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4話

 迷宮探索二日目、今日は午前中は昨日同様ゴブリン討伐で、午後は引率教員であるアニウスが迷宮内に存在するボスクラスとの実戦を見せるという流れになっていた。

 

 「それでは昼までに昨日と同じノルマをこなしてください。午後は私が手本となって迷宮内でも強力な敵であるボスクラスとの戦い方を教えます。では皆さん頑張ってください」

 

 アニウスの号令と共に二日目の訓練が始まる。

 流れとしては昨日と同じなので、特に気張る事もなくカイ達は昨日同様ゴブリン達を狩っていく。

 

 「それにしても張り合い無いわねー。いい加減ゴブリン狩りも飽きてきたわ」

 

 目の前のゴブリンの首を切り落としながらフィナがぼやく。

 もはや他のメンバーが攻撃を加えるまでもなく、ゴブリンが姿を現した瞬間勝負が決する有様だ。

 

 「フィナさん強すぎ……」

 

 あまりにも一方的な戦闘にウッドがひきつった笑いを浮かべる。

 カイも含め他のメンバーも大体にたような表情をしていた。

 

 「っと、確かにこれじゃあ皆の訓練にならないわね。私はいったん休憩するから残りのゴブリンはよろしく」

 

 いったん戦線を離脱する事を表明するフィナ。

 ようやく出番がまわってきたかと各々自分の武器を構える。

 

 「ほら、早速来たみたいよがんばって……え?」

 

 索敵を続けていたフィナが皆に新たな敵が来た事を告げた。

 しかし、途中でその顔が見た事も無いくらい青くなる。

 

 「……ッ!全員戦闘準備!急いでッ!」

 

 フィナが鬼気迫る表情でメンバー全員に指示を飛ばす。

 皆も戸惑いながらも、言われた通り戦闘態勢をとった。

 そして迷宮の闇の奥から出てきたのは今までのゴブリンとは雰囲気も迫力もまるで違う高い天井に頭がつくかという大きさを誇る大斧を持った巨人だった。

 

 「嘘でしょ……。こんな浅い階層にこいつが現れるなんて」

 

 先ほどまで余裕満々だったフィナが脂汗を浮かせて巨人を見上げる。

 

 「タイタン……」

 

 巨人の姿を確認したリイナが呆然と呟いた。

 タイタン、最もポピュラーなボスクラスとして知られるそれは本来ならばここからさらにいくつか下の階層に出現すると言われているモンスターだ。

 今日アニウスの引率で倒しにいく予定だったモンスターであり、決して学生である自分たちが相手に出来る敵ではない。

 

 「ちっ、こりゃあやばいぜ。隊列を崩さないように撤退した方がいいぜフィナさん!」

 

 ウッドがフィナに向かって叫ぶ、だが彼女はタイタンから視線を外そうとしない。

 

 「私もそうしたいのはやまやまなんだけどね……。どうやらそうもいかないみたい」

 

 何を言っているんだ、とウッドが言いかけた瞬間、念話を通して全生徒に緊急連絡が入った。

 

 『現在迷宮上層部に数多くのボスクラスモンスターが発生しています!引率教員の指示に従い、素早くセーフティエリアに避難してください。教員は生徒の安全を最優先に!』

 

 「撤退しようにも、私たちの後ろにも何体かいるっぽいのよねぇ……」

 

 フィナの呟きにパーティに絶望が走る。

 このまま逃げて挟み撃ちになってしまえば全滅してしまうだろう。

 

 「オリヴィア、セイフティースペースまで一番早くたどり着ける道は?」

 

 それまで黙っていたカイが唐突に口を開く。

 

 「……このまま真っすぐ進むのが一番はやい」

 

 パーティの役割として道順を覚えていたオリヴィアがすぐに答えた。

 

 「フィナ、いま目の前の奴の先には他のボスクラスはいないか?」

 

 「えぇ、私の感知にはひっかかってない。……でも今も突然強大な気配が現れたから断言はできないわ」

 

 その言葉にカイが少しだけ黙りこむ。

 だがすぐに顔をあげパーティにある提案をした。

 

 「だったらこいつを倒してセーフティスペース目指すのが一番安全だろ。どのタイミングで出現するかまでは考えてもわからんしな」

 

 「あなたがそれを言うんですか……」

 

 リイナがカイに呆れた表情を向ける。

 フィナが言うならともかく、この中で一番戦力として不安なカイが言い出すとは思わなかったのだ。

 

 「私もそれに賛成。全く、何を怖じけついてるのかしら私ったら。それに丁度ゴブリンじゃ物足りないと思ってた所だしねッ」

 

 フィナが優等生とは思えない獰猛な笑みを浮かべる。

 そんな様子に他のメンバーも苦笑しつつ覚悟をきめたようだ。

 

 「俺たち結構チームワークいいしなんとかなるんじゃないか?やってやろうぜ皆」

 

 ウッドのかけ声に全員が頷き、戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 「オリヴィア、あいつの足を狙って。ミリアは目を!リイナ、ヒューズはメンバーの全員の防御を全力で。カイ、ウッド、私たちは前に出るわよ!」

