ファーストキスの相手はリトルグレイ!?
「……気持ち悪い」
中学生のとき、私は告白した相手に拒絶された。ただ同じ性別というだけで。
思えば私が恋をするのはいつも女の子だった。
男の子はかっこいいとか可愛いとか思わないことも無いけど友達にしか思えず、何か異質な感じさえする。
私は高校生になってから今度こそ男の子と恋愛をしようと意気込むも好きになったのはやっぱり女の子。
ただ幸か不幸かその子には思いを寄せる男の子がいた。その男の子も彼女を大切にしているのが解る。
私はこれからも女の子に恋心を抱き、その度に拒絶される可能性に怯えなきゃいけないのか。
私は夜、雑居ビルに忍び込み屋上に上がった。桜も散り始めたというのに吹き付ける風が嫌に冷たい。
ま、どうでもいいか。
私はフェンスに足をかけるとがしゃがしゃと音を立てながら上る。
フェンスの裏に立ち、軽く深呼吸をするとあえて下を見ずによしっ。と一声上げて宙へと身を投げ出した。もし下敷きになって巻き込んじゃう人がいたらごめんなさい。
でも、そうはならなかった。なんだろう。私が墜落した先はマットとも違うし他人の上でもない。例えるなら弾力性のあるスポンジみたいな感じのところだ。
見渡すと私は巨大なドラ焼きの上にいるのが解った。でもそれがドラ焼きではないのは時々色んな形の光が表面をアトランダムに走っているので違うと解る。大体目測で10mのドラ焼きが宙に浮いてるなんて普通に考えて有り得ない。
しかも前方に四角い穴が開き、そこから全身銀色でやけに大きな黒い目を持ついかにもな宇宙人がせりあがってくる。う、宇宙人……なの?
確かリトルグレイとかいうやつだったと思う。そいつはなにやら口を動かし聞き取れない音を発したかと思うと私の後頭部を左手でわしづかみ、自分の顔へと引き寄せた。私の唇にひんやりと柔らかい感覚が広がる。どれくらいそうしていただろう。唇を離すとそれは日本語を話し出した。
「初めまして。■■■■■■と申します」
誰よ。
「ああ。私の名前はここでは認識できない発声のようですね。ええっと……ミケモチャン。と言ったところでしょうか?」
「いや、聞かれても。それより先に言うことがあるよね?何勝手に他人のファーストキス奪ってるのよ」
「死のうとしてたみたいだから別にいいかと……それと出来ればあなたのお名前を知りたいんですが」
痛いところ突くわね。私はため息を吐いてから私は自分の名前を教えると宇宙人?は銀色の覆面をぬぎ、紅い目が印象的な銀髪の少女の顔を現した。……って着ぐるみかよ。
「この星の大気組成は私の住む惑星と酷似していますので宇宙服は要らないと判断しました」
ああ、そうですか。それにしてもきれいな顔してるなあ。結構好みかも。
「この顔はこの惑星の平均の顔の筈ですが……」
「うそ……でもないか。確か美形って言うのは人の顔から特徴を全て取り去った顔のことだって何かの本で読んだことがある」
実際問題、不細工な人って顔に特徴がありすぎるからね。
「この星には袖振り合うも多生の縁と言うことわざもありますし……どうです?私と生きてみませんか」
「宇宙人が何でそんなこと知ってんのよ」
「さっき粘膜に接触してそこから情報を閲覧しました。この宇宙服の機能の一つなんですよ」
「……何なのよ。その珍妙なテクノロジーは」
ミケモチャンはUFO(モンプチと言うらしいが「あなたにはそう聞こえるんですね」と言っていたから正確ではないだろう)をディラックの海とかいうよく解らない所に収納すると私の家まで付いてきた。こんな時間になったのを含めてお母さんに何て言おう。
「どうしたんですか?ここじゃないんですか?」
「ここなんだけど……どう切り出したものか」
「飛び降りて死のうとした人が何を言ってるんですか。人間死んだ気になればたいていのことは出来ますよ」
またもや反論できないことを言われた。私は「はあっ」とため息をつくと鍵を開けて中に入る。
