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未成年飲酒の場面がありますが、作者が推奨しているわけではありませんのでご了承ください。お酒は20歳から。



 ※※※



 後ろめたさが拭えない。

 特別棟の屋上からは授業風景が丸見えだ。

 他の誰かが放置していったコンビニ袋が足にまとわりつく。かかとに張りついて離れない袋を、足で踏んだ。暴れるようにガサガサと音をたてるのがわずらわしくて、思いっきり蹴って空に飛ばした。

 入学してから二ヶ月が経つ。同じ顔をした双子は、やはりここでも見世物になった。似てるね、なんて話の切り口はもうウンザリだ。智大と同じクラスにならなかったことは救いである。あともう一つ、救いをあげるとしたならば……。


「またここか。屋上は立ち入り禁止」


 鈍い金属音が聞こえてきたと同時に、背後から声をかけられる。

 振り向かなくてもわかった。色気のない男っぽい口調で話しかけてくるのは、もう一つの救いである彼女しかいない。


「鍵あいてるほうが悪いんだよ。それにお前も同罪」


 高めの手すりに手をかけ、グラウンドを見下ろしながら答える。隣に並んできたのは小学校からの腐れ縁で同じクラスの、中原望美だ。

 今どきの女子高生らしくなく、化粧っ気はまったくない。外はね気味のショートカットもなんの手入れもしてないそうだし、中学時代はバスケ部の部長をしていたせいか姉御肌だ。なにより、男にも怖じ気づかない根性が気に入っている。そういえば、仲良くなったきっかけは、小学生のときに訳もわからずいじめられていた裕介を、彼女が助けてからだった。そのころから肝は据わっているらしい。


「そろそろ真面目に授業受ければ? これ以上成績下げたら退学になるよ」


 中原は夏服になってむきだしの両腕を手すりにのせ、今授業をしている自分のクラスを指さした。裕介は余計なお世話だ、とばかりに相手を睨みつけ、手すりに背中をあずける。

 進学校でもあるこの私立高校は毎月テストがあった。復習も兼ねているテストだから、きちんと授業にさえ出ていれば簡単に解ける問題ばかりだ。

 けれど、智大と比べられることに耐えられなくなった裕介は、入学して二週間でサボりはじめた。一度出なくなった授業は行きにくくなる。テストの時は出席するが、他はほとんど行かなくなった。

 当然、テストの点数はボロボロで、親にも見せてはいない。中原は、裕介が手に持っているのをのぞき見たから知っているのだった。

 裕介は授業が嫌いなわけでも、先生が苦手なわけでもない。むしろ好きなくらいだ。新しい環境で新しいものを吸収して、確実に成長していると感じられるのは気持ちが良い。いやなのは、智大と比べられていると感じる自意識の過剰反応である。

 授業で当てられ、黒板に答案を書いたり文章を読んだりするのは、いつだって緊張をともなった。間違ったら、智大の弟なのに、正解しても、智大の弟だから、と思われるのが恐い。

 自分でも驚くほどの臆病さに嫌気がさす。

 その考えから逃げるようにして口を開いた。


「今日クラブ行くけど、お前どうする?」


 数週間前から通いはじめた治安の悪そうな娯楽場。過干渉してこない奴らとは案外居心地が良かった。そのために私服を持ってきてある。


「あんたが心配だから、ついていってやるわよ」


 ため息と共に押しつけがましい台詞に小さく笑った。笑えば、少しでも気分が明るくなるかと思ったのだ。

 けれど、放課後になってクラブに来ても憂鬱は晴れない。クラブの脇にあるボックス席で、水割りの注がれたグラスを手の中で遊んでいた。耳障りな機械音と、煙草のすえた匂いが鼻をつく。

 中原の機嫌が悪いとか、酒を飲まされているからとか、そんな単純なことではない。

 クラブの連中と学校に通っている生徒。性質は真逆なのに、裕介の立っているラインはあまりにも曖昧だった。

 遅刻することなく学校に通うのに、授業には時々しか出ない。そのくせHRには出席して、出ても出なくても最後の授業が終わってから校門をくぐる。

 不真面目になりきれないのか、不真面目になりたくないのか。白黒はっきりさせたい裕介にとって、曖昧なことほど嫌なものはない。けれど、学校をサボってばかりいるクラブの連中と、肩を並べたくないというプライドもあった。

 ここ数日、悩みすぎてよく眠れない。悩んでもすぐに考えをそらすことに集中するくせに、一丁前に悩んだふりをするからこうなる。

 考えたくなくて、水割りを一気に飲み干す。周りにはべっている女が歓声をあげて、またアルコールを注文しに行った。

 手に残ったグラスを目線の高さまで掲げると、赤や黄色の照明がが氷に乱反射して視界を光で埋め尽くしてくれる。ここではない違う場所にいるような気さえした。

 グラスをもった手を膝の上に置くと、光の残像の向こう側に無言になっている中原がいた。

 心配そうな視線とぶつかり、急に苦しくなって目をそらす。

 裕介の見つめたくない現実を、彼女は見ていた。








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