閑話 ダグラスと娘の訓練風景
突然ジュエルが剣術を教えて欲しいと言い出した。
何かあったのか?とジュエルに尋ねると「ある程度は他人に頼らず自分を守る力が欲しいのです!!」と言っていた。
それはとても良いことなのだがどうしたものか...
最近、昼によくシルビアと一緒に出掛けているから何をやっているのだろうと思っているとグルンが教えてくれた。
どうやらルナリスに剣術の基礎を習っているらしい。
娘のルリシスに剣術を教えるついでにジュエルにも教えているとのこと。
ジュエルの様子が気になる俺は時間がある時に、練習を隠れて覗きに行っているのだがジュエルはのみ込みが早いようだ。
始めはこちらがハラハラする様な感じだったのが見に行く度にちゃんとした形になってきている。
最近になりセリーヌにジュエルの剣術の事で相談したのだが、セリーヌは「レーベにもそろそろ教えてもいい歳になってきたし、私がジュエルちゃんにも教えるわ!!!」と息巻いていた。
...ちゃんと手加減しろよ、セリーヌ。練習でやり過ぎる癖がお前はあるからな。
セリーヌも剣術をジュエル達に教えはじめて暫く経ってからセリーヌから報告があった。
「うーん、ジュエルちゃん、体力ははっきり言って無いのだけれどどうやらそれを魔法で補ってる様なのよねー。今度ジュエルちゃんにシルバーソーンを使わせて見ても良いかな?もしかすると...」
なるほど、シルバーソーンか。あれは魔力となじみが良く効果を増強してくれる。
セリーヌの言う通りならばジュエルに良く合うかもしれないな。
俺も時間を作りセリーヌとジュエルの訓練の様子を見始めたが確かにジュエルは体力が無い。
開始5分くらいで木剣が上がらなくなるほどの体力の無さだが、体力の残っている時の剣筋が驚く程鋭くて驚愕した。
ジュエルの体力の回復を待ってからシルバーソーンを渡し俺も参加することのする。
腰にシルバーソーンを差したジュエルが両手で木剣を構え、俺に打ち掛かって来る。
シルバーソーンが鈍く光っているからシルバーソーンを媒介にして強化魔法を使っているのだろう。
右手で握っている木剣でジュエルの攻撃を払うが、直ぐに鋭い突きが返ってくる。
...全体的に攻撃は鋭く速いがただそれだけだ。
圧倒的に力の重さが足りない、そう思っていると急にジュエルの攻撃の重さに強弱が付き始める。
なるほど、自分の非力さを強化魔法で補いだしたか....
強化魔法には弱点がある。
打撃の重さを重視すれば鋭さが無くなるし、攻撃をいなされた時に体勢が崩れやすくなる。
ならば...ジュエルの渾身の一撃であろう攻撃を俺はいなし、カウンターを寸止めして終わらせるか。
ジュエルが俺の懐に飛び込んで渾身の突きを入れようとする。
俺はその突きを払うと同時にカウンターを狙ったのだが目の前に居る筈のジュエルの姿がない。
「とと様!もらいました!!!」
俺の後ろから声が聞こえ反射的に後ろに振り返り様に切り払う。
「あう!?」
寸止め仕切れずにジュエルの脇腹に木剣が当たってしまった。
途中で寸止めしようとしたため勢いはだいぶ殺させれていた筈だが、体重の軽いジュエルは吹っ飛んでしまった。
セリーヌとシルビアがジュエルへと駆け寄り話し掛けているがはきはきと答えているのでケガなどの心配は無さそうだ。
俺もジュエルの元へ行き喋り駆ける。
「すまない、咄嗟の事で寸止め仕切れなかった。しかし最後のは...」
「大丈夫です、とと様!ケガもありませんし!!最後のはですね攻撃が当たる瞬間だけ強化魔法をかけて攻撃の威力を上げて、それ以外は移動速度を向上する魔法をかけていたのですよ。」
なるほど、器用な事をする。
確かにそれが完璧に出来るなら強化魔法の弱点を無くすことが出来る。
ヴァルダーが得意としていた事だ、懐かしい。
「あ、そう言えば!この前からシルバーソーンを使っていて気づいたのですが、刃の部分だけが簡単に外れるようになってるのですよねこの剣?」
「ああ、その通りだがそれがどうかしたのか?」
シルバーソーンは刃が簡単に外れる構造にたしかになっている。
それはメンテナンスの向上の為だと思っていたのだが...
ジュエルがシルバーソーンの刃を外し、柄の部分だけにする。
「えーっとですね、柄だけの時に魔力を込めると....」
ジュエルが柄に魔力を込めると魔力で出来た刃が出現した。
「な、なんだと!!?」
ジュエルが魔力を込めるのを辞めると同時に魔力の刃が消える。
俺はジュエルから柄だけのシルバーソーンを受け取り魔力を込めて見るが刃は出現しない...
そう言えばヴァルダーが俺にシルバーソーンを渡して来た時に言っていた。
「ダグ、お前にはシルバーソーンの本当の力を引き出すことが恐らく出来ないだろうが今の状態のシルバーソーンでもそこら辺にある魔剣よりも遥かに強力だ。ガスト・エーヴィッヒと共に使え。」
ヴァルダーに言われた事を思い出しながら俺の中に確信めいた物が湧き上がる。
薄々は感じていたがジュエル、この子はやはりヴァルダーの生まれ変わりなのではないだろうか...