ギーヴの宿題 ~教皇は何語を話す?~
どこかにアップしたような気もするのですが・・・。
ウイスキー修道院を出発したコルガーとギーヴが街道の休憩所でお弁当を広げています。
「そういえば、猊下ってフランス人なんですよね?英語ペラペラじゃないですか」
「そりゃあ六十年もエディンバラに住んでるからねえ。それにアンジェラだって生まれはフランスだけど、今じゃすっかりアイルランドに馴染んでるじゃない」
「そっか」
「俺や彼女は最初にラテン語を習得したんだよ。聖典を読んだり祈りの言葉を唱えるために」
「はあ、ラテン語」
「エディンバラに移ってから英語を覚えて、それからイタリア語、ドイツ語、ポルトガル語、スペイン語、アラビア語……」
「ちょ、ちょっと待って下さい。エディンバラの塔に幽閉されて、どこにも行けないのに、そんなに言葉を覚えてどうするんですか?」
「俺は全国に学者仲間がいるからさ、彼らが会いに来てくれた時に色々話したいじゃない」
「はあ」
「言葉というものはとても大切なんだよ、コルガー」
「というと?」
「相手の言葉を覚え、声に出して使うということは、相手に歩みよるということだ。それは相手と分かり合うための第一歩になるんだよ」
「はあ」
「君、真面目に聞いてないでしょう。じゃあ君に問題です」
「え!」
「現エディンバラ教皇ジョン一世は公の場で何語を話すでしょうか?」
「ええっ?!何語だろう、教皇だから、やっぱりラテン語かなあ?」
「ちなみにジョン一世はケルン出身」
「え?じゃあドイツ語?」
「むかしむかし、教会の本拠地はバチカンにありました」
「じゃあイタリア語かな?」
「でも今はスコットランドにあるよねえ」
「じゃあ英語か!」
「国際会議で使われる言語はフランス語だよ」
「じゃあフランス語!フランス語で!」
「君、真剣に考えてないでしょう」
「猊下こそ、オレを惑わしまくって楽しんでるじゃないですか!」
「あ、バレた?」
「で、正解は?」
「あのね、コルガー。ヨーロッパ全域に膨大な数の信者を持つエディンバラ教会の頂点である教皇が公の場で何語を話すかということはとてもとても重要な問題なんだよ」
「分かってますって。それより答えは何なんですか」
「いいや、分かってないね。これは宿題にします。自分の頭でよおく考えなさい」
「え?!」
「さて、そろそろ行こうか。駅馬車が出発しちゃうよ」
「うわああ、いったい何語で話してるんだーーっ?!!」
(現ローマ法王ベネディクト十六世(ドイツ系)って何語で話してるんだろう?という私の素朴な疑問をこの世界バージョンにしてみました(笑)答えはラテン語。バチカンの公用語だそうです)