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6年前に書いた作品です。
お楽しみいただければ幸いです。
壇上で新入生代表挨拶をしているのは誰だ。
鏡に向かっているかのような感覚は、十五年間とらわれ続けてきたものだ。
一七〇センチを少しこえるくらい身長で、高いとはお世辞にもいえないが、小さな頭と長い手足のおかげか、低いとも言われたことはない。額にかかる黒髪は、輪郭をシャープに見せている。
そんな自分とまったく同じ容姿をした男が、型にはまった文章を読み上げていた。
指先が震えているのは、体育館の空調がきいていないせいではない。少し大きめに作ってあるブレザーの袖ごと、手のひらを握りこんだ。
緒方裕介は出し抜かれたという思いと、悔しい気持ちとが入り混じった複雑な心境だった。まさか同じ学校を受験していたとは知らなかった。
隣に座っている同級生になる男が、壇上と裕介とを見比べている。その視線があまりにぶしつけで、きつく睨みかえすと相手は慌てたようにうつむいた。
好奇の視線には慣れているはずだった。双子だというだけで周りの人間は集まり、違いはどこなのか顔を覗きこまれ、以心伝心できるのかしつこく聞かれたりもする。
注目されるのを喜べたのは小学生までだ。
裕介は努力をしなくても勉強ができた。授業を聞いているだけで理解できたし、宿題をためこむ苦労も知らない。反対に、兄は努力を積み重ねるタイプだった。真面目、優しい、頼りになる。成績は裕介より下でも、いつだって人気ものだった。
劣等感を感じずにはいられない。そんな日々は、中学で終わりのはずだったのに。
それを目の前で崩された。
新入生代表挨拶は、受験での成績が一番良い人が選ばれる。
性格では勝てない。成績も今では兄のほうが上。だったら、裕介はなにで勝負をしたらいいのか。なにで存在を認められればいいのか。
「新入生代表、緒方智大」
よく通る凛とした声が、そう締めくくる。傍らの台座に飾られた大ぶりな百合が、彼の清廉潔白ぶりを表しているようでイライラした。こんな気持ちを抱えているのは裕介だけに違いない。なにも知らないから、あんなにも笑顔を振りまけるのだ。
四方から響いてくる拍手が冷えた空気を温める中、智大の視線が自分に止まる。
挑むように見つめると、なにを勘違いしたのか、彼はさも嬉しそうに鮮やかな笑みを浮かべたのだった。