エディンバラ観光
ヒベルニアから戻ったコルガーはローマへ留学しましたが、年末年始をギーヴと過ごすため、初めてエディンバラへやって来ました。
「--くさい」
エディンバラ市の立派な門の前で、コルガーは憮然とした表情で鼻を押さえた。隣に立つギーヴは静かに眉をひそめる。
「そんなにはっきり言う?市門をくぐったらもっと匂うよ。ちなみに夏場はもっともっと酷いんだから」
「エディンバラは一マイル先からも匂うって、つまりこういうことか。よくこんなところに住めますね」
「俺も最初に来た時はそう思ったけど、慣れって恐ろしいよ。さ、こっちだよ」
「うわー背の高い建物がいっぱい」
「この狭い街に人口が爆発的に増えていってるから、住居がどんどん高層化したのさ。そして、俺たちが歩いているこの道の下にも街が広がっているんだよ」
「地下に、街が?」
「そう。お金のある人は高層階に家を建てられるけど、貧しい人たちは暗い地下深くで暮らしてる。汚水や汚物が流れ込むからとても不衛生で、ペストの時代には病に侵された住人もろとも埋められてしまった地下街もあったんだよ」
「ひどい話。エディンバラ教皇のお膝元でそんなことが行われていいんですか?」
「もちろん、よくない。だから今、街の北側に新しい街を作る計画が進んでるんだ。北の湖に橋をかけて、その対岸に洗練された文化的な新市街を作る計画がね」
「………新市街」
「ヒベルニアから帰ってきた時だったから、今年の始め頃かな、コンペで何とかっていう若い建築家の案が採用されることになって」
「それ、聞いたことあるかも。クレイグって、二十代の建築家じゃないですか?」
「そんな名だったかも。あ、ひょっとして、ライバル意識?そんなに気にしなくても、君より一回り以上も年上の男だよ?」
「………べ、べつにっ、オレは都市計画には興味ありませんから」
「ふーん、あ、この通りがロイヤルマイルだよ。坂道を上っていくとエディンバラ城と聖ピーター大聖堂が、下っていくとホリルード宮殿や王侯貴族たちの狩場があるんだ」
「あそこに見えるのがお城ですか?」
「そうそう。その裏側に俺の住まいがあるんだ。城を抜けて行こうね、近道だから」
「え、城、通っていいんですか?」
「平気平気。あ、あの店に寄るよ。アップルパイが絶品なんだ。君にも食べさせたい」
「アップルパイ………」
「ん?どうかした?」
「………これ、昨日、船の厨房を借りて作ったんです」
「もしかしてアップルパイ?君が作ってくれたの?」
「ヨイクに猊下の好物だって聞いてたから。初めて作ったのであんまり上手にできなかった、っていうか少し焦げてるし、でも、できれば猊下にはこっちを食べてほしい、です」
「………ありがとう」
「わ、あ、な、何を」
「いいじゃない、手をつないで歩くぐらい」
「いや、でも、あの」
「だって嬉しいんだ。それに、俺と君の仲でしょう」
「………」
「二人きりなったらキスしよう。俺の部屋の窓から見えるエディンバラの景色は最高なんだよ。夕焼けに赤く染まる街を眺めて、星空を眺めて」
「………はい」
「あ、そろそろ鐘楼の鐘が鳴るよ、3・2・1………」
荘厳な音色の鐘が鳴り響く中、二人は手をつないでのんびりとロイヤルマイルの坂道を上っていった。
あ、甘い・・・。




