序章 1 オッサン自爆する
眼を醒ますと俺は暗い空間に居た。
あぁ、そうか俺は死んだのか...
俺は暗い空間を見回しながら思い出していた。
何故この暗い空間に居るのかを。
俺は自動車整備工場を営んでいる。親から受け継いで俺が3代目という自動車整備屋としては結構古い方だ。
一応俺は社長で社員は俺の整備士の専門学校の時からの悪友を社員として雇っていて2人で経営している。
客はそこそこ居るのでなんとか経営はできている。
俺はその日、俺が最も愛していた車を運転していた。
もう20年落ちになる車だったがとても大好きな車だった。
古くなった為に一度登録を切り、一時抹消していたのだが我慢できずに再び登録し直したのだ。
この車を再登録する前にもハイパワースポーツ4WDセダンに乗っていたのだが俺にはただ速いだけで面白みを感じることが出来なかった。
そしてこのスポーツセダンの車検が近づいて来たときに再び乗ることにしたのだった。
「さー、今日の仕事も終わったぜー。」
工具を片付けながら今日は登録しなおした車で昔よく遊びに行っていた峠に久しぶりに行こうかと考えていたのだ。
「なんだ、峠にいくのか?」
「おう、そのつもりやね。」
社員がそわそわしてる俺に話しかけてくる。
「今日は雨が降りそうだから気をつけろよ、お前ももうおっさんだしな!!
「おっさん言うなや!...まあおっさんか。」
そんないつものやりとりを社員とした後に愛車のイグニッションキーを捻る。
セルモータが回った後すぐにエンジンが掛かる。
うん。絶好調だな!
俺はクラッチを踏み込んだ後1速に入れ走り始める。
あぁ、やっぱりこの車は最高だ!!
曲線を多用した流麗で美しいボディ、軽量かつハイパワーなエンジン、足回りは純正でもピロボールを多用したダブルウィッシュボーン。
俺はこの車の良いところも悪いところもすべて含めて好きだった。
最新のスポーツカーに較べると確かにパワーもトルクも無い。
ボディの色もこの車では不人気カラーだったシルバーストーンメタリックで友人からはオッサンシルバーとよく馬鹿にされた。
だが俺はこの色が好きなのだ。洗車も楽だし。
峠道に入った後も大人しく走る。
この車は死ぬまで持っておきたいから無茶な乗り方はしないと決めている。
山頂近くの駐車場に車を止め車外に出てから煙草に火をつける。
ふう、ここに来るのも久しぶりだな。
夜景を眺めながら煙草を吸っていると特徴的な直6エンジンの排気音が聞こえてくる。
俺の車を発見したようで横に止めてきた。
その車がドアを開け車の持ち主が俺の顔を確認すると手を挙げながら喋り掛けてくる。
「あれ?ひさしぶりっすね!て言うか車がまた前のオーディオマシンに変わってる・・・」
「うっさいわ、オーディオマシンで悪いか!」
「どう考えても前のスポーツセダンのが速いでしょ!あの車はその車と違って走りの方向でいじり倒してましたし!」
「お前にもいつか分かる日が来るよ、車は速さで乗るんじゃないってな!!
そいつは苦笑しながら
「そっすね!そう言えばまだあのゲームやってます?」
俺とそいつは久しぶりにあったので世間話と馬鹿話を始めた。
「今度またサバゲーに行きましょうよ!」
「おう!今度な!」
そう言った俺にそいつはジト目をしながら言う。
「絶対行く気が無いでしょう!分かりました!今度ネトゲの中のメールで予定を送っとくので見てくださいよ!!」
「えー、面倒くせえな!」
馬鹿話をしながら時計を見ると既にいい時間になっていた。
「じゃ、俺そろそろ帰るわ!」
「俺はまだここに居ますね、とりあえず一回走ってから帰ります!」
「おう!気をつけろよ!」
俺は愛車のエンジンを掛け走り始める。
アイツに合ったのも久しぶりだなーと峠を下りながら考えていると雨がぱらついてきた。
雨か...明日また洗車すっかな
そう思いながらカーブに差し掛かった時、出やがったんだタヌキが。
タヌキは道を横切っている途中で俺の方を見て固まる。
なんでお前ら動物は道路のど真ん中で止まるんだよ!
俺はブレーキを踏みながらハンドルを切る。
ブレーキペダルからABSが機能している証拠の振動がブレーキペダルから足に伝わる。
よし避けれるな!
ヒールアンドトゥでシフトダウンしながら思っているとタヌキが俺の避けてる方向に走ってきた。
なんでこっちに向かって走って来るんだよ!!
逆にハンドルを切るとリアが流れ始めた。
まじかよ!この車、いまクソタイヤだから流れだしたら止まらないぞ!
カウンターを当てるがグリップが回復する気配が無い。
やっちまったな。
タヌキはどうにか避けられたようだがガードレールの丁度切れ目のところに向かって滑っていく。
その先は鬱蒼と茂る林だ。
体に激しい衝撃を感じた後意識を失い気づくとこの暗い空間に俺は居た。
俺は起きた出来事を思い返し考える。
やっぱ死んでるなこれは...