一章 元オッサン異世界で初めての遠出をするそうです。
オヤジ様達がダンジョンに旅立ってから1ヶ月、俺は半分以上セリーヌさんの家の子になっていた。
俺の家でうとうとしていたはずなのに目を醒ますとセリーヌさんの抱き枕になっていることが何度もあった。
どうやら寝ている俺を何回も拐っていたらしい。
オヤジ様が居なくて俺が寂しいだろうと思っての行動だろうが。
そろそろオヤジ様達が戻って来る頃だろう。
そう思っていた頃、セリーヌさんが俺の居るリビングに慌てた様子で片手に手紙を握り締めながら飛び込んできた。
「ジュエルちゃん、大変よ!今エメリッヒから手紙が来たのだけどダグラスが怪我をしたみたい!!」
酷く狼狽しているセリーヌさんから手紙を受け取り、封の開いた手紙を読む為に取り出す。
なるほど、手紙の内容はオヤジ様がダンジョン探索中に怪我をしたとの事らしい。こちらにはいつ帰って来れるかは分からないと書いてある。
「だから.....だから危険だと言ったのに....」
言葉を吐き出すように呟きながら涙を流しているセリーヌさん。
「ジュエルちゃん!私はダグラスの様子を見てくる!身の廻りの世話が出来る人が必要だと思うの。ルナリスにジュエルちゃんの事を頼むつもりだけどお留守番出来る?」
留守番か...そりゃそうだよな。もうすぐ7歳になると言ってもまだまだ俺は小さい子供だ。だが俺は回復魔法が使える。もしかすると俺でも役に立つ事があるかもしれない。
考え込んでいる為にセリーヌさんに返答出来ずに悩んでいるとリビングの入り口から声を掛けられる。
「お店の方にセリーヌさんが居ないからこちらに来てみたけど...何かあったみたいね」
今日も遊ぶ予定だったルナリスさんとルリシスちゃんがリビングに入ってくる。
セリーヌさんがルナリスさんに事の顛末を伝えている間、ルリシスちゃんが俺の手をぎゅっと握ってくれている。
ルリシスちゃん...良い子だな。
セリーヌさんがルナリスさんに現在の状況を軽く説明し、これからの事を相談している。
「私は大丈夫だけど...ジュエルちゃんは本当にお留守番でいいの?」
ルナリスさんがそう俺に尋ねてきた。
「本当は私もセリーヌさんと一緒にとと様の所に行きたいです!でも私が着いて行くと足手纏いになるでしょうし、ご迷惑も...」
そこまで言ったところで俺は泣いてしまった。咽び泣いてしまいそれ以上言葉に出来なかった。
せめて今の俺が子供でも男の子だったら無理矢理にでも付いていったのだがそれも出来そうではない現状がとても情けなくなり泣いてしまったのだ。
泣いていて言葉が出せない俺の様子を見てルナリスさんが優しく頭を撫でてくれる。
「...分かった!セリーヌさん。ジュエルちゃんを一緒に連れていきなさい!」
「何を言い出すの!?ルナリス!!」
「セリーヌさん、私の家にある馬車を使って。あなたも元冒険者のはずよ、それともジュエルちゃん1人すら守れないなんて言うんじゃ無いわよね?」
「それは....」
セリーヌさんが元冒険者か...そう言えばあの日見た夢では結構強かったよな。
ようやく俺も落ち着いてきて涙が止まり始めてきた。
「ジュエルちゃんはお父さんと離れて1ヶ月位経つしその上セリーヌさんまで側を離れるなんて可哀想よ!ダグラスさんも怪我をして心が弱っているかもしれないからジュエルちゃんの顔を見せ、安心させて治療に専念させなさい!」
暫しの沈黙の時間が過ぎ、迷っていたセリーヌさんが決意で満ちた凛々しい顔になった。
「.....分かったわ!ジュエルちゃんは私が絶対に守り抜く!...一緒に行く?」
「.....行っても良いのですか?」
「もちろん!心配させたダグラスを一緒に一発小突いてやりましょう。」
