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7話

 最下層に存在するセーフティルームの中、四組の生徒達は皆浮かない表情で待機していた。

 その中でも特に暗い顔をしている者達がいる。

 フィナとカイの班のメンバーとこのクラスの引率者であるアニウスだ。

 

 「先生、ここでずっと待ってるしか無いんですか?」

 

 いてもたってもいられない様子でリイナがアニウスに詰め寄る。

 少しの間とはいえ命を預けた仲間が、それも自分たちの目の前でいなくなったのだから彼女としても気が気で無かった。 


 「助けにいきたいのはやまやまですが今ここからでるのは自殺行為です。学園側から救援部隊が向かってますのでそちらに任せるしか無いでしょう」

 

 淡々とリイナを諭すが、アニウスも現状に納得しているわけではなさそうだ。

 その証拠に表情には苦々しいものが浮かんでいる。

 

 とはいえアニウスが言っている事はただしく、ボスクラスのモンスターが徘徊している迷宮に自分たちが出て行った所で、何も出来ない事はリイナもよく理解していた。

 他のメンバーもそれがわかっているためもどかしい思いを抱えながらもじっと待っているのだ。

 

 「心配なのはわかりますが待つしかありません。今の迷宮は私たちがよく知る場所とはまるで違います。下手に動けばあなた達も命を落としてしまう」

 

 生徒たちに、そして自分に言い聞かせるようにアニウスが言葉を放つ。

 

 「それにあのフィナさんです。彼女は私たち教員に匹敵する力を備えていますし、自力で戻ってくる事は難しくとも救助がくるまで持ち堪えるくらいはきっとできるでしょう」

 

 そう言うと不安を払うようにいつもの穏やかな笑顔をリイナに向ける。

 リイナも胸中の不安が払拭されたわけではないが、アニウスの言葉にそれいじょう言い縋ることなく引き下がった。

 

 「フィナだけならともかくカイの野郎もいるんだろ?あの足手まといがいるんじゃあいつだって無事に済むとは思えねぇな」

 

 だがそこで話しを聞いていたらしいグリューが口を挟む。

 こんな状況になってまでカイを貶めるような発言をする彼にリイナは怒りを露にする。

 

 「ふさげないで!こんな時になってまであなたは何を言ってるの!?」

 

 だがグリューはリイナの言葉にも動じる事無く、苦々しい表情をしながら言い返す。

 

 「本当の事だろ?だから力の無い奴は迷宮にくるべきじゃないんだ」

 

 思わず殴り掛かろうとしたリイナだったが、その口調に一瞬の戸惑いが生じた。

 その隙にウッドに腕を掴まれ、引き戻される。

 

 「やめろリイナ、いまここで喧嘩してもしかたないだろう。グリューももう少し口は慎め」

 

 たしなめるように言うウッドに、一瞬だけにらみをきかせるとグリューは口を閉じた。

 あたりに微妙な空気が蔓延するが、それも少ししたらセーフティエリアに閉じ込められている不安の方が勝り悪い意味で払拭される。

 

 (このままじゃまずいわ……。早く救援が来てくれないと)

 

 徐々に増していく嫌な空気にどうしたものかとアニウスは頭を悩ませるが、今はどうする事も出来ない。

 これ以上の問題が起こらない事を祈りつつ、学園からの救援を待ちつづけた。


 

 時折現れるモンスターをフィナとカイが切り倒しつつ、今の所は問題なく先に進んでいた。

 

 「さすがに下の階層となるとゴブリンみたいな雑魚はいないわね。まぁ私たちの敵じゃないけど」

 

 目の前に飛び出してきた巨大な蛇を両断しフィナが呟く。

 本来ならモンスターが使う擬似的な精霊術、魔術を使ってくる強敵なのだが相手に先手を取られる前に倒してしまっているため大した脅威にもならない。

 

 「俺とフィナが全力出してるわけだしこの階層くらいならそんなに問題ないだろ」

 

 血気盛んなフィナに先頭は任せ、カイはフィナが討ち漏らしたモンスターを淡々と狩っていく。

 ちなみに精霊顕現はかなりの精神力を使うので今はメアは姿を消していた。

 とはいえ普段封じているメアの力は解放されており、問題なく精霊術をつかうことができる。

 

 『そうやって気を抜いてると足下すくわれるわよ』

 

 快調にすすんでいるため、少し浮かれ気味な二人にメアが注意する。

 姿は消していても意思を伝える事は出来るので、メアは現在二人のガイド役をしていた。

 

 「わかってるよ。とりあえずいまんとここの階層は最初のあいつら除けば異常はないんだよな?」

 

 カイの質問にメアが頷く。

 

 『えぇ少なくとも今の所は大丈夫』

 

 「メアさんはここの迷宮の構造とかって把握してるんですか?」

 

 淀みなく答えるメアにフィナが疑問をなげかける。

 

 『最近まで寝てたせいで中の構造まではわからないわ。でも大体どれくらいの階層にどれくらいのモンスターが発生するかとかはわかるわよ。この迷宮の機構を作ったのは私だしね』

 

 突然のメアの爆弾発言にフィナが今日一番の驚きを見せた。

 すでに自分の想像の範囲を超える事が何度も起こっているが、さすがにこれは予想外にも程がある。

 

 「え!?どういうことですか!?……やっぱり、人間を滅ぼそうとして?」

 

 迷宮と言えば人間の生活に恵みを与えている反面、命を脅かす危険な存在でもある。

 メアにまつわる話から考えても害意を持って作ったのかと邪推してしまうのも無理は無い 

 

 『いいえ、むしろ逆よ。この迷宮こそがベールの心臓、空中浮遊都市が作られた本当の理由なのだから』

 

 だがメアの口から放たれたのはまたもや予想の正反対の言葉だった。

 