 

 全員に指示を飛ばし、フィナが大きく前に踏み込む。

 大剣を大きく振りかぶり精霊の力がこもった斬撃を叩き込んだ。

 だが、タイタンの身体に攻撃があたる前に手に持った大斧で防がれてしまう。

 金属と金属がぶつかり合い空気を震わせる。

 

 「……そこ」

 

 だがフィナの剣を受けるために、足で踏ん張ったのが仇になった。

 片方に体重が偏ったのを見逃さず、オリヴィアが正確に膝を撃ち抜く。

 身体のバランスを崩されたタイタンはその巨体を壁にのめりこませた。

 

 「これでもくらえッ!」

 

 がら空きになったタイタンの腹に、ウッドが全力でハンマーを叩き込む。

 

 「ちっ、かってぇな……!」

 

 巨人のからだが大きくのけぞるが、止めを刺すには至らない。

 再び態勢を整えたタイタンが大斧を大きく振り下ろす。

 

 だが事前に準備をしていたヒューズが防壁を張り、なんとか斧を受け止めた。

 嫌な音をたてて防壁にひびがはいるが、その都度リイナが補強し続け持ち堪える。

 

 「今度はこっちの番だ」

 

 カイが槍を振りぬき、そのまま斧を持つ腕を切り裂いた。

 雄叫びをあげて斬られた箇所を抑えるが、まだ斧を握ったままだ。

 

 「しぶといな……!」

 

 流れる血もそのままに、タイタンがカイに向かって斧を叩き付けた。

 

 「危ない!」

 

 明らかに避けられない攻撃に、リイナが思わず悲鳴をあげる。

 だがカイは冷静に槍の穂先を斧に当て弾き飛ばした。

 

 「ミリア!」

 

 再び大きく隙を作り出したカイが後ろで構えていたミリアに声をかけ、間髪入れずに矢が放たれる。

 精霊術により必中の力を得た矢がタイタンの目をえぐった。

 

 「……カイ、あなたいまの」

 

 カイのとった行動にフィナが疑惑の目を向ける。

 

 「その話は後だ。今は目の前の奴をどうにかしよう」

 

 だが、カイの言葉にすぐ切り替え目の前で目を抑えて暴れ回っているタイタンに向き直った。

 

 「いい加減終わりにするわよ」

 

 フィナが手にした大剣を構え、集中力を高める。

 それと同時に契約した精霊の力が具現化して彼女の身体を眩い光が包んだ。

 

 「精霊顕現ッ!いでよフェルド!」

 

 フィナの叫びに呼応するように光が一つの形をとり始める。

 白い光を火花のように散らしながら、雄々しい獅子がフィナの傍らに降臨した。

 

 「死になさい」

 

 獅子が再び光に戻り、大剣へと纏わり付いていく。

 フィナは目の前の巨人に向かってまぶしく光る巨大な剣を大きく横にないだ。


 一閃。

 なんの抵抗もなくタイタンの身体が二つに裂かれる。

 フィナはそのまま断末魔をあげる暇すらあたえず、返す剣で首を飛ばした。

 巨人の身体が崩れ落ち、一瞬の静寂が訪れる。

 

 「やった……のか?」

 

 「えぇ、私たちの勝ちね。皆おつかれさま」


 呆然と呟くウッドに、フィナが剣についたタイタンの体液を振り払いながらこたえる。

 

 「まさか本当に倒してしまうとは……。さすが学園最強のフィナさんといったところでしょうか」

 

 リイナの言葉に首を振りフィナが皆に笑顔を向けた。

 

 「いいえ、私だけじゃなくて皆の力があったからよ。最後のアレ使うために時間稼がないと行けなかったしね。それよりも……」

 

 再びフィナが疑惑を込めた目でカイを睨む。

 

 「カイ、あなたさっきあの大斧を弾いた時精霊術使ってたわよね?」

 

 言い寄られたカイは露骨に目をそらすが、フィナが逃げる事を許さない。

 

 「いや、あれはその、なんというかだな」


 しどろもどろになりながらどう答えた物かとカイが考えていると、おかしな音が近づいてきている事に気がついた。

 

 「……ちょっとまった、なんか変な音がきこえないか?」

 

 「そうやってごまかそうとしても無駄……え?」

 

 突如、迷宮の壁や床に大きなヒビが入る。

 

 「……ッ!皆セーフティエリアにむかって走って!早く!」

 

 フィナが叫ぶのと同時に足下に大きな穴があいた。

 

 「フィナ!」

 

 穴に落ちたフィナを追ってカイが飛び込む。

 彼女が咄嗟に伸ばした手を掴み、一緒に穴の中に落ちていった。

 

 「カイ君!フィナさん!」

 

 リイナが急いで二人が落ちていった穴に近づくが、まるで生き物のように床が塞がっていく。

 既に穴はほとんど塞がり後を追う事はできず、残されたメンバーたちは呆然と底に立ちすくむしかなった。

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