普段の優しいセリーヌさんの顔では無く、そこには凛々しい冒険者の顔をしたセリーヌさんの笑顔があった。
「はい!行きます!!」
そう答える俺をセリーヌさんは力強く抱いてくれた。
ルナリスさんとルリシスちゃんの親子は馬車の準備をするから今日は帰って明日にまた来ると言い帰っていった。
俺とセリーヌさんはルナリスさん親子を見送った後、家の中に戻り旅の準備を始める。
とは言ってもオヤジ様達の居る街まで一週間位で到着するらしいし、途中の村や街もあるらしく野宿になるとしても1日位だろうとの事。
俺の方の準備と言えば自分の着替えを用意するぐらいか。
着替えなど必要そうな物を鞄に入れて用意を終え、セリーヌさんの家に行くと台所で携帯出来る食糧などを鞄に詰めているセリーヌさんがいた。
俺も荷造りを手伝い、荷造りが終わると[よし!後はあそこに行って旅に必要な物が無いか見に行きましょう!]と呟きセリーヌさんは俺の手を引きながら俺の家へと向かっていく。
どうやらセリーヌさんの目的の場所は書斎のようだ。
リーザの為にいつも少し開いている書斎のドアを開け中に入る。
リーザはいつもの通りお気に入りの出窓で寝ている。
セリーヌさんは床に敷いている絨毯を剥がし始めた。
床に何かあるのか?よく見てみると地下室が有りそうな扉が床にあった。
マジかよ!今まで全く気づかなかったぞ。地下室があったんだなー。
「ここはね、ジュエルちゃん。ダグラスの昔使っていた道具の倉庫なの。もしもの時には使えと言われてたから...扉をあけるわね。よいしょ!」
扉を開けセリーヌさんがゆっくりと地下室へ入って行く。
俺は中に入らずに覗き込んでるとほのかな明かりが地下室の中で灯った。
地下室の中に明かりの魔導具があるんだろうな。そう思いながら俺も地下室に入っていった。
明かりは着いているが仄かに暗い地下室に入ると、様々な物がキチンと整頓されて置かれてある。
中には使い込まれた鎧や剣などのオヤジ様が魔導具職人になる以前の持ち物であろう物もあった。
「流石はダグラスね。キチンと直ぐにでも使える様にしてる。」
そう呟きながらショートソードやナイフを奥から取り出してきた。
「あ、これは....」
何かに気付いたらしいセリーヌさんが持っていた刃物を入り口の階段付近に置きまた奥に戻ると一振りの剣を持ってくる。
その剣をセリーヌさんがゆっくりと抜くと刀身が鈍く光る銀色の剣だった。
「....やっぱり!シルバーソーンだ。ガスト・エーヴィヒはダグラスが持っていったようね...。よし!シルバーソーンも借りていこう!」
シルバーソーンと呼ばれる銀色の剣も一緒に抱えて地下室から出るセリーヌさんに俺も付いて出る。
床に抱えていた武器などを床に置き、地下室の扉を閉じたセリーヌさんがいきなり跳ね上がるような仕草をした後に俺の方を向いた。
「どうかしたのですか?」
俺がそう訪ねると俺を見つめながら少し考えている様子のセリーヌさんが「....いえ、何でもないわよ~。」と答えるがやはりまだ何かを考えている様子だった。
ふとセリーヌさんの視線が本棚に移る。
セリーヌさんの視線を辿るとどうやら本棚に置いてある青い羽根を見ているようだ。
本棚に近付き青い羽根を手に取り胸の辺りで羽根の軸を祈るように両手で握り込む仕草をした後、セリーヌさんは青い羽根を俺に手渡した。
「ジュエルちゃん、この羽根を持っていて。私はこの羽根をジュエルちゃんが持っていないといけない気がするの。」
真剣な顔でそう言うセリーヌさんに俺は「分かりました。」しか言えなかった。
まあ、この羽根があれば魔法が使えるから俺でも役に立つ事があるかもしれない。