一章 元オッサン異世界で見た夢を猫神に相談する。
目覚めるとそこは日常の書斎だった。
あれは夢だったのか...?
ふと耳にしおり替わりにするつもりだった青い羽根を耳に挟んでだまま寝てしまったていたことに気づいた。
うーん、これのせいでみた夢か?指先で羽根の軸先を掴み、くるくる回しているとドアがノックされる。
「はい、どうぞ。」
「あ~、ジュエルちゃん。やっぱりここに居たのね!」
ドアを開き俺の姿を確認したセリーヌさんが俺の指先で持っている羽根に視線が行くと驚いた様な表情で少し動きが止まる。
「...ジュエルちゃん。その羽根...どこにあったの..?」
「本棚にありました。とと様が本のしおり替わりに使っている白い羽根を差し込んでいる瓶に一緒に刺さってましたよ?」
「...そう。...その羽根はダグラスの大切な物だから...。...そうだ!ジュエルちゃん、お昼だよ。本と羽根を元の場所に戻してお昼御飯を食べましょう!」
「はい!お昼御飯を食べましょう!!」
セリーヌさんの表情や喋り方が少し気になりながら本と羽根を元の場所に戻す。
俺が片付けているのを確認したセリーヌさんは「じゃあ、私の家の食卓に来てね~」と去っていく。
夢と現実の妙な共通点が気になった俺は一応神様であるリーザに聞いてみようと考える。
俺はヒソヒソと出窓で寝たふりをし薄く目を開いているリーザに「後でお話があります。」と話し掛ける。
(ああ、分かった。)
リーザが尻尾を軽く振って念話で返してきた。
俺とリーザは昼御飯を済ませ俺の部屋に戻り腰を据えて話す態勢になっている。
昼御飯の時、セリーヌさんに特別おかしな様子もなく普通に日常の会話しながら食べ終わった。
セリーヌさんは雑貨屋の仕事に戻ったが夕御飯にはまた来るようにと言われているのでそれまでは俺の部屋でリーザと相談が出来るだろう。
「それでリーザ、今日書斎でこのような夢を見たのです...」
青い羽根の事、書斎でみた夢の内容、俺が目覚めた後のセリーヌさんの反応、それらをリーザに聞いてもらう。そして....
「私と夢で見たドラゴンは何か関係があるのでしょうか?」
リーザに問いただしてみるとリーザは目を細めて少し天井を見上げた後の口を開く。
「.....おそらくは関係があるだろう。我もおかしいとは思っていたのだ。主神の手紙を読んだだろう?そもそもあの手紙に書いている内容は常軌を逸しているのだ。」
「あれだけの能力を魂に刻むのは人間の魂では無理だ。だとすれば強力な魂を持つ者に能力を刻み込み、お前の魂と合成させる。それならば可能だ。」
「あの手紙はエストワール様の冗談などでは無いのでしょうか?」
ゆっくりとリーザは首を振りさらに続ける。
「あの御方は書き付けた事に嘘は記さない。冗談の場合は訂正が必ず書かれている。それが無いと言うことは本当にやっている。」
「...リーザがそう言うなら間違いないでしょうね....。」
「基本的に主神はズレている。良かれと思いやる事がやられる側には斜め上過ぎる事がよくある.....」
あっ、リーザが遠い目をしてる。昔あった何かを思い出しているんだろうな。
エストワールは確かに嘘を付くようなタイプではない。しかし 斜め上か。俺にとって一番斜め上だったのは「ネトゲもどうにかしてみる」を実際にどうにかされたら今生の俺がネトゲの女キャラだったところか。
「それに魔法だ。普通、選定の義を迎えていなくても使えるはずなのだが魔力を練ることは出来るのに魔法を発現出来ない....。だがお前の魂の基礎部に竜の魂を使っているのならば話は別だ。」
「竜には人間に姿を変化させることが出来る個体がいるのだが、人間体ではブレスが使用できなくなるために竜言語魔法を使う。その時に竜は魔法を発現させる器官が必要なのだ。」
「青い羽根と言うのがジュエル、お前の魔法を発現させる器官なのかもしれない.....。....試してみるか.....。」
そう呟いたと思ったら俺を外に促すようにリーザがドアの前に移動し待っている。
これで魔法を使えたら確定だよな...そう思いながら俺の部屋のドアを開いた。
俺とリーザは家の近くにある広場の林の中に移動した。
きちんと間伐され程良く日光が地面を照らし艶やかな草の緑が少しまぶしく光を反射している。
万が一魔法が失敗しても被害が最小限に抑えられそうなのでいつも練習にはここを使っていた。
「魔法の中でもコントロールしやすい水魔法の初級を使ってみろ。」
「そうですね、やってみます!」
書斎から持ち出してきた青い羽根の軸を軽く左手で握りながら、突きだした右手にいつもの練習通りに魔力を集中させながら水のボールを想像する。
魔力が少し抜ける感覚がしたとき右の手のひらの傍に水のボールが出現した。
「確定だな.....とりあえず発現できる事がわかったから今作った水魔法を消しておこうか」
「はい、わかりました.....」
俺が今までいくら魔力を練っても魔法が使えなかったのは魔法を発現させる器官が足りなかったからか....
そらリーザも(何故魔力が練れるのに魔法が使えないのだ?)って頭を捻るよね。
だがエストワールの書いていた通り回復魔法だけは羽根が無い状態でも使えていた。
これについてのリーザの判断は回復魔法だけ人間の魂の方に刻んだのではと言う事だった。
リーザをヤモリからアメリカンショートヘアに変えたときに何故生成魔法が使えたのかを聞いたのだがどうやら俺の生成魔法と魔力を借りて発現事態はリーザが行った為に出来たのではと考察を話してくれた。
なるほどな、あの時は青い羽根の代わりにリーザが発現させる器官になったってことか。
「おそらく、主神は身体能力のリミッターと言うのも竜の魂の方に刻んでいるだろうな。そしてリミッターを外すにもその羽根が必要な筈だ。」
「そうですか....、取り敢えず一度部屋に戻りましょう。」
「そうだな。」
俺とリーザは何故か疲労感を覚えながら自分の部屋へと戻る。
戻る最中にリーザと目が合うがその目には俺に対しての若干の哀れみを感じる。
そんな目で見るなよリーザ...、よし...エストワールに会った時泣くまでアイツを殴るぞ!そう心に決める事にした。
俺達は部屋へと戻り、今後の事についての会議を始めた。
会議の結果は目立つ行動を控えようとの事になった。
俺としても普通の生活がしたいからな。
リーザのアシストもあるから大丈夫だろ。
取り敢えず、身体能力のリミッターの解除だけは本当に俺がマズイ状況の時まで使わない事にした。
一度試してどれくらいの力があるか確認した方が良いのだろうが、何が起こるか解ったもんじゃないのでそれもやらないことに決めている。
試すとすればエストワールに事の顛末を聞いた後、アイツが居るところで試した方がいいだろうとのアドバイスをリーザからいただいた。
よし!俺の中で今日の事は無かった事にしとこう。
まあ、普段の生活で何かあってもスーパーバイザーのリーザ様がいれば大概の事はどうにかなるだろうし。
普通に猫の姿に馴染みすぎていて忘れそうになるが一応神様だしね、あのアメショー。
会議が終わった頃には外は既に夕方になっていた。
夕飯の時間が近そうだからセリーヌさんの家に移動を開始する。
リーザは少し眠そうだが夕飯は食べるそうだ。
セリーヌさんにガッチリ胃袋を捕まれてるな俺とリーザは....。