お国訛り
グラスゴーに到着したコルガーが、ヨイクやユアンやヒリールと初めて顔を合わせた日の夜のこと。
深夜の鷲獅子亭のパブで、コルガーとユアンが杯を交わしています。
「え、グラスゴー生まれ?ユアンってスコットランド人なの?」
「ああ、十五歳までこの街に住んでた。メアリー広場の先に生家があって、母と妹が元気に雑貨屋をやってるよ」
「へええ。せっかく帰って来たんだから、今夜は実家に泊まればよかったのに。お母さんだって喜ぶだろ?」
「まさか。俺はここではお尋ね者だし、家族とももうほとんど縁が切れてるから、今さら帰っても何と言われて追い返されるやら」
「ふうん、そんなもんか。昼間に会ってた女の人は昔の友達?」
「ま、まあ、そんな感じだ」
「ヨイクに紹介もしてなかったけど、もしかして元恋人?!」
「こら、やめろ、これだからアイルランド人は」
「いいじゃん、いいじゃん、ユアンが振ったの?それとも振られたの?」
「アイルランド訛りがきつ過ぎて何を言ってるか分かりません」
「えー?うそー?オレ、訛ってるなんて言われたことないよ」
「アイルランドから出たの、初めてだからだろ?」
「そっかあああ、オレって訛ってるんだあ、ショックうう。ユアンはスコットランド人なのに、イングランド人ぽいしゃべり方だよね」
「グラスゴーを出てアメリカに渡った時、スコットランドの田舎者ってずいぶん馬鹿にされたから、何年もかけて必死で直したんだ。それに今はロンドンに住んでいるしな」
「訛りって直した方がいいのかなあ?今のところ、猊下たちと会話は成立してるし、不便には思わないんだけどな」
「ふふふ、心の底ではみんな、コルガーが何を言ってるか分からないと思っているかもしれないぞ」
「えーそんなのヤダー!でもさ、それを言ったら、ヒリールの英語もちょっと変わってない?」
「確かに。ヒベルニア訛りとでもいうのかな」
「ヨイクの英語もたまに変だよね」
「まあ、彼女にとっては母語じゃないからな」
「猊下の英語も時々ちょっとスコットランドっぽくない?」
「エディンバラに六十年も住んでいれば多少は訛るだろう」
「ようするに、みんなちょっと変なんだ。だからオレも気にしない」
「そうきたか」
「ユアンだって、べろべろに酔っ払ったらスコットランド訛りが出るんじゃないの?」
「出るもんか。やってみろ」
「ようし、じゃんじゃん飲ませよ!」
こうしてユアンは二日酔いになるほどコルガーに飲まされたのでした。
国際会議での公用語はフランス語で、ヨーロッパの貴族の教養としてもフランス語が重んじられていた時代でしたが、コルガーが英語しかしゃべれないため、登場人物たちはみんな英語で会話しているという設定でした。
ヨイクはサーメ語?・ノルウェー語・フランス語・英語がしゃべれるようです。
ユアンはフランス語が少し分かる程度。
ヒリールは英語とフランス語がペラペラです。ヒベルニアではその二か国語が公用語みたいです。(マキシムがフランス人だし)