一章 元オッサン異世界のヘブンに連れて行かれた様です。
今日の夕飯も旨かった。本当に良い嫁になりそうだぜセリーヌさん。
マジで早く手を出してくれねえかなオヤジ様
夕食の後片付けを手伝ったあと、床で満足そうな顔をして腹を晒してひっくり返っているリーザの腹を揉みながらそんな都合の良いことを考えていた。
「ジュエルちゃん、今日のお風呂はどうするの?」
エプロンを外しながらセリーヌさんが近付いてくる。
「お昼に水は張ったので魔導具での温度の調節をセリーヌさんにお願いしたいです。」
後数ヶ月で7歳だがまだまだ子供なので魔導具には触れてはいけないとオヤジ様から仰せつかっているのだ。
「ん~、じゃあそっちは明日使うとして今日は公衆浴場に行かない?」
公衆浴場か、銭湯みたいなものだろうか。そう言えばこの世界に来て家以外の風呂に入ったことがないな。一般家庭にはまだ風呂がある家は少ないって言ってたし公衆浴場があって当然か。興味はあるが嫌な予感がする....
「うーん、どうしましょう?」
そう言いながらリーザを見るが(聞くな!)と言う顔をする。そうだよね、風呂が嫌いだもんね。
「ジュエルちゃんが迷ってる様だけどもう決めちゃう!今日は私と公衆浴場にいくぞ~」
ドンと音をたて既に準備されているお風呂セットに俺の着替えの入った籠を目の前に置かれる。
そうですか...始めから俺に選択権は無かったんですね?セリーヌさん...
片手に着替えなどを入れた籠を持っているセリーヌさんに手を引かれながらセリーヌさんの家を共に出る。
リーザは番犬ならぬ番猫だ。まあ大概の者を退けそうな番猫だが。
セリーヌさんはルンルン気分の様でとても楽しそうだ。
公衆浴場がそんなに良いところなのか?
暫く手を繋いだまま歩いていると人の出入りがそこそこある建物の前に着いた。
「ここよ!さあ、入りましょうか。」
俺の手を引きながら入る場所は...当然の如く女湯の脱衣場だった。
大勢の裸の女性が眼前に広がるが俺の精神も今の体に段々と引き摺られているのだろう、何も感じない。
何も感じないどころか年相応の筈の平坦な自分の体が何故か恥ずかしくなってくる。
何だろう、男としてのプライドが砕け散って壊れていくような気がするな...いや、今は女の子だから正常なのか?
既に服を脱ぎ捨て全裸になっているセリーヌさんが考察中のために固まっている俺に「あれ?どうしたのジュエルちゃん?」と言いながら近づいてきて良い笑顔をしながら「わかった!脱がせてあげる♪」と言い、いきなり成す統べもなく俺の着ている服をひんむかれた。
何が分かったんですか?セリーヌさん...服をひんむかれた俺が固まっていると手を引き湯煙の方へ移動した。
.....湯煙の先にあったものは...この世のヘブンだった。いや普通に浴場なんですけどね。
洗い場に座り込み体を洗い始めるとセリーヌさんが俺の髪を手に取り洗ってくれ始めた。
「やっぱり、ジュエルちゃんの髪は艶があって綺麗よね~。」
「そうなのですか?最近邪魔に感じることが多いので髪を切って欲しいのですが...。そうだ!セリーヌさんが暇な時で良いので切ってくれませんか?」
俺の髪はだいぶ長くなっていて背中の中盤辺りまである。
だから切ってくれる様に頼んだのだがさっきまで誰も居なかった隣から声がする。
「駄目よ!ダメダメ。そんなに綺麗な髪、切っては絶対にダメ!」
声の聞こえる方へと視線を移すと隣に俺と同じくらいの女の子を連れた20歳前半位の女性が俺の髪を手にしながら言った。
「そうよ!綺麗な珍しい銀髪なのに切るのは勿体ないわよ!...まさかもうダグラスには切って欲しいって言っちゃったの?」
勢い良くセリーヌさんから聞かれるがそのまさかでオヤジ様にはもう言ってる。