 「メアの存在まで知られちまったし、いっそちゃんと説明してやったらどうだ?俺もそろそろ事情を知ってる奴が欲しいと思ってた所だし」

 

 カイの言葉に少し考え込むようなそぶりをみせるが、話す決心がついたのかメアがゆっくりと口を開く。

 

 『そうね、カイが良いと言うなら話しておきましょうか』

 

 ごくりと唾を飲み込みフィナが真剣にメアの話しを聞く。

 これから語られるのは恐らく一般には知られていない裏の事情だろうし、フィナの好奇心も大きく刺激されていた。

 

 『かつて地上が戦争の余波で大規模な魔力汚染を引き起こし人が住めなくなったと言う事は知っているわね?』

 

 「はい。それでこの浮遊都市をレイ様が建設し人類と精霊はこの土地に住む場所を移したんですよね」

 

 フィナの言葉に少し寂しそうな声色でメアが答える。

 

 『……えぇ、そう言う事になっているわね。大筋はその通りよ、でもベールにはもっと別の役割があるの。この大地をどうやって支えているのか気になったことはない?』

 

 「え、それはレイ様の精霊力で浮いてるのでは?その代償として眠りについたと聞いてますけど」

 

 フィナの言葉をメアは静かに否定した。

 

 『確かにあの子……レイの精霊としての力は破格よ。でもこれだけの広大な土地を支える力は持ってないわ。この大地を支える原動力、それはね、地上を覆い尽くしている汚染された高濃度の魔力なのよ』

 

 普通なら到底信じられる話ではないが、実際に強力な力を持つ精霊としてメアがフィナの目の前にいるので事実なのだと納得するしかない。

 

 「どうしようカイ……。私の常識が音をたてて崩壊していくわ……」

 

 次々と明かされる衝撃的な事実に軽い頭痛のような物を感じ、フィナは軽く額をおさえる。

 

 「俺も初めて聞いたときはにたような感じだったからな……。その気持ちはよくわかる」

 

 カイも昔の記憶を思い出しフィナに軽く同情する。

 

 『この辺の事実が公になると都合の悪い人達がいるのよね。だから隠蔽されてるみたい。それで迷宮はその汚染された魔力を浄化するシステムなの』

 

 「浄化?」

 

 聞き返すフィナにメアが頷く。

 

 『高濃度の魔力は人体や精霊に大きな悪影響を及ぼす。だから地表から吸収した魔力を迷宮を通す事で濾過しているの。その過程で生まれるのが魔物というわけね』

 

 つまりメアの言う通りなら迷宮というのは巨大な濾過装置だということだ。

 

 「じゃあもしかして迷宮の役割と言うのは……」

 

 さすがにここまで話を聞けばフィナにもメアの言おうとしている事を想像できた。

 

 『地表にまき散らされた魔力の浄化、このベールは空を飛びながらゆっくりと時間をかけ地上を再び人の住める土地にする事こそが本来の役割なの』

 

 あまりにも壮大すぎる話だが、確かに理にはかなっている。

 

 「スケールが大きすぎて頭がついていかない……。けどメアさんがある程度迷宮内を把握している理由はわかりました」

 

 『地下に行くほど高濃度の魔力から生成されたモンスターがいるし、上層はほとんど濾過されて濃度の薄い魔力から生成されたモンスターがいるわ。だからこの辺の深さならそんなに強力なモンスターが出現するはずはないの』

 

 でもね、とメアが付け加える。

 

 『もし、人為的にこの迷宮というシステムに干渉する事が出来れば、高濃度の魔力を上層に送り込む事も出来る。もそんなことができるなら……狙った場所に高位のモンスターを送り込むことができるかもしれないわね』

 

 つまりメアはこの状況が誰かによって引き起こされた可能性があると言いたいらしい。

 

 「でもそんなことできるんですか?」

 

 だが迷宮に人の手を加えられるなんて話をフィナは聞いた事が無い。

 

 『少なくとも今までは不可能だったはずよ。……ただ、やってのけそうな連中に心当たりがあるから困るのよね』

 

 どうやらメアはある程度事態に推測がついているようだ。

 

 「じゃあその犯人を取っ捕まえないとね!」

 

 こんな目にあわされて鬱憤もたまっていたのかフィナが闘志を燃やす。

 

 「いや、危険だから学園に任せとけ。メアに心当たりがあるってことはあの学園長もある程度予測はついてるんだろ」

 

 『まぁ彼女なら恐らく大体の把握はできてるでしょうね』

 

 カイに諭され少し不満そうな顔をフィナがするがそれ以上の反論はしない。

 言ってはみたものの迷宮に干渉できるほどの相手だ、自分一人では太刀打ちできないことはちゃんと弁えていた。

 

 「そういえば学園長の名前がでてきたけどあの人はメアさんやカイの事は知ってるの?」

 

 「いや、知らないはずだ。俺とメアの事を知ってるのは家族とお前だけだな」


 本当にそんなんでよく学園生活を送ってきた物だ。

 確かに皆に知れ渡ってしまったら大事になるのは間違いない。とはいえそのせいで五年間も虐げられてきたのだからそれを我慢しつづけた精神力は相当な物だろう。

 

 「本当、色々敵わないわね……」

 

 思わずため息と共に愚痴がこぼれる。

 この数時間のあいだにフィナの中にあった自信は色々と打ち砕かれていた。

 

 「ん?どうかしたか?」

 

 そんな様子をみたカイが心配そうに声を掛けるが、フィナにも意地があるのでなんでもないと首を振る。

 

 「大丈夫よ。さあ、先に進みましょ。上にいる皆も心配だしね」

 

 とはいえ負けず嫌いのフィナは心の底でいつか目にもの見せてやると誓い、再び先頭を歩きはじめた。

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