郷の方だと仰ってたので。」
同郷?まさか日本人...かな?
トルステンさんの話はそこで終わりそれ以上の詳しい話は教えてもらえなかった。
「ジュエル、おめでとうございます!!完成しましたね!!」
「はい!シルビアさん、お疲れさまでした!!」
遂にジュエルが魔導バイクを作り上げてしまいました。
側で見ていてやはり御主人様は凄いです!!夜迄バイクを組み、その後は夜遅くまで魔導具の制御の勉強をルリシス様が借りてきた本でお勉強をされてました。
このお方は努力を重ねることでこれ程の物を作るのに認められない訳が無いでしょう。
...しかし、最近御主人様の事で気になっていることがあります。
「ジュエル、魔導バイクを作っている途中から気になっていたのですが何故だぼだぼの服を着ているのですか?」
「ああ、これですか?リーンベルから持ってきていた服がキツくて入らないのですよね~。服を買いに行く時間も惜しかったのでヴェルディットさんから借りてこの格好をしています。」
だぼだぼの服に袖が回転部分に巻き込まれないように黒い袖抜きを嵌めている御主人様が頭を少し傾け、それがどうかしたの?と言わんばかりの顔をしています。
「少々失礼します。」
御主人様を立たせ背の高さを見ますと、リーンベルの時よりもかなり伸びています。
御主人様を更に観察するとだぼだぼの服を着ている為に判りづらいのですがなんと言いますか随分と立派な体つきになっています...。
魔導バイクを作り始めてからは眠る時間帯が違い始めたために、お風呂も御主人はお一人で入っていたので今まで気づかなかった様です。
近くに居すぎて全然気付きませんでした!!
これは早急に対処しないと!!
「ジュエル、明日はトルステン様からお休みを貰いませんか?」
「そうですねー、魔導バイクを作り始めてからマトモに休みを取ってはいませんでしたからね。うん、明日はお休みにしましょう!!」
この会話の後にトルステン様からお休みの許可を頂きましたので後はルリシス様ですね。
お屋敷で久し振りのゆっくりとした夕御飯を食べ終わった後にルリシス様に相談を持ち掛けて見ます。
「ルリシス様、明日は確か学校はお休みですよね?」
「うん、そうだよー。どうかしたのシルビア?」
「ええ、少し...。実は...」
御主人様の今の状況をルリシス様に簡単に説明すると、驚いた後に思い出すような様子を見せた後、頷いています。
「...うん、シルビアの言う通りだと思う。近くに居すぎて気づかなかったけど間違いないね!!」
「それで明日、お店に行きたいのですがどの様な物が良いか解らなくて...。」
「大丈夫、私も行くよ!あ、ジュエルちゃんも連れて行こうね!!サイズが判らないから!!」
「はい!!お願いします!!」
話は纏まりました!!御主人様、明日は私達にお任せ下さいね!!