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8話

 

 その後も順調に迷宮を攻略していったが、元の階層まであと二階層ほどというところで問題は起こった。

 

 「ねぇカイ、これはどういうことかしら」

 

 ひきつった笑みを浮かべながらフィナが声を震わせる。

 目の前には大量に蠢く透明なゲル状のモンスター。

 引き返そうと後ろを振り向いても瞬く間に壁から似たようなモンスターが染み出してきて、辺り一面不気味なゼリーのようなものに囲まれてしまっている。 

  

 「どういうことかと言われてもな……」

 

 返答に困るがカイもフィナと同じ事を呟きたい気持ちだった。

 あちこちで粘液状の生物が粘り着くような音を発しながら脈打っている様子は見ていて気分のいい物ではない。

 男の自分ですら結構な不快感を覚えているわけだしフィナからしてみれば相当気持ち悪い光景だろう。

 

 『どうやらお相手さんはよっぽどあなた達を外に出したくないみたいね』

 

 メアの言葉に二人はさらにげんなりとした気持ちになる

 

 「全く私たちになんの恨みがあるって言うのよ……。仕方ない、こいつら全員焼き払うからカイは時間をかせいでくれる?」

 

 そう言うと有無を言わさず精霊術を行使する準備にかかりはじめた。

 

 「ここ数日で何度か思ったがお前ってかなり強引な性格してるよな……」

 

 文句を言いつつもカイは槍を構えて襲いかかってくるモンスターの相手をする。

 だが相手の身体を切り裂いてもすぐに再生してしまい一向に数が減らない。

 

 「物理攻撃はほとんど聞かない感じだな……。仕方ない、やるぞメア」

 

 槍での攻撃はキリがないと判断したカイはメアの力を槍に纏わせモンスターの群れに突っ込んだ。


 「食い尽くせ」

  

 カイの槍には先ほどタイタン相手にメアが放った物と同じ黒い霞が付与されている。

 モンスターがその霞に触れると触れた場所がどんどん消失していく。

 相変わらずどんなに斬っても再生はするが、霞に触れた部分は戻らないので徐々にその体積を減らしていった。

 

 「一応これならダメージは通るみたいだな。効率悪いにも程があるが」

 

 うんざりする量が残ってるとはいえ自分の役割はあくまで時間かせぎ、フィナに攻撃が行かないようにモンスターを牽制し続ける。

 

 「おつかれさま、用意できたわよ」

 

 待ち望んだ声にフィナの方を振り返ると彼女の大剣が上層でタイタンを屠ったときよりも数倍眩く輝いていた。

 

 「強引に切り抜けるわよ!」

 

 そう言うと光り輝く剣を頭上にかざし、一気に振り下ろす。

 砲撃を打ったかのような轟音とともに目の前にいるモンスターを消し炭にする。

 さすがに再生能力も追いつかなかったのか光が収まった後にはゲル状のモンスターは跡形も無くその姿を消していた。

 

 「さすがにこれやると疲れるわね……」

 

 深く息を吸って身体に新鮮な空気を取り入れる。

 大技を使ったため少し休憩したいが、後ろにはまだモンスターが残っているので急いで群れから距離をとった。

 

 「さすが学園最強、やる事が派手だな」

 

 走りながらカイがフィナを褒める。

 

 「あなたに学園最強なんて言われても嫌みにしか聞こえないわよ!」

 

 後ろからカイをひっぱたきたい衝動に駆られるがそんな場合ではないのでなんとか堪える。

 幸い大量にいたモンスター達は移動速度は対して早くない。

 道さえ切り開いてしまえば逃げるのは簡単だった。

 

 「はぁ……はぁ……。なんとか逃げ切ったわね」

 

 後ろを確認して安全を確保した所でフィナが道ばたに座り込む。

 

 「さすがにキツいか……。ちょっと休憩させて」

 

 「あぁ、周りにモンスターはいないみたいだしここで少し休んでくか。なんか出てきても俺がなんとかするから安心しとけ」

 

 彼女に比べればまだ大分余裕があるカイが辺りを警戒しながら休息をとることにした。

 

 「他の皆は大丈夫かしらね」

 

 フィナがふとそんな事を呟く。

 

 セーフティエリアまで後少しとはいえ最後まで見届けたわけではない。

 もしまたタイタンに出会ってしまったら全滅していてもおかしくはないと思うとさすがに不安だった。

 

 「いまは大丈夫だと信じるしかないな。皆クラスの中でも結構な腕だし何かあったとしてもそう簡単ににはやられないだろ」

 

 カイが事も無げに言ってのける様子についフィナから笑いがこぼれる。

 

 「こんな状況だってのに冷静ね。長年メアさんの事を隠し続けてきたって聞いたときも思ったけど随分精神力あるわね」

 

 いくら強力な力を持ってるとはいえこんな状況で普段通り振る舞うのはまだ自分たちの年では難しいはずだ。 

 実際フィナですら表には出さないが精神的に参っている。

 

 「どうにもならないことを気に病んでもしかたないからな。それにメアが隣にいるってだけで割と安心できるんだよ」

 

 カイにとっては物心ついた頃から共に時をすごしているメアだ。

 彼女がそばにいるというだけで彼にとっては心の支えになっているらしい。

 

 『こうさらっと言われると普通に照れるわね……』

 

 姿は見えないが少しくぐもった声からメアが結構本気で照れてる事がわかる。

 

 「二人とも仲いいのね。精霊と人は心を通わせてこそ力を得られるって言うけど本当理想の関係って感じだわ」

 

 二人の微笑ましいやりとりについフィナも笑みを零してしまう。

 

 「それにしてもメアさんって本当最初のイメージと全然違ってすごく可愛いらしい方なのね……。世界を滅ぼした精霊なんて言われてたからどんな怖い精霊なんだろうかと思っていたのに」

 

 こうして普通に照れている様子を見ると容姿相応の少女に思える。

 最初に思っていた恐ろしいイメージとはあまりにも似つかなく大きなギャップを感じてしまう。

 

 『世界を滅ぼしたなんて言っても私は所詮最後の引き金を弾いただけだからね』

 

 その言葉にフィナは少し含みのある印象を受けたが、メアもあまり踏み込んで欲しくなさそうな雰囲気を醸し出しているのでそれ以上は追求しない。

 

 「さ、そろそろ行けるか?もっとしっかり休ませてやりたいがあまりながくとどまってたくないんでな」

 

 息も落ち着いたしさっき大技を使った疲れも大分抜けてきている。

 この調子なら問題ないかとフィナも頷き再び上層を目指して歩き始めた。

 


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