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5話

 

 「いったたた……」

 

 フィナが強く打った腰をさすりながら頭を振る。

 どうやら落下の衝撃で一瞬意識を失っていたようだ。

 

 「大丈夫か?」

 

 突然声をかけられ隣を見るとカイが座り込んだままこちらを心配そうに見ていた。

 

 「あなたも落ちてきたの……。とりあえず大丈夫よ」

 

 「ならよかった。大分落ちてきたみたいだからこれは戻るのに骨が折れるな」

 

 言われて天井を確認するが、落ちてきた穴は既に塞がっていてどれくらい落ちたのか確認できない。

 

 「どれくらい落ちてきたのかわかる?」

 

 「大体五階層くらいだな」

 

 カイの答えにフィナは頭を抱える。

 この深度だとモンスターの強さも相当あがっているはずだ。

 道もわからないし昨日初めて迷宮に入ったばっかりの初心者が生還するのは絶望的だろう。

 

 「参ったわ……。それにしてもいきなり床に穴があいたりボスクラスが出現したり何が起こっているのかしら」

 

 少なくともこんな異常事態が起こったことなんて聞いたためしがない。

 考えたくはないが迷宮全体に何かしらの問題が起きている可能性も考慮しなくてはならないだろう。

 

 「ま、なんとかして上に戻ろう。皆も心配だしな」

 

 「あのね……。大体私だけならともかくあなたがいるから余計動きづらくなってるじゃない」

 

 カイの能天気っぷりにフィナはついため息をついてしまう。

 

 「俺の事は気にすんな、こんな状況だし加減もしてられないからな。っと、それよりもモンスター共がきたようだぞ」

 

 その言葉にフィナが感覚を研ぎすませて探知をかけると、強力な力をもったモンスターが自分たちに向かって数体近づいてきている事がわかった。

 今自分たちがいる場所は少し開けた広場なのだが、ここから通じる三本の道すべてに反応がある。

 

 「嘘でしょ……」

 

 自分の探知に間違いが無ければ、つい先ほど倒したタイタンクラスのモンスターが三体同時に向かってきたいた。

 

 「……さすがにここまでくると事故じゃすまねえなこれは。フィナ、さっき精霊顕現したばっかりだしお前は少し休んでろ」

 

 カイが冷静に槍をかまえ、近づいてくる敵を迎え撃とうとする。

 

 「ちょっとあなた今の状況がわかってるの!?むかってきてるのは間違いなくボスクラス!私が全力を出しても勝てるか怪しいのに!」

 

 フィナの目にはカイの対応は現状を理解していないとしかみえなかった。

 普通の神経をしていれば今の状況では発狂していてもおかしくない。

 それに加えてカイは戦力としてもフィナに比べて大きく差がある。

 とてもじゃないがカイの発言は正気とは思えなかった。

 

 「心配すんな、さっきもいったろ加減はしないって。……ただ、これから俺がする事は絶対に人に漏らすなよ」

 

 有無を言わせないカイの態度にフィナは思わず口を噤んでしまう。

 そうこうしているうちに、広間につながる三本の道から同時にタイタンが姿を現す。

 

 「さて、久々に全力で行くとしますか」

 

 固唾をのんで見守るフィナを背に、カイが大きく手にした槍を振るう。

 

 「精霊顕現」

 

 そしてずっと使えないとされていた精霊術、それも最高位の術式を簡単に行使する。

 

 「いくぜメア」

 

 突如、いままで全く感じる事が出来なかった強い力がカイから溢れ出した。

 その力はくすんだ光となって徐々に形を成していき、少女の姿を形どっていく。

 

 大鎌を携え、黒いドレスに身を包んで現れた彼女に、フィナは心当たりがあった。

 かつて地上に存在したという三柱神、彼女達は精霊でありながら人の姿をしていたと伝えられていたからだ。

 

 「私が喚びだされるのは本当に久しぶりね」

 

 落ち着いた声色で少女が口を開いた。

 

 「さすがにこうなるとメアの力を借りないとどうしようもないからな。よろしく頼むぜ」

 

 言いながらカイは精霊術を行使し、自分の身体に強化の術をかけていく。

 

 「まぁこの状況だしね。とりあえずさっさとあいつらを片付けるわよ」

 

 その言葉を皮切りに、二人同時にタイタンに向かって駆け出した。

 

 「メア、後ろの二体任せられるか?」

 

 「余裕」

 

 一瞬だけ言葉を交わし、互いの目標を定める。

 

 カイが即座にタイタンの懐に潜り込み、相手が行動を始める前に手にした大斧を大きく上に弾いた。

 意表を突かれたタイタンは斧を握った腕ごと振り上げてしまい、脇腹が無防備に晒される。

 

 「術式解放、貫け」

 

 精霊術を纏った槍をタイタンの腹めがけて全力で投擲し、さらに連続で精霊術を行使した。

 

 「そのまま弾けろ!」

 

 腹に突き刺さった槍の穂先にこめられた力が、爆発的にふくれあがり四散する。

 そのまま巨人の腹を吹き飛ばし大きな風穴をあけた。

 

 「図体でかいだけじゃ大した事は無いな」

 

 爆発と共に宙に舞った槍を受け止め一瞬で勝負を決めたカイが後ろ振り向くと、ちょうどメアが二体のタイタンにとどめを刺すところだった。

 

 


 目の前の光景をフィナは呆然と眺めていた。

 カイがタイタンを苦もせず倒した事にも驚いたが、それ以上に目の前の少女の圧倒的な力はそれを遥かに超えている。

 

 少女の背の三倍程もある巨人二体をまるで子供のように弄ぶ。

 振るわれる斧を軽く撫でるだけで軌道を逸らし、突進してくる巨体を軽く地面を蹴ってよけ、壁に激突させる。

 メアに良いように遊ばれている巨人達は怒り狂って猛攻をしかけるが全く攻撃があたらない。

 

 「運動にもならないわね。拍子抜けだわ」

 

 タイタンとの遊びに飽きたとでもいうように呟き、軽く手を振るう。

 少女の手には黒い瘴気のような物が纏わり付いており、振るった拍子に礫のように巨人へと放たれた。

 そして瘴気は何の抵抗も無く触れた巨人の身体を消し飛ばしていく。

 一体目のタイタンの頭が跡形も無く消え、抵抗する事も出来ず巨体が地面に転がる。

 残されたタイタンも一瞬倒れた仲間に気を引かれ、メアを見失ってしまった。

 

 「こっちよ」

 

 きょろきょろと辺りを見回しているタイタンの後ろで、大釜を振りかぶったメアが冷たく言い放つ。

 声に反応した巨人が振り向くより早く草を刈るように鎌を振るい巨人の首を刎ねた。

音も立てずにメアが地に足をつけると同時に、その命を絶たれたタイタンが崩れ落ちる。

 

 「そっちも終わったようね」

 

 戦いの後だと言う事を感じさせない優雅な仕草でカイの方を振り向き、向こうも勝負がついた事を確認した。

 

 「……はかい、しん」

 

 その様子を見ていたフィナが惚けたようにつぶやく。

 いまだに信じられないが、目の前で実際にその圧倒的な力を見せつけられるともう否定する事が出来ない。

 

 「その呼ばれ方はあまり好きではないの。私の名前はメア、よろしくね」

 


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