「お帰り。こんな時間まで何をやってたの?」
「お母様。いつからそこにいらっしゃたのでしょうか?」
待ち受けていたかのように怒気を隠す様子もなく腕を組んで仁王立ちで立たれては敬語も出ようというものだ。
「この方があなたのお母様ですか」
ミケモチャンはそう言うと母に深々と頭を下げた。
「すみません。私のせいです。私宿が無くて彼女の家に泊めてもらえるようお願いしてたらこんな時間になっちゃって……」
「そう。あなたがウチに……て、ええ!?」
お母さんは物凄くびっくりしてる。そりゃそうだろう。一緒に住むとしたら生活費やら何やらが大変なことに。
「もちろんただとは言いません。これを差し上げます」
そう言うとミケモチャンはお母さんに銀色の地球儀みたいなものを手渡した。
「純度100%プラチナ製の天球儀です。私の滞在費ということでご自由に売り払ってください」
「あなた……名前は?」
「ミケモチャンです」
「ようこそ、ミケモチャン様!むさ苦しいところですがどうぞ中へ!」
歓迎されたよ。まあ、あんなに大きなプラチナの塊渡されたらそうなるか。後でミケモチャンに聞いたところあれはプラチナが地球でいうところのアルミニウム程度の価値しかないところで作られた天球儀だそうだ。
だから地球では破格だけどその惑星ではかなりの安物だとか。
逆に1円玉1枚でミサイルが1基買えちゃうぐらいアルミニウムが希少な惑星もあるらしい。
宇宙って、広いね。
それはさておき、危うく私とミケモチャンで食事の差が出るところだったが「いつ滞在期間が終わるのか私にも解ってませんからお二人と同じでいいですよ」と言ってくれたお陰でそうならずに済んだけど……。
お母さん、そりゃないよ。
空いてる部屋が無いということでミケモチャンは私の部屋で一緒に寝ることになったので色々聞いてみることにした。
知的好奇心ってやつだ。
「ミケモチャンってどこから来たの?」
「地球人が言うところのアンドロメダ銀河です」
「どうやって地球に来たの?宇宙って光が何十年何百年とかけて進むぐらい広いんでしょう?」
「超ヒモ理論って知ってますか?それを使えばおよそ254万光年離れた地球にだって短時間で着いちゃうんですよ」
「名前くらいは……」
「地球にも駐在員がいて超ヒモ理論を用いた通信機で地球の情報を発信してるんです」
こんなにぺらぺら喋ってるってことは重要な任務というより観光というところだろうか。でも何の目的で地球に来たのか聞くのは怖い。
人をさらうためとかだったら目も当てられないし。
朝起きたら私の体がキャトル何とかされてたら笑えないしなあ。
「……?どうかしましたか?」
「ううん。何でもないよ」
「もしかして襲われるんじゃないか……とか?」
え?あんた人の心読めるの?でもそう聞くと違うと言う。カマをかけられただけらしい。
「うーん。地球人との性交渉ですか。まあ興味は無くも無いですね。あなた私のタイプですし」
襲うってそっち!?確かにキャトル……あ、そうそう。キャトルミューティレーションは微生物の仕業らしいけど私女だよ?
いや、お前が言うなって自分でも思うけどさ。
動揺する私の表情を見て不思議そうな顔をしていたが同性相手にそういうことをするつもりなのか聞くと彼女はふと思い出したらしい。
「ああ。そう言えば地球にはまだ男がいるんでしたよね」
ミケモチャンの星では男は100年ぐらい前に絶滅したそうだ。それも戦争とかではなく自然消滅で。
なんでもY性染色体が長い年月をかけて磨耗して男が生まれなくなっていき、とうとう女しかいなくなったんだとか。
いいなあ。異性と恋をしなきゃってプレッシャーがなくて。
「どうです?私の星に来て一緒に生きてみませんか?」
ちょっといいかもと思ったのは内緒だ。
月明かりだけが覗く私の部屋の中でミケモチャンと私の唇が重なる。
宇宙人っていい匂いがするなあ。この子だけかもしれないけど。