「はい。とと様にも切って欲しいって言ったのですが、前髪は切ってもらったのですが後ろはまだ切らなくても良いだろうと言われてしまい少しすいてくれただけでした...」
「流石に女心に疎いダグラスでもジュエルちゃんの髪の価値には気付いてるのね、感心感心♪」
「えっ、この子ダグラスさんの所のジュエルちゃん?」
隣の奥様から恐怖を感じるほどの速度で顔を近付けられそう言われるが何故そんなに驚かれるのか良く分からん
「そう!この子がジュエルちゃん!」
そう言いながら何故か胸を張るセリーヌさん、うむ豊満な胸が揺れとる。
「なるほどね。この子がジュエルちゃんか、ダグラスさんが外にあまり出したくない理由が分かるわね...」
「そうなのよ~、でもダグラスが外に出したくないって言うのもありそうだけど、ジュエルちゃん自信がお家で本を読むのが好きだからね~。」
そう言われればあまり家から出たこと無いな。出ても魔法の練習で裏の林辺りにしか出なかったし、成る程俺はほとんど見ない珍獣扱いになってるのか。
「うわぁー、凄い白い肌でスベスベしてるー。うらやましいなー。」
俺の腕やら背中やらを撫でくり回している隣の奥様...流石にくすぐったいのですが...
暫く二人に遊ばれていたオレはようやくセリーヌさんと隣の奥様の襲撃から逃れられたので広い湯船に浸かりに行く。
ふぁわ~、生き返るぜ~。やっぱり風呂は最高の命の洗濯だ。
広い湯船に浸かりながら一人ご満悦になっていると先程まで若奥様の後ろに隠れて俺をチラチラ見ていた女の子が洗われ終わったらしくトコトコと湯船に近付いてきて湯に浸かる。
俺達の保護者は元々知り合いらしく時折此方を伺いながら自らの体を洗い、世間話に華を咲かせているようだ。
「お風呂はやっぱり気持ち良いですね~。」
俺が声をかけると俺の近くにいる肩までの長さで綺麗な栗色の髪をした女の子が少しおっかなびっくりしながら返してくれる。
「は、はい。ですね!」
うーん、緊張しているなー。見たところ同じくらいの歳っぽいのだが。
「私の名前はジュエルと言います。歳は6歳です、よろしくお願いしますね。」
「は、はい私はルリシスと言います。よ、よろしくです....あっ、私も6歳です!」
ほうほう、ルリシスちゃんか。少し気の弱そうな子だが良い子そうだな。
それにあと14年も経てば凄く別嬪になりそうなだな。
俺が男だったら光源氏計画を打ち立ててしまいそうだ。
徐々にお互いに会話を重ねてルリシスと親睦を深めていると保護者二人が体を洗い終わったらしく俺達の居る湯船に浸かる。
「あらあら、ルリシス。ジュエルちゃんと仲良しになったのねー。ジュエルちゃん、うちのルリシスを宜しくね、この子引っ込み思案だからなかなか同年代の友達が出来なかったのよ。私はルナリスよ、よろしくね!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「よく考えたらいつもジュエルちゃんはリーザと一緒にいるけど、ジュエルちゃんにとっても初めてのお友達じゃない?」
そういやそうだ。見事に引きこもってたから人間の友達がいなかった。リーザは友達と言うより家族だしな、猫だけど。
「はい。私にとっても初めてのお友達です!」
「へぇー、そうなんだ。そのリーザって子はお友達じゃないのかな?」
「はい!リーザは猫ですが私の家族です。」
「猫さんですか!?会ってみたい!」
ルリシスちゃんが子供特有の汚れ無き眼を輝かせながら呟いている。
「あらあら~、じゃあ明日家に来なさいよ。私も久し振りに腰を据えてルナリスと話をしたいし♪」
「じゃあ、明日はセリーヌさんの家に突撃しますか!」
うん、保護者同士で話が纏まったらしい。
俺達は明日の再会を約束しながらそれぞれの帰路につく。
今日は色々ありすぎて流石に疲れたなー。帰り着いたら即寝てしまいそうだ。
セリーヌさんに手を引かれ眠気と闘いながら歩いているのだった。