二章 オッサン少女、焼オニギリを作りたくなったそうです。
アランが自転車屋を始めて半年ほど経った。
自転車の方は中々売上も良いようでリーンベルでは結構走っている姿を見かけるようになった。
交通ルールも販売時の説明書に付け徹底させ、購入者に乗り方や交通ルールの講習もしているおかげで事故も今のところは無いようだ。
部品を作っているおっさん達も本業の片手間の部品作りじゃあ数が追い付かなくなっているらしく嬉しい悲鳴を上げているようだ。
もう自転車は完全に俺の元からは離れていてアラン達に任せている。
俺は今、オヤジ様の魔導具工房で魔導具の製作の傍ら、この世界で作りたい物を作っている。
それは燃焼機関だ。
始めは普通のレシプロエンジンでハイメカツインカムでも作るかなって思っていたのだがいかんせんレシプロは部品点数が多い。
それにこの世界にガソリンが存在するのか判らないので燃料に魔石を使う予定なのだがレシプロでは面倒そうだ。
そこで思い付いたのがロータリーエンジンだ。
元々ロータリーは部品点数も少なく構造もレシプロよりもはるかにシンプルだ。
その上ロータリーは水素などを燃料としてもエンジン自体の構造変更はあまり必要としない。
試して見るにはうってつけのエンジンだ。
エンジン修理書等の資料を生成魔法で造り出し、それを元にマジックメタルでローターやローターハウジング、エキセントリックシャフト等を造り出し今組んでいる最中だ。
工具も無論前世で使っていた物を生成魔法で造り出している。
久し振りに俺様の高級工具を握ると血がたぎるぜ!!
「へぇ、これがロータリーエンジンってやつか。すごい精密なんだね...。」
食い入るようにロータリーエンジンを組んでいる俺を眺めているエメリッヒが側にいる。
みんなにはロータリーエンジンを作ってるのは秘密なのだが、この間エメリッヒにバレてしまった。
「あまり近付かないで下さい...。今テンションボルトのトルク管理に集中しているところなので...。」
テンションボルトを規定トルク通りにトルクレンチで締め込んでいくとパキッと言うアペックスシールのサイドシールが剥がれる音がする。
よし!順調に組めてるようだな!!
テンションボルトを締め終わりエキセントリックシャフトがスムーズに回るか確認して一息つく。
「ふぅ~、今日はここまでにしときましょうね。」
:...凄いなこれは。まだこれは出来上がりじゃないの?」
「ええ、この後はフライホイールやオイルポンプ、補機類など色々と組付けが残ってますね。」
「なるほどね。うーん、出来上がるのが楽しみだよ!!!」
俺は顎に手をやり残りの工程を考えながらエメリッヒに返事をする。
「基本部分の構想はほぼ出来ているのですが、後は燃料である魔力の供給と点火システム、とそれらの制御をどうやるかなんですよね...。」
エメリッヒは俺の言葉を聞き少し考えている様子だが何か思い付いたように口を開く。
「たぶん大丈夫だよ!おそらく魔導ストーブなんかの魔方陣あたりの応用で使えるんじゃないかな?」
あ、たしかにそうだな。でも俺は新規の魔方陣を作るのは苦手なんだよな...。
「確かに使えそうですが私に出来るでしょうか...?」
「うーん、ジュエルちゃんには難しいかもね。僕は魔術都市の学校でそれ関係の勉強と研究をやってたから出来ると思うけどね。」
「なるほど...そうですか...」
参ったなどうすっかな...
「じゃあ、僕にどういう制御をしたいか今度教えてよ!そうすれば僕が魔方陣を組んでみるから!!」
...もう制御はエメリッヒに丸投げするか!
「お願いできますか、エメリッヒさん?」
「当たり前だよ!!魔導具を超えた機械を作るのに参加出来るなんてこちらからお願いしたいくらいだよ!!」
そう言いながらエメリッヒは背の低い俺の頭をポンポンと軽く叩く。
そういや俺はもうすぐで13歳になるのに身長があまり伸びてないんだよな。
ルリシスちゃんなんて既に160㎝位はあるのに俺は140㎝位しかない。
一緒にいると同い年に見えないぞ。
今度リーザに相談してみるか、俺の予定では165㎝位までは伸びるはずなんだがな。
夕御飯を食べ終わったあとに俺の部屋でリーザに俺の身長などの事を相談する。
リーザは顔を洗いながら俺の聞いているのだがコイツちゃんと聞いてんのか?
(失礼な!ちゃんと聞いている!!...しかしなるほど身長が伸びないと言うより成長が止まっていると考えた方が良さそうだな。)
マジかよ!どうすんのそれ!?
(おそらく前に言っていた意図せずに体が勝手に動く時があると言っていたのと関係がありそうだな...。)
あれか、あのエメリッヒの件の後も何度か勝手に動く事があったんだよな。
リーンベルに帰って来た後、リーザに状態異常の魔法なんかが掛けられてないか調べてもらったが特に異常は無いらしい。
(もはや、我が主神に尋ねてみるしかなさそうだな。我の部下に探させるが主神がどこにいるのか見当もつかない。少し時間が掛かるぞ。)
まあ仕方ねえよな、エストワールの奴はどこかで人間になってるらしいし。